「おにぎり」が教える日本の消費

2004.03 代表 松田久一

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 このコンテンツは、弊社海外版Webサイトにおいて海外への紹介を目的として制作された英文コンテンツを抄訳したものである。おにぎりを通して日本の消費者と消費行動について歴史的文化的背景から独自の解釈を試みたもので、日本の消費の特徴を捉えて多くの示唆を含んでいる。

 毎日1,000万個を越える数の「おにぎり」が日本のコンビニエンスストアで売られている。年間販売額はコンビニなど食料品取扱店を含めて約4,000億円に達する。

 おにぎりは、幅広い年代の人に親しまれ日本人の主食となっており、おにぎりを通して日本の消費者特有の消費行動やこだわりについて知ることができる。

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母のつくるおにぎりが消えた

セブン-イレブンのおにぎり
図表

 およそ40歳以上の人ならば、朝、お昼のお弁当におにぎりをにぎる母の姿をなつかしく思い出すことができる。中高年層にとっては、おにぎりは母の家庭料理の味やにおいのイメージを喚起させる。しかし、おにぎりは彼らに限らずどの年代層にとっても親しみをもたれている。若いビジネスマンや学生にとっては、時間をかけない手軽なランチの代表として、例えば、おにぎり2個とペットボトルの飲料に、パックされたサラダ、という具合である。

 最近は、主婦が日常的におにぎりをにぎることはほとんどない。むしろ、彼らは近くのコンビニで買ってくる方を好む。これにはふたつの理由がある。ひとつは朝に時間にゆとりのない有職主婦が増えていること、もうひとつは、今はコンビニで売っている大量生産された鮮度のいいものを買ってくるより家庭でつくる方がよっぽど高くつくことである。

 最初のうちは、店で売られるものとホームメイドのおにぎりは消費者の「食」をめぐって競合していたが、事態は変化した。1970年代にはじまって、大手コンビニ各社がロボットとベルトコンベアーによる「おにぎり工場」をつくり、日本のどこの家庭でもつくられていた人気アイテムをつくる役割をすっかり代替してしまった。

 「おにぎり食品加工産業」は今、日本の最大の「中食」食品製造業になっている。そしてメーカーと主要販売チャネルであるコンビニをはじめとする大手チェーンストアの売上に大きく貢献している。さらに、ソウルや上海でコンビニが急拡大するのに伴って、アジアにおいてブームをつくりつつあり、急速にグローバル化が進んでいる。