情報差異性によるソフトパワー戦略

2003.04 代表 松田久一

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ソフトパワーの転換

 90年代はグローバル化の時代であり、アメリカの黄金の時代であったことは誰しも頷かざるを得ないだろう。その背景に、冷戦構造の崩壊によってロシアが凋落し、アメリカが圧倒的な軍事力を持つに至ったことも言うまでもない。同時に、グローバルな規制緩和の流れを主導し、情報通信技術と金融革命を武器に、経済力においても圧倒的な力を発揮したことも知られている。しかし、こうした北風のようなハードなパワーだけで超大国となった訳ではない。寧ろ、暖かい光を差し伸べるソフトパワーの威力が凄かった。21世紀に入ってそのアメリカのソフトパワーの勢いが変わり始めている。

 法の支配と執行力のない無政府システムの状態になんらかの支配力を形成していくためにはパワーを必要とする。そのパワーには、軍事力などのハードな力と情報、知識や生活様式などのソフトな力がある。後者がソフトパワーと呼ばれるものである。90年代はアメリカのソフトパワーの全盛時代でもあった。「コーラ」、「ハンバーガー」、「ディズニーランド」、「ジーンズ」、「ハリウッド映画」等に象徴されるアメリカ文化である。これらの商品サービスで形成されるアメリカ的な生活様式が、中国、韓国、東南アジア諸国等の中流階級の欲望対象となり、アジアにも世界共通のスタンダードな習慣として根付いた。

 90年代のアメリカ経済の黄金時代は、ハードパワーよりもソフトパワーによってもたらされたと言ってもよい。21世紀に入り、このアメリカのソフトパワーが凋落し始めている。この傾向は随所で見られる。日本のソフトドリンク(清涼飲料)市場で成長しているカテゴリーは、「水と茶」であり、緑茶と中国茶が約40%の市場シェアを占める。ハンバーガーも勢いがない。「マクドナルド」も世界市場への出店拡大から店舗縮小へと転換した。カジュアル衣料で成長した「GAP」や「リーバイス」の業績も芳しくない。さらに、エンタティメントの領域でも、スケールが大きく分かり易いハリウッド映画の多様化が始まっている。「千と千尋の神隠し」が映画賞を席巻し、「AKIRA」や「甲殻機動隊」等の作品がアメリカに日本以上のマニアを形成し、人気ビデオゲームの「バイオハザード」も映画化されている。

 明らかに、アメリカのソフトパワーが失速し始めているのである。なぜ、勢いを失い、どこに向かおうとしているのだろうか。茶飲料市場からこれらの背景を探ってみる。