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III.経済・情報産業組織について
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3.時代の流れを読む
NEXT VISION 2005より
高収益事業へのシフト戦略−次世代戦略経営
代表 松田久一
本コンテンツは、2004年12月7日に行われた当社イベント「NEXT VISION 2005」の講演録と、同日使用したプレゼンテーションをもとに構成したものです。

はじめに

 2005年の経営課題についてご提案します。今起きている2004年から2005年にかけてのマーケットの変化を受けて、次世代戦略について考察しました。そこから導き出されたのが「高収益事業へのシフト戦略」です。高収益でないと企業が生き残れない時代になりつつあります。
 まず、日本企業の現状について、情報家電メーカーを中心にご説明します。次に、低収益の構造と要因を分析して、新しい収益条件について考察しました。それらを踏まえ、2005年の経営課題である高収益へシフトするための五つの鍵をご提案いたします。
 次世代戦略(Next Strategy)とは何か?結論を最初に述べます。新しいひとつの変わらぬ収益の原則を追求していくこと、それから現代の新しいビジネスのプラットフォームを作っていくことではないかと思います。

1.ものづくりで復活−JAPAN IS BACK

図1.ビジネスウィークより
 2004年を振り返ると、ビジネスウィークの「IS JAPAN BACK?」の記事が最も象徴的だったと思います(図1)。これに伴い、「JAPAN IS BACK」という議論が出てきました。その中で注目されたのが、「Manufacturing (製造業)」です。やはり日本企業はものづくりで復活してきたのだというのです。そのことは、確かに当社の調査でも裏づけられました。いい商品が出たところ(業界)が、必ず消費が盛り上がっているということがあったわけです。
 特に情報家電メーカーで、次々とものづくりによる業績回復が生まれてきました。主要な情報家電メーカーの2003年度の連結の数字をみると(図2)、10社中7社が対前年で100%を超えています。経常利益についても、対前年で100%を超えているところが10社中8社あります。経常利益率については、パイオニアの6.0%を最高に、シャープの4.9%など高い傾向にあります。
図2.主要情報家電メーカーの業績
   (2003年度・連結)
 
図3.主要情報家電メーカーの業績
   (2004年度上期・連結)
 ものづくりによる主要な情報家電メーカーの業績回復は、2004年上期の連結業績からも読み取れます(図3)。松下電器産業(以下、松下)の売上高は前年比119%、シャープは同115%と大幅に拡大しています。全体的に経常利益も伸びています。経常利益率はシャープが最も高く、5.7%となっています。
 2004年上期の連結業績をみると分かるように、ものづくりで成功している企業が伸びています。松下のDVDレコーダー、シャープの液晶テレビ、パイオニアのプラズマテレビです。ただし、最近のパイオニアのプラズマテレビはあまり好調ではありません。それから日立のハードディスクです。日立のハードディスクは、「iPod mini」や、シャープの「ザウルス」の新しい4GBのPDAにも使われています。ソニーの元気がないことが最近の注目ポイントですが、2004年末には「PSP」が発売されます。ものづくりで勝っているところがやっぱり伸びています。それは2004年上期で鮮明になってきました。
 ひとつは明らかに、ものづくりというものが、2004年度に入ってお客様に受け入れられて、それが業績につながっているという流れがみえてきました。一方で、この流れがもう駄目だという論調も、アナリストから大変根強く出ています。我々としてはそうは思いません。特に、デジタルカメラは元気がありませんが、液晶テレビやDVDレコーダーなど新三種の神器を中心にして強い需要があります。日本の年末商戦と、アメリカのクリスマス商戦の結果が物語ると思いますが、かなりいい数字が出てくるのではないかとみています。

