見えない需要への顧客接点の再構築
消費社会白書2012巻頭言

2011.12 代表 松田久一

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 2011年は、「バブル崩壊」から20年、そして、「東日本大震災」の年であった。

 この大震災によって「価値観や考え方に影響を受けた」と思う人の比率は71%に上る。しかし、価値意識の変遷を時系列でみると、個人主義的な「自己実現志向」は継続的に低下し、「家族や身内」への帰郷が緊急避難的に始まっているに過ぎない。顕著な変化や新しい方向性はまだ見られない。

 ただ、震災が新しい世代の価値意識に影響を与えたことは確かだ。1995年の「阪神淡路大震災」についても、現時点で、影響を受けたと思う人の比率は62%である。この震災の時に、価値観を形成し始める中学2年生(14才)や将来の進路を決める高校2年生(17才)だったのが1980年前後の生まれの「バブル後世代」である。

 震災から15年、彼らがもたらした新しい変化は「嫌消費」である。将来に悲観的で、晩婚化志向が強い。消費水準が低く、クルマやAV家電などローンを組んで購入するような財よりも、日常の身の回りの商品やサービスを選好し、社会変革への関心は低い。

 アメリカでは、1980年以降に生まれ、21世紀に成人を迎えた世代、「新世紀(ミレニアム)世代」は、日本の同世代とは対極の価値意識を持っている。将来を楽観的に考え、早く家庭を持ち、よき両親になることを望み、社会変革への意欲が高い。同じ時代に生まれながら日米の価値意識がここまで対照的なのは、彼らの育った環境が、日本ではバブル崩壊後だったのに対し、アメリカではITで躍進したクリントン時代だったという差である。

 この日米での違いは、時代が新しい世代が生み、また、世代交代によって時代が変わっていくことを示している。一方、ひとつの世代の特徴が時代精神となることもある。例えば、バブル後世代の嫌消費は、震災後、全世代に波及し浸透した。なぜなら、彼らの消費スタイルがもっとも「スマート」に見えるからである。

 「スマート」消費が加速する中、震災後に大きく拡大したのは、売り手と買い手を結ぶ顧客接点のミスマッチである。現実には、顧客接点の綻びがいたるところで眼につく。これまでの個人主義的な自己実現スタイルとは違う新しい生活スタイルが見えてこない。見えない欲望は店頭での衝動買いとして現れている。いつもベストを追求する消費者のブランドロイヤリティは顧客満足だけでは形成できない。

 組織小売業が主導してきた消費者の利用チャネルも、都市型スーパーの出現とインターネットショッピングのシェア拡大によって「次の業態」への模索が始まった。震災報道で信頼感を大きく落としたテレビメディアに代わり、売り手と買い手を結ぶメディアも変わった。ソーシャルメディアの普及によって新しいコネクションが増え、口コミ、マスコミとともにメディアの使い分けが進み、インナーグループ(身内)化が進んでいる。

 辻褄合わせの制度疲労のマーケティングから、新しい顧客接点の再構築への挑戦。まずは、消費者の「こころの見える化」(Consumer Mind Visualization)から提案したい。

[2011.12 消費社会白書2012]