Ⅰ. 消費社会をどう読むか

3.時代の流れを読む

クラス消費の時代-価値期待層を狙え
消費社会白書2015巻頭言

2014.12 代表 松田久一

 消費は、短期的には振り子のように揺らいでいる。2012年末の政権交代後の「アベノミクス」期待と異次元の金融緩和によって景気は浮上した。消費は新しい段階へと離陸した。金融や土地などの資産効果により、富裕層が消費を牽引した。しかし、増税後は天候不順も加わり、消費回復が想定以上に遅い。消費の腰折れリスクも懸念されている。

 一方で、消費マインドは底堅い。消費の長期低迷の要因となっていた将来不安は景気浮上で大きく低下した。デフレ要因となっていた低価格期待は萎み、低価格離れが着実にみられる。

 下振れ要因は、駆け込み需要の調整期間の長期化、円安に伴うインフレ、そして、実質収入の減少である。上振れ要因は、輸出企業の業績回復、金融緩和の再追加による株高や地価の上昇による資産効果、堅調な雇用などである。これらの力の均衡によって、消費は、バランスを維持している。消費税再増税の重しは当面なくなり、下振れリスクは軽減された。資産効果の波及などが今後の消費動向を決定する。

 消費の揺れが大きくなっているのは、消費者の商品サービスへの価値期待の分布が拡大していることにある。これは、多くの市場で、超高価格帯と激安価格帯が堅調で、中低価格帯が失速していることにみられる。このように受容価格帯が広がっているのは、商品への期待が、消費者の趣味、関心や世代性に依存している一方で、年代や世代を超えて、収入、資産など購買力格差が広がり、消費者の多属性によって「クラス消費」(階層)が生まれていることにある。

 クラス消費の市場でシェアを獲得する鍵は、顧客を捉え直して多属性によるセグメントを積み上げ、市場をくくり直し、ターゲットにどのように統合的なアプローチをするかにある。このような顧客セグメントをベースにしたビルドアップマーケティングの成功ポイントは5つである。

 ひとつ目は、価値期待層(Strong Willed To Pay)の積み上げである。高品質に多くの対価を支払ってくれる層を顧客の中から再発見することだ。予想外に、低価格離れした高意欲の消費者は多い。ふたつ目は、商品を市場のヘッドに絞り込むか、他力をうまく利用して品揃えを圧倒するかである。中途半端では、価格期待の広がりには対応できない。3つ目は、価値期待層の説得は、品質のエビデンスであり、品質の手がかりとなる価格設定である。4つ目は、単独生活を補完するために張り巡らされた多重ネットワークを通じたコミュニケーションである。5つ目は、急速に進むネットとリアルの利用分け、多業態の使い分けなどのマルチチャネル化した消費者への総合的なアプローチである。