図4.主要情報家電メーカーの業績
   (2003年度と2004年度上期・連結)
 日本の情報家電メーカーがものづくりで復活したのはよいのですが、少々問題があります。お隣の韓国で、凄いプレイヤーが出てきたのです。サムスン電子(以下、サムスン)です。サムスンが、日本の家電10社を困らしてるという数字が出ています(図4)。サムスンの2003年度の経常利益は6,296億円、経常利益率は9.7%です。2003年度業績は、経常利益の対前年比が69%と少々悪いのですが、それでも凄い数字です。比較のためにトヨタ自動車をみてみると、経常利益は1兆7,658億円、経常利益率は10.2%です。利益率に遜色はありません。2004年度上半期をみてみると、サムスンの経常利益は、対前年比308%の7,740億円、経常利益率は33.1%です。とんでもない数字を出しています。それに対して、トヨタの経常利益は9,132億円、経常利益は10.1%です。トヨタは、トンカチを上に上げるのが無駄で、下ろすのだけが価値があるという程に無駄にこだわっている会社です。そのトヨタの更に3倍以上の利益率を、サムスンは出しているのです。日本の情報家電メーカー主要10社の1年間の売上高を合計すると約49兆円になります。日本のGDPは約500兆円なので、10%の需要が情報家電メーカーによって支えられていると推定できます。簡単に比較することはできないのですが、目安として、こうした構造になっていることがお分かりいただけたでしょうか。

 サムスンの売上高は約6兆円です。韓国のGDPが50数兆円なので、大体10%以上を占めているという構造になっています。そのサムスンの経常利益が、2004年度上期だけで7,740億円です。このままいくと、2004年度の経常利益は、年間を通して1兆4,000〜5,000億円になります。日本の情報家電メーカー主要10社の2004年度上期の経常利益は合計で5,845億円です。2004年度上期をみる限り、サムスン1社で上回っているのです。日本の固有技術のひとつである液晶技術は、シャープを中心に日本企業がリードしていますが、そのシャープの2004年度上期の経常利益は714億円にすぎません。シャープの亀山工場(三重県)で1,500億円の設備投資が必要です。韓国忠清南道の湯井 (タンジョン) にあるサムスンとソニーの工場が、大体2,000億円。それで、製造能力が5倍といわれてます。製造能力が5倍違うということは、コストは7割くらい違います。それだけの費用逓減産業なのです。液晶テレビの需要全体を押さえるためには、全体で2兆円ぐらいの投資が必要になってくるのです。これからは、その2兆円をどこで出してくるのかが、シャープの課題になります。そうしないと勝てないのです。
 そのような状況にあるわけですが、申し上げたいことは、日本の情報家電メーカーも結構ものづくりで頑張ったということです。1990年代に色々なことを言われましたが、頑張ったのだと。しかしながら、利益という観点からみると、あるいは今後勝てるかという観点から、設備投資で勝っていけるかということを考えていくと、年間合計売上50兆円の日本企業10社全てがかかってみても、サムソン電子1社にひょっとしたら勝てないかもしれない。そういう状況に追い込まれているということです。これは同じく消費財メーカー全てと同じ構造が、ある意味で象徴的に表れているのではないかという風に思っているわけです。
図5.サムスン電子のセグメント別業績
 それでは、サムスンは一体どこで利益を出してるのでしょうか。サムスンの売上高構成比と営業利益構成比をみてみます。(図5)。セグメント情報が違うので、こういう整理しかできないのですが、大きく三つに区分されます。ひとつは半導体。利益の中心は半導体です。構成比トップはメモリーですが、これは独占寡占です。つまり自分で買うほど需要をコントロールできるというところで、利益の6割を出している。LCD(液晶)は実際は赤字といわれてます。LCDというのはモニターのところだけです。大きなところでは、実際はサムスンは赤字といわれてます。そして情報通信。これは携帯電話のことで、世界市場で今2番です。ノキアの次です。つまり、一番か二番のトップシェアを持っているところで利益を出してるわけです。それがサムスンの高収益の構造ということです。

