価値提案への足がかり

1996.01 代表 松田久一

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ふたつの象徴

 95年の注目すべき動向をあげるとするとふたつある。ひとつは、パソコン関連の市場の飛躍的拡大であり、もうひとつは、消費財市場で起こった「ナショナルブランド」(全国に普及したメーカー銘柄、以下、NBと略)の「プライベートブランド」(主に大手組織小売業者によって企画、開発された銘柄、以下、PBと略)への反撃である。

 95年は、パソコン市場が飛躍的に拡大した。年間販売台数は600万台近くに上り、ビデオの販売台数を抜く勢いであり、2~3年後には、テレビの販売台数、900万台を抜くとも予測されている。業界にとっては、100万台の市場をどう形成するかに四苦八苦した80年代とは隔世の感がある。「インターネット」の加入者数も、現在の150万人から爆発的に増加している。全世界では4,000万人ともいわれる。オランダでは、価値の象徴である新貨幣まで開発された。オランダのデジキャッシュ社が暗号化技術をベースに開発した「デジタルキャッシュ(電子通貨)」である。

 また、消費財市場ではNBが反撃にでた。「コ力・コーラ」が反撃にでた。「真似なんかできませんよ」というコピーが説得力をもった。地元の水を使い、地元でボトリングされ、地元から配送されているのだから、海外から船で運ばれたPBの「コーラ」とは違う、ということを訴求した。もっとも普及したPBの「水」の品質問題(カビの混入など)も、NBの信頼回復への一助となった。

 このふたつの出来事は、これからの商品・サービスを基軸としたマーケティングを考えていく上での大きな象徴とみなすことができるように思う。同時に、相対的な価値観が支配する時代にあって、人々が、価値があると考えるもの、大切なこと、そしてその背後にある社会関係が変革されようとしていることの象徴ともなっている。政府が保証する紙のキャッシュからネットワークでつかえる電子的なキャッシュヘと価値の象徴が変わり始めている。