生活のモービル化
―ひとつの未来

1997.05 代表 松田久一

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例外に伸びる商品

 日本の危機が叫ばれるなかで、96年度、日本の経済成長率は先進国中第一位の3.2%となった。平均では危機的な環境のなかでも、個別商品や個別企業では例外ばかりである。例外を求めることこそが経営でもある。

 携帯電話、PHS、ノートパソコン、ザウルスなどの携帯情報端末、ポケットゲーム、新交通情報システム対応のカーナビゲーションシステムなどが例外的に伸びている。「たまごっち」と呼ばれるポケットゲーム機は300万台を超え、「品切れ」である。バンダイが株主特典として同商品をつけたところ株取引高は通常の四倍になった。社会現象にまでなっている。

 これらの商品に共通していることはふたつある。

 ひとつはデジタル技術の産物であるということである。100グラムを切る携帯電話に代表されるデジタル技術を基盤にし、実装技術の集大成である。かってのヘッドホンステレオに代表される「軽くて、薄くて、短くて、小さい」「軽薄短小」商品である。

 ふたつめはどの商品も「携帯性」、「移動性」、「機動性」を向上させた商品という事である。これらを「モービル性」と言い換えると、携帯できなかったものを携帯できるように、携帯できても機動性がなかったものを機動性があるようにと大きくモービル性を向上させていることが共通項である。

 これらの「モービル型商品」はなぜヒットしているのか。80年代にみられた「軽薄短小」という言葉に象徴される商品のデザイン的な表層の側面やその背景にあったユーザーの「軽やかさ」を求める価値観よりも、バブル通過後の本質的な欲求の変化があるように思われる。この稿では、ヒットの背景を探ることによって、これからの新しい生活スタイルのトレンドを見極めるのが目的である。

[1997.05 「NOVA」 日立キャピタル(株)]