2.脱却できない低収益の構造と要因

 ここで問題が出てきます。皆さんが直面している、会社の問題をどう考えるかということでもあります。日本の情報家電メーカーをみると、ものづくりが業績回復に結びついていることは確かなようです。ところが、トヨタとサムスンをみてみると、両社に高収益をもたらしているのはものづくりではないのです。それでは、何が両社の高収益の源となっているのか?それが2005年の経営課題になってくると思います。
 トヨタとサムスンの高収益の理由をあげます。まず、トップシェア、独占寡占市場を持っていることです。変わらぬ原則ですが、独占寡占が利益を作り出してくれます。長らく、独占寡占というのは悪のように思われてきましたが、独占寡占市場を持たないと、結局は利益を出せないということははっきりしています。GE(米ゼネラル・エレクトリック)もそうですが、1位か2位でないと利益は出せない。それがサムスンとトヨタにはしっかりあります。トヨタは、日本国内で40%程のシェアを持っているし、特定のセグメントではアメリカでも強いです。それからもうひとつは、流通段階で価格競争をコントロールできるということです。サムスンとトヨタはできています。サムスンの商品は、日本市場で売ってないし、日本市場でもあまり知られていないのに、なぜでしょうか。サムスンは、価格競争の厳しい日本市場では売らずに、アメリカで売っているからです。従って価格をコントロールできるのです。ただ単純にそれだけの理由だと思います。逆になぜ儲からないかというと、独占寡占市場を持っていないこと、流通をコントロールできないこと、そのふたつの理由が大きいと思います。恐らく2005年になると、あらゆる業界で、この流通段階での問題が大変大きな問題になってくると思います。
 ネット市場が伸びていきますが、楽天とかライブドアのモデルは、過渡的なモデルです。シャネルを育てたのは伊勢丹です。クリスチャン・ディオールを育てたのも伊勢丹です。エルメスを育てたのも伊勢丹です。過渡的な育ちの場というのが楽天なんです。楽天は卒業される寸前にあると私どもはみています。従って楽天というのは、リアルなものに出て行かないとネットだけでは価値を生み出せない。そこで野球への新規参入ですが、いいネタ(ソフト)を見つけたと思います。流通において激しい変化が起きてくるので、そこでいかにして価格をコントロールできるかということが、高収益をあげるための鍵だと考えています。

図6.収益格差の構造
 それでは、収益格差はなぜ起こるのでしょうか。自動車業界と家電業界の流通システムの違いを例にあげます (図6)。
 高収益を生み出している自動車業界の流通システムは、車種別ディーラー制です。メーカーは小売に対して、系列化します。そのお店が固定化を図りながら消費者に対してものを売っていく。違うメーカーも同じような構造を採っているので、商品はたすき掛けにならない。つまり小売から見れば、どこのメーカーを仕入れても一緒だぞということにはならない。これは車種別ディーラー制の特徴です。従って、自動車業界では、基本的には価格競争は起こらない。起こらないというよりは、家電のような激しい価格競争は起こらない。どちらかというと、品質を重視した競争が起こってくる。それが車種別ディーラー制というものの特徴です。
 ところが、低収益に悩む日本の家電市場というのは、メーカーは、例えばシャープの「GD1 LC-GDI45」という、フルハイビジョン対応の45インチの液晶が73万円で売られています。それは新宿の西口では、ビックカメラで買おうが、ヨドバシで買おうが同じということになります。両方とも絶対価格では負けません。「ドラクエVIII」が出ましたが、売上ナンバー1はビックカメラの新宿西口店、ナンバー2が新宿ヨドバシカメラのゲーム館本館ということになっています。350万本を2日で売り切ったのです。凄いことをやってるわけですが、両方とも絶対価格で負けない。ですから、価格のプライスタグは時価になってるわけです。納品条件と共に、いかにして時々刻々とプライスを変えていくかという競争をしているわけです。従って、そのギリギリのところまで小売で競争する。そうすると、価格はおのずから、利益ゼロのところまで近づいていく。当然、小売も利益ゼロのところに近づいていく。そうなると、お互い全部利益なしで繁忙していくという、そういう低収益の流通システムが、日本の家電市場の中ではできあがっているわけです。
 この構造に一番最初にやられたといいますか、困っているのが、薬品業界です。麻布十番の商店街に行くと、お店は活性化していますが、増えたのはドラッグストアです。ボコボコと商店街にドラッグストアができてくる。それが、利益ゼロに向かった激しい価格競争をしているので、そのしわ寄せが全部メーカーに来る。そうするとメーカーは利益が出せない。メーカーが利益を出せないために、プロ野球界と同じように球団を縮小していくしかない。20社から10社にしていくしかない。そういう縮小均衡のメカニズムの中で、業界全体が衰退していき、儲からない構造になっているのです。これは、あらゆる業界で、2004年から2005年以降、もっと激しく起きていくのではないかと思います。それが儲からない構造ということです。儲からない=低収益の原因は、ひとつめは独占じゃないこと、ふたつめは流通の価格競争をコントロールできないことです。そのふたつが根本的にあるのです。サムスンとトヨタはそれができている。日本の情報家電メーカーはそれができていない。ただそれだけの単純な理由です。

