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I.消費社会をどう読むか
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2.消費リーダーを斬る
エリア変動が生み出す「新中流層
代表 松田久一

 中流社会が崩壊し、階層化、格差化が喧伝されている。「下流」「富裕層」といった議論である。格差の拡大は今後も進むのであろうか。確かに1990年代以降、年功序列、終身雇用といった日本的経営が崩壊し、実力主義賃金体系の導入などによって格差化がすすんだ。しかし、現在は格差拡大に歯止めをかける兆しが出ている。非正規社員の正社員化、長期雇用への回帰、ベースアップ、人づくりへの投資など雇用市場の変化である。これまでよりも格差が縮小し「新中流層」とでも呼べる新たなリーダー層が生まれようとしている。
 中流社会が崩壊し、これからどんな社会になっていくのだろうか?長期的な変化の方向を探ってみる。
一億総中流と言われた「だんご型」の中流社会は1980年代以降、価値観の多様化によって「八ヶ岳型」の多様な格差社会を生み出した。さらに1990年代後半以降は日本的経営が崩壊し、収入資産格差が拡大して、「下流」、「富裕層」が注目されるようになった。   
 これからの社会は、雇用市場の変化を引き金に格差は縮小し、ある程度の上流、下流を残しながらも「おむすび型」ともいえる構造に変化していくとみることができる。そのなかで注目すべきは、中流崩壊のなかで勝ち残り、現在の消費をリードしている「新中流層(中の上)」である。
 世間で注目されている「富裕層」は、一般的な定義である金融資産約1億円以上とすると約138万人(メリルリンチ調べ)、人口の1%に過ぎず、マーケティングのターゲットには到底なりえない。「新中流層」の人口は約17%を占め、ターゲットマーケティングを効果的に展開できる規模を有している。我々の調査でも2005年以降、収入ベースでみた下流層拡大に歯止めがかかり、「新中流層」が拡大しつつあることが確認できている。

■ 「新中流層」の誕生


 この「新中流層」が、エリア変動によって移動している。地域経済格差が人口30万人以上の都市への人口移動を生み、「新中流層」が増加している。そのライフスタイルは、これまでの郊外、ファミリー、核家族といったものとは異なる。「新中流層」には都市型と地方型のふたつのタイプがあり、都市型を先行指標にして、エリアごとに異なるマーケティングアプローチを推進することがポイントとなる。

 以下のコンテンツは、弊社代表松田が執筆、「販促会議」2007年5月号に掲載されたものに加筆修正を加えたものである。

伸びる地域と沈む地域
 47都道府県や都市などの様々な地域区分でみた収入などの経済格差は拡大している。地域経済の担い手である企業や産業がグローバル競争にさらされ、需要のベースとなる人口が変動しているからである。強い企業や産業がある地域はますます発展し、他地域からの流入によって人口も増え、より豊かになる。逆に、弱い企業や産業の地域はさらに衰退し、人口も自然減少と流出によって減少し、ますます貧しくなる。このエリア格差の拡大は企業にとっては大きなチャンスであり、また、脅威でもある。これをチャンスに変えるには、エリアごとに対応することが必要である。
 エリア格差を見極めるポイントは、基本的には地域の企業や産業のグローバル競争力であるが、単純には人口規模である。
 現在の日本の人口は約1億2,770万人であり、およそ751の行政区分上の都市に約85%が暮らしている。人口は2030年までに約1,000万人が減少すると推計されている。この人口減少がもっともインパクトを与えるのは全都市数の約90%を占める30万人未満の680都市である。30万人という規模は、医療や教育などの公共サービス、水道や光熱などのインフラ等の最適規模である。従って、人口30万人に満たない都市は、人口の自然減少によって財政破綻などに陥り、公共サービスの提供水準を下げるか、サービス価格を上げるか、税負担を重くしたりするしかない。その結果、地域の厚生水準は低下し、他地域への流出を促進することになる。人口30万人未満の都市は常に人口減少が人口減少を呼ぶ悪循環の危機にさらされている。つまり、人口減少時代に生き残れる必要条件は人口30万以上であり、その数はわずか71都市である。
格差が生む新しい富裕層と移動
図表1.都道府県別高額納税者数と預貯金額【抜粋】
図表をクリックすると全体が別画面で表示されます
 伸びる地域と沈む地域の動向は、様々な統計で知ることができるが、もっとも単純な指標は「富裕層」の分布である。伸びる地域では「富裕層」が誕生し、他地域の「富裕層」が流入してくる。さらに、これらの地域で最初にビジネスチャンスを生むのは、流行や情報に敏感な「富裕層」の人口増減や動向である。
 納税額1,000万円以上の推定年収3,500万円以上の「富裕層」の分布を47都道府県で見れば、東京、神奈川、大阪、愛知、埼玉の順である(図表1)。愛知が大阪と肩を並べているのは強い自動車産業などを背景にしているからである。この5都県で約60%を占める。
 東京では、田園調布、成城や世田谷などが「富裕層」の居住地域イメージとしては高かった。しかし、現実に、町丁レベルで見ると、高額納税者がもっとも多いのは、2003年に街開きした「六本木ヒルズ」のある「六本木6丁目」と2002年に完成した「元麻布ヒルズ」のある「元麻布2丁目」の2エリアである。この小さな地域におよそ281人の「富裕層」が居住している。田園調布の倍の人口密度である。しかも、東京の郊外や地方からこのエリアに「富裕層」が集中するようになったのは、街開きや開業年でわかるようにここ数年の出来事である。
 同様の変化は全国でも起こっている。地域の経済格差が特定地域への人口移動を生み、「富裕層」が増え、地域経済が活性化される。全国的に見れば、地方から東京への人口移動が起こり、東京内での地域格差が生まれ、地方では人口30万人以上への都市への集中が起こり、地方郊外が衰退していく。こうした変化や移動の先駆けとなっているのが「富裕層」である。
 しかし、こうした「富裕層」は人口の1%に過ぎず、マーケティングのターゲットにはなりえない。本当に狙うべきターゲットは、中流の崩壊のなかで勝ち残り、高収入で消費意欲の高い「新中流層」と呼べる消費リーダーである。エリア格差をビジネスチャンスに結びつける鍵はこの層を捉えることにある。

