不況回復の消費をリードするのは価値敏感層

1994.04 代表 松田久一

 93年度が、企業にとって、不況の最悪の年であったことは言うまでもない。不況の話など耳にタコができるほど聞いている。回復の材料がなかなか聞こえてこないのも、今回の不況の特徴のひとつかもしれない。

 一体、どんな層が消費回復の鍵を握るのだろうか。この不況下で、ヒットした商品がある。業界平均以上の業績をあげている企業がある。世の中の平均的な見方では、不況下で売れているのは、半値商品だけだと思われている。その代表的な事例は、ダイエーのストアブランド、「セービング」だ。仕入れ先を絞り、大量発注によって、半値の源泉をつくりあげている。消費者は、不況下で何を求めているのか。結果として、現れたヒット商品の中から、その方向性を探ってみる。

 研究対象にしたのは、その業界の専門家から評判を得ていると同時に数量的にも、その成果を確認できるものとした。100事例である。

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93年度ヒット商品の特徴

93年度ヒット商品分析
図表

 93年、どんな市場の条件や商品特徴によってヒットが生まれたのだろうか。単純な結果からまとめると、

  • 市場が成熟して競争が激しく、既存の顧客ニーズを追求した商品

 というのが、93年のヒット商品の特徴である。気を衒(てら)ったものでもないし、新市場というものでもない。当り前の条件だということだ。

 つぎに、気になるのは、価格だ。ヒットしているのは、低価格や半値に違いない。

 確かに、低価格商品もヒットしていることは確かだ。使い捨ての電動歯ブラシ「パピカポイ」、力ーナビゲーションシステムも低価格で市場が立ち上がり始めている。スーツの「アオヤマ」のシェアは価格支配ができる域に達しつつある。

 ところが、ヒット商品の価格政策の分布は以下のようになっている。

  • 業界平均価格より安い 20%
  • 業界平均価格と同じ  60%
  • 業界平均価格より高い 20%

 決して、低価格政策だけがヒットを生んでいる訳ではない。「日清ラ王」、「液晶ビューカム」、「IHジャー」、「写るんですスーパー800」とどれをとっても低価格ではない。考えてみれば、高付加価値のセブンイレブンが流通業界でもっとも高い経常利益をあげ、一社で百貨店業界全体の経常利益約300億円を上回っている。カラオケまで展開しはじめたマクドナルドの業績とモスバーガーの業績の差もそうである。価格とメニューの多角化でシェア競争に勝とうとするマクドナルドに、モスバーガーは一貫して新製品とサービスで対応している。低価格競争が始まる度に新製品をヒットさせていると言っても過言ではない。

 消費者の価格敏感層の部分だけが目立つが実はヒット商品を支えているのは価値敏感層である。消費者は、価格を求めていない。胃袋の役に立たず、精神の役に立たないものは商品にはならない。商品は価値をもっているからこそ価格がつく。消費者は、価格を求めることはできない。価値を求めているのだ。その次に、それを幾らで購入したいか、という問題が来るに過ぎない。知っている価値の商品はできるだけ安く買いたいに決まっている。知らない価値には喜んで高い対価を支払おうとする。この自明の理が、不況下で貫かれているということだ。そして、マスコミの報道とは別に、消費者は価格よりも価値を求めているのだ、というのがヒット商品の分析から得られる結論だ。価格か、価値かの二分法発想ではなく、価値があって価格があるという連続発想のモノづくりがヒットしている。