3.新しい収益条件−成熟鎖国市場の終焉

 サムスンの戦略を考えればよく分かりますが、とにかく韓国という市場は小さいわけです。小さいからそもそも国内を考えていない。初めから海外遠征を考えているのです。日本でも海外市場を考慮に入れないと、多くの企業がしのぎを削っているので、そこで価格競争をして、負けた場合どうするのか。またたとえシェアを取っても利益は出ない。そうしたら、初めから欧米、そして中国、ロシア、インドとブラジルといったブリックスを含めて、グローバル市場での垂直立ち上げを考えるのです。そうすると、市場そのものの天井がなくなるのです。欧米は約3億人、中国は沿海含めて1億人から2億人の市場があって、ロシアも7,000万人から8,000万人の市場があって、インドというのは潜在的には21世紀の最大の人口国なので大量の数がある。ブラジルもそうです。初めから世界市場に出て行くわけです。国内で勝って、それで海外に出て行くなんてことは考えない。日本国内で勝ったら、もうそこでヘトヘトです。アメリカに出て行く頃になったら、もう何も残っていない。それが今の日本の流通を含めた、情報家電メーカーの厳しい状況なのですが、それ依然としてやっている。それで、同質的な標準品=コモディティ商品*1 に対して集中している。
 次期DVD規格で東芝陣営のHD−DVDが有利になったという話がありますが、そもそもブルーレイディスクのソニー陣営と東芝陣営の対立というのは、もはやネット時代にはあり得ません。「冬ソナ」だって、基本的にはDVDを借りるよりも、ネットで見る時代です。次期DVDもどうなるか分からないわけですが、次世代規格というのは関与するメーカー間では問題になっています。しかしサムスンはそんなことを気にしません。勝手にやってくれと。サムスンは同質的なコモディティ商品に集中してきます。世界の携帯電話市場で強い規格はCDMAです。日本にはNTTドコモ(以下、ドコモ)という会社が、独自のフレームを作ってしまったために、儲かってるのはドコモだけで、後は全部駄目です。それでドコモが儲けたお金はどこに行ったかというと、全部海外の証券投資です。紙切れになって、それで終わりというモデルなわけです。韓国にはそんなモデルはありません。初めから市場をアメリカ、それから欧米というように睨んでおけば、それでいいわけです。そうすれば市場で強いCDMAを追求できます。それがなかなか日本メーカーではできないのです。
 かつて松下が非常に儲かっている時に、「お宅は凄いですね。常にシェアはトップですね」と言われて、松下幸之助さんは「そうなんですよ。うちには東京に凄い研究所があるんですよ。ソニーっていうんです」と答えたそうです。今、サムスンの李健熙(イ・ゴンヒ)会長に聞いたらこう言うと思います。「うちには凄い研究所がただで、10社あるんですよ。日本って言うんです。そこで研究して、そこでお互い潰し合ってるところを横目で見ながら、アメリカ市場とブラジル市場と、中国市場で勝てばいいんですよ」と。サムスンはグローバルな二番手戦略を採っている。ビデオでもブラウン管でも何でもそうですけども、絶対捨てない。成熟技術を捨てない。そういうことをやってるわけです。

 それから、サムスンの強みはとして費用逓減産業の特性を生かした巨大投資があります。研究開発投資は、半導体も液晶もそうですが、量が質を決めるのです。青色ダイオードを発明した中村修二さんという半導体の凄い天才が出てきたりして、研究開発が行われるというのは、基礎技術の遠い遠い話です。実際問題は、お金が投資を決めて、投資が研究水準を決めるのです。だからお金が全てなのです。3,500億円の投資をすれば、3,500億円の結果が出てくる。つまり費用、研究開発、あるいは設備投資がコストに跳ね返ってくるのです。生産量が倍になれば、コストが20%下がっていくわけです。その法則を徹底的に利用していくわけです。今シャープが亀山工場(三重県)に液晶工場を持っていますが、サムスンはその5倍の生産設備を2005年5月に稼動させます。そうすると、亀山工場の製品ラインの約5倍ですので、現在の20%から30%ぐらいのコストで、亀山工場と同じものができるはずです。これが理論的なモデルです。それを徹底的に追求していくのがサムスンです。更にそれを超える投資を、韓国LGフィリップスが5,000億円かけて行うので、恐らく2006年段階では、シャープが価格競争で勝とうとすると大変難しい。そんな企業とシャープは戦っているわけです。そんな風にして費用逓減産業の特性を生かした、巨大投資をやっているわけです。日本ではこうした競争からカッコ良く逃げてしまうということがあります。あるいはサラリーマンだから、サラリーマン社長だから、意思決定ができない。「1兆円の設備投資のできる社長を連れて来い」と。これが今の情報家電メーカーの、置かれてる状況であるわけです。こういう新しい収益性の条件に適応できていないことに原因があるのではないでしょうか。