 

「新中流層」へのアプローチ
図表2.ふたつの「新中流層」へのアプローチポイント
 「新中流層」へのアプローチを検討するために、「新中流層」を統計的に把握可能な世帯年収1,000万以上の年収上位17%の層として捉え直してみる。また、この層を、人口30万人を基準にして都市型と地方型に分けてみる。伸びる地域と沈む地域の新中流層のアプローチ上の共通性と違いを明確にするためである(図表2)。
 共通点は、商品サービスの情報ソースが多く、実物接触に重点を置き、マイナス情報も組み込んでいることである。特に、一般層と比較すると、テレビや新聞などのマスメディアの比率が低く、店頭などの実物接触が多く、インターネットを含めて多様な情報ソースを活用している。さらに、説得情報に関しては、売り手の一方的なプラス面だけでなくマイナス面を含む両面情報が重視される。
 違いはふたつある。ひとつめは、都市型は、商品サービスそのものの価格だけでなく、入手に必要な手間や時間などの機会コストが強く意識されていることである。年収1,000万円の層は時給が約6,000円になる。希望小売価格1万円程度の欲しい商品サービスの入手に1時間を要するならば、実質の価格は1万6,000円になる。都市型は常にこのコスト意識がつきまとっている。他方で、地方型は、機会コスト意識は低く、実際の購入価格が重視される。このような機会コスト意識の違いは、株などのリスク資産の運用意識の違いを反映している。都市型が、より高いリスク資産の比率が高く、リスクをとることによって短期に収益を上げる時間志向であるのに対し、地方型は、低リスクの預貯金などの資産が多く、リスク回避によって長期に資産を守る安定志向が強いからだ。
 ふたつめは、都市型は、新しい機能やスペックを重視し、ブランド志向が高く、百貨店や専門店の利用が多く、宅配ケータリングなどのサービス比重の高いチャネル利用が多い。地方型は、ブランドやヒット商品などの流行に弱く、追随意識が強くみられ、購入は総合スーパーやホームセンターが中心チャネルとなっている。つまり、都市型が新製品やブランドのイノベーターであり、地方型がフォロワーである。
 エリア格差をチャンスに変えるには、伸びる地域に密着し、その地域の顕在的及び潜在的な新中流層をターゲットに、ふたつのタイプに分けて、都市型を先行指標にして異なるアプローチをすることが必要である。さらに、コスト意識やリスク意識に応じた説得の方法を開発し、実物接触に重点を置いたメディアミックス、最適なチャネルミックス、そして、これらの統合が、新中流層を攻略するポイントである。
[2007.04]

*このコンテンツは、宣伝会議「販促会議」掲載の原稿に加筆修正を加えたものです

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