変化の深部にあるのは「消費の高度化」

1992.12 代表 松田久一

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ブランドよりも機能重視の消費へ

 まず最初に今伸びているものを紹介します。米、味噌、漬物、佃煮。これを和食の4点セットというふうに言っています。それから、大豆しょうゆが爆発的に売れています。家電でいくと炊飯器のIHジャー。炊飯器というのは普通1~2万円なのに、4万、5万もするIHジャーが売れている。それから、20万円以上もするイオン製水器。カラオケ。キャンプ用品。車ではRV。それと郵便貯金、など。

 一方、売れてないものというと、いわゆるブランドもの、金ぴかブランドものが落ちているんですよ。たとえば、ベンツのセダン600SELはダンピングされています。ファッションでいえば、アルマーニとかヴェルサーチ。それから、1人2万円以上の料亭なんかもお客さんは減っているということです。

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本当に起こっているのは「消費の高度化」

 はっきりしているのは、生活者の中に「アウト・オブ・トレンド」志向があるということです。つまり、反トレンドですね。この典型にあるのが、団塊ジュニアたちです。

 丸井の青井社長が「丸井のお客さんは増えているけれども、買ってもらえない。今の若者というのは流行をつくらないし、トレンドも追わないから困っているんだ」とおっしゃられているらしいのですが、団塊ジュニアたちには反トレンドの傾向が非常に強くあります。

 それから、和食の4点セットに見られるように、完全に内食回帰の傾向があります。とくに男性の方にこの傾向が強い。これには時短という問題がクローズアップされて、時間外労働が25%も落ちてきていることも影響しています。

 残業して仕事中心の仕事をしていたら、ふだん暮らしている商店街が一番行かない場所になる。ところが、時間外労働が減って早く帰ってくるから、商店街に行く時間ができる。事実そういう傾向が見られます。

 さらに、チープシックという傾向が見られます。これを代表しているのが、アニエス・b。

 ただ、生活者の変化を表層的に言ってしまうと、多様化と同じとらえ方になってしまうが、本当に起こっているのは「消費の高度化」なんじゃないかというのが、私の個人的な気持ちとしてあります。

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新しい消費段階への動き

 表層的なとらえ方として、儒教の言うところの「仁・義・礼・智・信」というとらえ方がある。ひょっとしたら、今年最大のヒット商品はこの仁・義・礼・智・信ではなかったか、という意見もあります。

 しかし、そうではなく、やはり消費の高度化として捉えたい。そこで本当に長期的に変わっているものは何かというのを次の三つでとらえて見ました。

  1. 選択支出が5割を超えているということ。
    選択支出というのは、衣食住、つまり自分が生活していくために必要な支出ではない部分、この支出が50%を超えているということです。
  2. 出費する出先のほとんどが第三次産業であるということ。
    三次産業への出費が7割ぐらいあるわけですね。
  3. 労働時間の短縮が進んでいるということ。
    今現在の総労働時間は2,100時間ぐらいですが、もし1,800時間になったら、生活の中で仕事のウエイトというのは、30%になるわけですよ。
    そうなると、仕事中心に必需支出で生活していくという形の生活から次の消費の段落、つまり消費が高度化した段階に入っていると思うわけです。だから今起っている変化というものの深部にあるのは、こういう新しい消費の段階としてとらえたい。

 いろんな形で内食時代、アウト・オブ・トレンドとか、チープシックとか出てきてますけども、そうした新しい消費の段階に入りつつある中で、今度こそ消費を見誤ってはいかんのじゃないかと。本当はこの本筋に対応すべきじゃないかというのを問題提起とさせていただきます。

個人消費の動向
図表