 そういう業界や市場の中、どういう収益のドライバーがあるのか、またどのような要因が自社の収益を規定してるのかお考えいただければと思います。情報家電業界だと、ひとつは定石であるところのマーケットにおける独占的な条件、それから新しい収益条件が満たされていないと、そのふたつだという風に見ております。
図7.新しい収益条件
 では、新しい収益条件とは何でしょうか(図7)。昔は、国内で競って海外へという、成熟鎖国市場でした。市場は天井があるんだということです。1億2,000万という人口の制限という天井が市場にはあるんだと。それから、製品カテゴリーで買っていくんだと。もちろん売場で勝っていくためには製品カテゴリーが必要なわけですが、一方で技術的に考えていくと、デジタル技術がベースになっていくと、製品カテゴリーは何の意味も持ちません。「PS2」とか「PSP」とかの意味がなくなるのです。PDAと呼んでもいいわけです。そのようにカテゴリーが意味をなさなくなってきます。それから製造の寡占パワーが強いと言われていましたが、実際は流通の方が強くて、何の寡占パワーも働かない。それから、一物多価と言われておりました。こんなのが成熟鎖国市場という風に言っているわけです。
 今の新しい収益条件というのは、市場の天井が見えないということです。超成長の時代と言ってもいいと思います。あるいは、質が大変重要になっています。もう一方で、利益が重要です。収益ということで考えていくと、世界市場の天井が見えないほど、市場は広くなってしまいました。中国が来て、ブラジルが来て、それからインドが来ると、市場は全く天井知らずです。そこにこれからテレビやビデオ、携帯電話が売れていくわけです。その時に、日本のメーカーは、もうこれは技術的に成熟しているっていう風に、思い込んでしまってる。そういうところがあるわけです。これはお菓子でも食品でも何でもそうだと思いますが、同じようなことが起きているのではないかと思います。製品カテゴリーは今、寿命がありません。というか、ないと考えた方がいいと思います。それから製造の寡占パワーよりも、流通の寡占パワーが巨大化している。一物多価というよりも、むしろ時々刻々、値引きです。要するに価格は時価になってしまいました。そういう新しい収益条件に合致した形で、戦略を考えていかないと、高収益をあげることができない。それが今回提案する2005年の経営課題です。

4.2005年のふたつのシナリオ
  −ものづくり消耗戦か、高収益事業へのシフトか

図8.ものづくり消耗戦と高収益事業への
   シフトシナリオ
 今、日本の情報家電メーカーは、ものづくりで頑張り、強みを生かしたものづくりで差別化したという段階にきていると思います(図8)。そして、これからふたつの岐路に分かれていくと考えます。ひとつは流通段階での価格競争に巻き込まれて、中国の後で工場へ移転して、単品ものづくりに集中して、価格訴求で勝負して、最終的には組織が疲弊して、ものづくり力が失われて、事業撤退していく、というシナリオです。IBMが遂にパソコン事業を手放しました。GEもどんどん手放していきましたけども、結局渡り鳥的に生きていくしかないんじゃないか、というのがひとつのシナリオです。もうひとつは、流通段階での価格競争をコントロールしながら、グローバル市場で独占寡占の市場をできるだけ維持し続ける。それから、情報コンテンツとサービスのバンドルという、新しいプラットフォームで差別化を図っていく。その上で自分達の強みをエクスパンションしたり、ストレッチしたりしながら、新たな強みに向けて再投資していく。この岐路にきているんだと。とりわけ国内では、この流通段階でのこうした問題が、マーケティング上、非常に重要になってくるのではないかと思います。
図9.ビジネスウィークより
 そこで、このシナリオの岐路の中で一番問題なのは、やはり流通です。ビジネスウィークの「IS WAL-MART TOO POWERFUL?」という記事の一部です(図9)。小売業世界トップのウォルマートについて書かれています。ウォルマート1社のシェアが、使い捨て紙おむつ32%、ヘアケア30%、歯磨き26%、ペットフード20%あるというのです。21世紀末には全ての消費財製品の50%のシェアは、ウォルマート1社が持つと言われています。この流通の寡占パワーに着目しますと、日本でこれに匹敵するものは、やはり家電流通だと思います。カメラの御三家(ヨドバシカメラ、さくらや、ビックカメラ)、YKK(ヤマダ電機、コジマ、ケーズデンキ)、それから昔の家電量販店なども含めて、流通の寡占化に対して、どうやって供給側がそれに対抗していけるかということが、大きなシナリオを分けていく鍵だと考えます。アメリカでは、このウォルマートというのは、マーケティング業界では禁句になっているっていうことをフィリップ・コトラーが言っていました。

