使える戦略思考
-ダイナミックな競争優位創造のマーケティングエクステンション
第1回 戦略の起源と本質

2004.09 代表 松田久一

本シリーズの目指すべきところは「自分で戦略を組み立てるようになる」ということです。戦略思考を学び使えるようになりたい人のために解説をします。

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4.日本的経営と戦略

 「戦略とは何か」ということについて、日本では従来どう考えられてきたかというと、面白いことがいくつかあげられます。

(1)

戦略を使わない伝統 -「坂の上の雲」にみる戦略

 「戦略を学ぶなら司馬遼太郎を読め」。そういうことがよく言われますが、実際に経営者は「坂の上の雲」が好きです。「坂の上の雲」を読むと、弱小日本がどうやって生き延びていくか、ということを必死になって考えます。具体的には日露戦争の中で、資源のない日本がどうやって生き延びるかということを、秋山好古とか秋山実之(1868-1918年)、正岡子規(1867-1902年)という松山に生まれ育った3人の子ども達の成長をトレースしながら描いています。そういう意味で、司馬遼太郎というのは「坂の上の雲」の中で、どうやって生き残れるかということの目的合理性をどうやって追求するかということを描いています。歴史ドラマで「坂の上の雲」という目標に到達するためにどうしていったらいいのか、という戦略を考えることです。つまり「坂」がこれから行く環境であって、「雲」が目標です。これから登っていく坂道は大変で、その坂道を登って行ったら雲がつかめる。これがパースペクティブ(展望)としての戦略ということです。

 面白いことというのは、司馬遼太郎は戦略という言葉を一切使っていないということです。私の知っている限りでは、戦略に対応するものとして戦術という言葉を使っています。加えて、実際に秋山が書いた本にも戦略という言葉は一切出てきません。全部、戦術という言葉を使っていますが、それは表面的に「日本は戦略がない」、ということではありません。使わなかったのは、戦前の武人文化だったからでしょう。先に述べたように、戦略思考は目的手段関係の明確化です。上位目的を戦略、下位手段を戦術と考えればいいのですが、本当は固定的ではありません。また、上位目的は政治目的となり、軍人の関与する領域ではありません。従って、自分は下位目的の戦術を考えているのであって、戦略はもっと「天才」や「偉い人」がお考えになることだ、とハードな軍人の階層社会では気を軽くしたかったのでしょう。司馬さんもそんな気分を共有しているようです。その結果、戦略というものはオープンに出すものではなく、「偉い人」や「天才」がわかっているような雰囲気を醸し出してしまったのでしょう。残念ながら誰も考えていなかったということは現代企業にもよくあります。これだけ業績が悪くなっているのだからきっと偉いスタッフが凄い逆転戦略を考えているに違いないと思い込んでいたら、みんながそう思っていて誰も考えていなかった、という事はよくあることです。従って、いい会社は社員ひとりひとりが自分の会社に統治意識を持って戦略を考えているようなところがあります。

[2004.09 MNEXT]

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