情報差別化で売る

2003 代表 松田久一

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 消費拡大の主役が静かに交代している。専門家が期待する高齢層や団塊女性は、消費を「浪費」だと思いこんでいる。20代も人数が減少してはパワーにならない。他方で、主に金融資産だけで約4億の資産を所有している「ミリオネア」が約120万人いる。都内の高級住宅街として知られる広尾、麻布が立地する港区は人口約8万5,000人である。港区の約14倍、山形県と同じ人口である。恐るべきバイイングパワーである。彼らは、医者、弁護士などの類ではない。労働日に制限のある弁護士や不良債権に苦しむ医者、リストラで給与削減された大企業経営者などではない。金融資産の運用に長けた眼に見えない高額納税者だ。東京都心は人の住めない所から安心して生活できるところへと変貌を遂げている。足下を見れば、顧客本位の小売経営のはずが膨大な顧客の接客・応対不満だ。顧客の商品サービス購入時のコンビニ・スーパーなどでの不愉快体験率は年平均約2回で約70%だ。不満ならいいが、「不愉快体験」である。過剰店舗競争のなかで、不満程度のオペレーション能力で十分に小売に参入チャンスがあるという皮肉な現実である。

 新しいターゲットの設定と新しい売りの仕組みをどう創るかが問われている。答えは、情報による差別化だろう。情報ディファレンス、情報的プロモーション、コミュニティ、新しい事業アーキテクチャ、都市再集中がキーワードだ。商品サービスは物の塊ではなく情報と一体となったものだ。ブランドは宣伝や体験で創られるものではなく価値の共同体だ。ものづくりの本質は生産システムをモジュール化し、アウトソーシングすることではなく、いかに内製化し再統合するかだ。全国一斉出荷中心の均一の資源配分も無駄だ。顧客がいない。

 情報のマーケティング、情報による差別化で売れるチャンスはいくらでもある。安くしないと売れないと思いこんで人員削減に走り、社員への権限委譲ではなく「抑圧」委譲を繰り返している企業には見えない。社員という差別的情報の源泉を失い、売る気のない社員が増えて、抑圧の最終受け手である顧客の不愉快体験になり、ブランド価値を喪失し、ますますコスト削減をせざるを得なくなる。情報喪失の悪循環である。

 売り手が農業や工場などの作り手に売る時代ではない。就業人口の産業構成から見れば売り手がプロの売り手に売る時代である。プロが説得されるのは情報と売る気のある新しい仕組みである。