5.高収益へシフトする五つの鍵

 高収益事業へシフトさせるための五つの鍵です。

  1. 新しい収益条件のもとでの変わらぬ高収益原則の追求
  2. 自社の強みをものづくりリードへ −独占市場の創造
  3. 先手優位のコミットメント戦略の追求
  4. 強みの拡大とストレッチ
  5. 情報、コンテンツとサービスのプラットホームの構築

 ポイントを三つに絞ります。ひとつめは、自社の強みを生かしながら独占市場を創造していかないと駄目だということです。やはり、独占寡占にならないと高収益は実現できないし、自社流通を持たないとなかなか利益が出ない。ふたつめは、先手優位のコミットメント戦略の追求です。絶対に投資競争で負けたら駄目だということがあります。三つめは、どんなプラットフォームが今儲かるのかということです。情報、コンテンツとサービスのプラットフォームの構築が注目されます。

図10.強みを生かしたものづくりでリードする
 自社の強みを生かしながら独占市場を創造していくにはどうすれば良いでしょうか?まずは、いかにして本当の強みを見極めるかが重要となってきます。
 シャープを例にあげます(図10)。シャープの強みは、マーケティングでいうならば、470億円のマーケティングコストをかけて、ハイエンドのものづくりにあります。現在の液晶テレビでフルハイビジョン対応の45インチというのは、3機種しかありません。その1機種がシャープのモデルです。豊富な品揃えがあり、「AQUOS(アクオス)」は全21機種あります。それから、需要創造型の店頭販促で、毎年ヨドバシカメラとかビックカメラと年間契約を組んで、一緒に店頭販促をやります。これがマーケティングの強みです。そして、市場に対しては「液晶のシャープ」というイメージを、吉永小百合を使って広めたわけです。今テレビではソニーを抜き、シェアトップです。こうした強みを支えているのは、ひとつは明確な経営方針です。それから独自のデバイス、開発能力で特許が4,775件とか、あるいは最先端液晶ディスプレイ工場、亀山工場にその能力が集中してると。他にも差別的なマーケティングノウハウを電卓時代から培ってきたとか、あるいはケミカライゼーションと呼ばれている、その組織と組織との調整ができるような、シャープ独特の組織があるということです。更にそれを支えているのが、こういう地理的条件の中に集積された、ひとつの企業と企業との間の関係なのです。コミュニティといいますか、チームワークです。企業内外のチームワークの人間関係が、本当の強みを支えているわけです。そういうものがベースになって、その強みが全てここに費やされている。これが日本企業の本当の強みということになります。そこで、この強みを生かしながら、韓国にあるソニーとサムスンの工場にどう勝っていけるのか。それから今度出てくるLGフィリップスの工場にどう勝っていくかという、そのリアルなところがベースに、本当の強みとして出てきます。
 ひとつご提案させていただきたいのは、本当の強みからものづくりを展開していくために、本当の自社の強みとは一体何なのかと。それはある意味で、これは皆さん当然のことだという風に思っていることはあるのではないかということです。この強みをどういう風に生かして、蓄積して、どういう風に伸ばしていくかというのが、これから高収益をあげていくための、ひとつの大きな条件であると思います。

