選択消費社会の新しい生活様式の創造

1996.07 代表 松田久一

 印刷用PDF(有料会員サービス)

01

高度消費社会の日本

 日本経済はまったく新しい時代に突入しました。個人消費がGDPの60%を占め、景気を左右する時代になりました。その月額三十数万円の家計消費の50%が「選択消費」(衣食住の生理的欲求に依存しない生活費)が占めています。この消費は価値観によって左右され、生活様式に依存するものです。戦後の日本は、豊かさと平等を中心の価値に置き、みんなが教育を受け、みんなが企業に就職し、みんなが結婚し、みんなが子供を育て、みんなが家電製品と車をもち、みんなが郊外に持ち家を建て、みんなが余暇と海外旅行を楽しむという生活様式を志向してきました。17~18世紀のイギリスに生まれた「中流・中産階級の生活様式」を90%の人々が享受できる社会へと転換しました。一億以上の人々が暮らすこんな社会や国は、過去の歴史にも存在しませんでしたし、現在の世界にも存在しません。戦前の近代化目標はイギリスであり、戦後はアメリカでした。これを可能にしたのはイギリスの産業革命の継承であり、戦後のアメリカの大量生産技術の日本的改良でした。個人消費を活性化し、個人消費がリードする時代がきました。ところが、中流の生活様式は行き詰まってしまいました。誰もが魅力を感じなくなりました。これからの社会的なマーケティングの課題は高度な消費段階の新しい生活様式を提案することにあります。

 景気回復期で売れているものを分析すれば、人々が新しい「形」・「新しい生活様式」を求めていることは明らかです。インポートブランドの驚異的な伸びはこれを象徴するものです。シャネルを欲しい人は、モノ以上に、「戦争と革命の時代の自立した女性の生き方」という「形」を求めているのです。だから、シャネルスーツは自分で買える力をもった女性がもっとも似合うのです。価値観・信念があって消費や生活のスタイルや形が決まるのですが、モノのもっているスタイルや形が欲しいからモノが購入されるという転倒消費が起こっているのです。このことにもっとも敏感なのが、「シャネラー」、「グッチャー」と呼ばれる女子中学生や高校生になっています。