 次に、先手優位のコミットメント戦略の追求について、具体例をあげて説明します。
 今、韓国のLGフィリップスが5,000億円という投資規模を出してきました。嘘か本当か分かりません。その次に、どういう手を打っていくのか。その時に、先手優位でもって、いかにして自分達がチープトークじゃないということを証明できるような、次の投資戦略の情報を出していけるかということが、非常に重要になってきます。半導体では、エルピーダメモリが広島に8,000億も投資します。しかしこれに対し、何とサムスンが2兆3,000億円という投資規模を出してきたわけです。どういう風にして相手に対して先手を打つか。アナリストというのはそのあたりの事情をさっぱり分からずに分析していきますので、先が読めません。リアルな商売、ビジネスになってきますと、その辺の先手必勝のコミットメントというのは、重要になってきます。
図11.先手優位のコミットメント戦略の追求
 シャープを例にあげますと、1,500億円を投資して亀山工場を作ると計画した場合、資源のコミットメント、配分と決めていきます。それが活動になるわけです。シャープにとって、1,500億円がどういう意味を持つかというと、売上が2兆数千億ですので、社員も、全ての人も、これはチープトークじゃないと考えるわけです。これは嘘じゃないと。もしこれが失敗すればどうなるかと考えるわけです。失敗すれば会社は潰れる、自分達の職は失われると考えるわけです。それが赤のフィードバック効果です(図11)。これがコミットメントということになります。嘘をつかない。これが実行のある戦略に結び付けていくということであり、これを競争相手に言うことです。つまり、シャープがこれからシェアを取り続けていく。オンリーワンじゃなくて、ナンバーワンじゃないと利益は出ないわけです。オンリーワンは生きていけるけれども、利益は出せません。ナンバーワンになるためには、シャープはあと2兆円の投資が要ります。そのコミットメントを出した戦略というか、情報をライバルに出す必要があるわけです。それがコミットメント戦略ということですが、こういうところもひとつの強みを生かしていく上でのポイントということになってきます。

図12.情報・コンテンツ・サービスを組み込んだ
   プラットフォーム
 最後に、どんなプラットフォームが今儲かるのかについて説明します。まず必要なのは情報コンテンツです。これを取り込まないと、本当の差別化にはならないということです。商品として、何をバンドルするのか、何を挟み込むのか、包み込むか、束ねるかということです。それから、どこで付加価値を取るか。そうするとこんなマトリックスが出てきます(図12)。価値を開発して、創造し、伝達する。もう一方で、商品としては、単品を売る、システムとして売る、サービスを見込んで売る、スタイルとして売るということです。具体的には、単品で売るというのは、コーヒー豆を売るということです。システムで売るというのは、エスプレッソの機械付きで売るということです。そして、サービスで売るというのは、レストランでコーヒーを出して売るということです。スタイルを売るというのは、スターバックスで売るということです。コトラーの事例でいきますと、コーヒー豆というのは1セントらしいです。家でエスプレッソを入れると10セント。レストランだと1ドル。スターバックスで飲むと、2〜3ドルということになります。どこが儲かりますか?上に行けば上に行くほど儲かります。
 つまり、物を売る、液晶テレビを売るというのは、この段階です。システムとして売ろうじゃないかということです。例えばそれに、「Tナビ」という様な番組プログラムを付加しようじゃないかと。あるいは、ネットで流して、冬ソナをいつでもどこでも観られるようにしようじゃないかと。そういうフォースメディアを使って、液晶テレビを売ろうじゃないかということです。大体、今、シャープのフルハイビジョン対応の45インチ液晶テレビが約63万円で売れてるわけですが、お客さんは店頭に4回程いらっしゃるそうです。そして、最後は奥さんを連れてきて買われるそうです。奥さんはデザインだけで決めます。そこで、よくアドバイスをします。冬ソナがいつでも観られると言えば、絶対OKと言ってくれる。「韓国の風景、あの美しい何とかの風景を、この45インチで観られるんだよ。しかもフルハイビジョン。凄いだろう!」で、OKです。すぐ買ってもらえるということなのですが、実際は映像がそこまで追いついてきてません。あまりよく映らなくても、それが映るよと、そういう風にすれば、サービスになるわけです。それからもっとスタイルにすればいいわけです。シャープの液晶テレビで吉永小百合は中国の北京で、竹の家でやっています。そんな風にして、何をバンドルするかによって変わってくるわけです。しかもそれはこれまでの、研究開発して、製造して、物を売るという、そういうメカニズムじゃなく、もっと違うオペレーションがいるわけです。これを、情報コンテンツサービスを組み込んだ、プラットフォームと我々は呼んでいます。
 全ての商品について、これは当てはまると思います。米で売る、おにぎりで売る、ピラフで売る、松花堂弁当で売る。鉄鉱石で売る、鉄で売る、鉄の鋼板で売る、車で売る。鉄の鉱石1トン1,000円が1トン100万円の自動車になる。どんな風にして売るか、またはどこで付加価値を取るかということです。
図13.iPod mini の新しいプラットフォーム
 アップル社の「iPod mini」が、新しいプラットフォームを作っています(図13)。単品では日立と東芝のハードディスクが使われて、アセンブルして、直営店を通じて、売られています。それからシステムでは、PC連動で無料アプリケーション「iTunes」がダウンロードできます。サービスではミュージックストアがあって、世界最大100万曲が蓄積されています。しかも1曲99セントという安値です。ネットを通じてAACフォーマットで売られています。それから、アップルイメージがあって、音楽シーンがあって、それでヒップホップというイメージがあります。これが全部繋がってアップルという、iPod miniを売るプラットフォームができています。そして全ての収益源を多元化させながら、アップルは音楽で、ソニーを押しのけている、そういう構造になっているということです。
図14.Apple vs. Sony
 実は、アップルとソニーのどちらがいいかというと、これは非常に難しいです(図14)。日本国内にアップルのミュージックストアはありません。iTunesを使ったミュージックストアは使えません。「ソニックステージ」はソニーが持っていて、これがかなり優秀です。ソニーの圧縮技術「ATRAC3」はiPod miniよりも確実に音が良くて、「モーラ」という日本語ミュージックストアを使えば、ネットワークウォークマンに落とせるわけです。こういう形、そして品質もデザインも、勝つだけのものがあるのですが、アメリカでシェアはアップルが80%、ソニーは殆どなしです。日本市場でも、ソニーはほとんど駄目です。だからアップルが有利と言われてます。ソニーが振るわない一番大きな原因は、アップルの行っている様な連動を一切行っていないことだと思います。つまりバンドルの仕方がもの凄く下手なのです。ポイントは、収益を出していくためには、どの階層を展開していくのかということと、それをいかにして束ねていくのかという、そこがひとつの大きなポイントになってくると思います。

6.日本企業の最大の強み

 最後に申し上げたいのは、日本企業の最大の強みは何かということです。昔、ワーナー・ガイスラーというP&G日本ユニットの社長が、「Success in Japan will lead to success anywhere in the world.」と言いました。日本で成功すればどこでも成功できるのだよ、と。P&Gが紙おむつを作ってきて、日本に持って来ました。こんな凄いもの作ってきたから、これはさぞかし日本のお客さんは喜んで買ってくれるだろうと思って、日本に来たわけですが、全く売れない。そこで、ユニチャームがどんどん売れていく。なぜそうなっているのかと一生懸命ガイスラーさんが調べてみた。そうすると、分厚くて硬い。それを一生懸命直した会社がユニチャームです。そして、P&Gのシェアはどんどん落ちていく。そこで、初めて日本の消費者の恐ろしさが分かった。口うるさいけれども、このお客さんのいるところで成功すれば、必ず世界中のどこでも成功するということです。
 これと同じことを今サムスンが、「日本企業が味方にすべきなのは、最大の強みは消費者ですよ」ということを教えてくれてという風に、私は思っております。その言葉をあえて言い換えるならば、「Consumer lessons in Japan will lead to success anywhere in the world.」ということだと思います。つまり、日本で勝たなくてもいい。お客様に教えてもらえさえすれば、世界中どこでも勝てる。我々が味方にすべきは、日本の恐ろしいほどのオタク的な消費者のこだわりです。そのこだわりをベースにして作られたもの、そのものがサービスと情報と組み込まれた時に、初めてダイナミックな競争優位というものが作れるのではないかと思っております。それが今回皆様にご提案したい「Next Strategy」です。
[2004.12 『NEXT VISION 2005』講演]


*1 日用品で、消費者がどこのメーカーが作ったものかにこだわらず、基本的な機能さえ備わっていれば購入するもの。

【参照コンテンツ】
クール・ジャパンが消費回復を牽引する (2004年)
戦略を読む 競争戦略立案のためのデータベースの手法と提案
 −実務家のみなさんに賢明な競争戦略立案の道筋をご提示します−
戦略を読む 2 21世紀の競争戦略−ネット時代の戦略原則」

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 提言論文
「オタク」化する消費(2004年)
消費回復のカギは消費者マインドの刺激にあり(2004年)
消費回復は本物か?−回復マインドのドミノ倒しが始まった! (2004年)
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