バイラル・マーケティング -今、知っておくべき伝統的マーケティングに対する新たな挑戦 |
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リチャード・メイ | |
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伝統的マーケティングに対する新たな挑戦であるバイラル・マーケティングについて3部シリーズでご案内する。第1回目の今回は、バイラル・マーケティングの発展と要点をまとめ、伝統的マーケティングおよびPRアプローチとの違いを整理する。その上で、バイラル・マーケ
ティングキャンペーンの様々なアプローチ方法を解説する。続く2回、3回目では、アメリカと日本でのケーススタディを行う。 バイラル、バズ、ゲリラ、口コミ...など様々な言い方があるが、日本の広告業界は今までになかった広告で沸き上がり、引き続き成長を続けているようだ。この一見奇抜なマーケティングアプローチをバイラル・マーケティングと呼ぶ。何故、この手法が活用されているかを把握し、自社で採用することは、東京や上海など人口過密な大都市にありがちな耳障りな広告をなくす鍵となる可能性をもっている。 | ||
30秒CMの終焉? | ||
大手テレビ局でさえも従来とは違ったバイラル・マーケティング手法を使っている現在、このような新しいマーケティング手法が何故有効なのかもっと探る時である。テレビ局自身が制作した自社番組の番組宣伝の販促効果が芳しくない上にCMの放送料金が上昇した結果、大手ネットワーク放送局自体が他の選択肢を探さなければならなくなった。そのため、今季はNBCもCBSもバイラル・マーケティング手法を導入し、秋シーズンの番組ラインナップの宣伝を行っている。NBCは新しい実況番組のシリーズを宣伝するのに1ドル札に10万のステッカーを貼るという方法を採った。CBSはドラッグストアの袋に広告を載せることで医療コメディを盛り上げている。 | ||
30秒/60秒TV広告のマーケティングパワー終焉の要因 | ||
30秒/60秒TV広告のマーケティングパワーが終焉を迎えている。その要因としては以下のことがあげられる。
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ゲリラ型から感染型へ-20年の道程 | ||
インターネット出現以前の1980年代に、伝統的でない広告を使う、今日のバイラル・マーケティングを提唱する2人の先駆者が存在した。レジス・マッケンナはシリコンバレーのハイテクパワーに、顧客中心の口コミ広告キャンペーンを売り込んでいた。シリコンバレーのPRの第一人者であったマッケンナは著書の中で、消費者とのダイレクトな接触に焦点をしぼること、ビジネスの「インフラ」であるメディア、サプライヤーやアナリストとの個人的な関係について書いている。シリコンバレーのハイテク企業には彼のメッセージはなかなか伝わらなかったが、インテルとIBMは耳を傾け、その方法を採用した。著書「Relationship Marketing: Successful Strategies for the Age of the Customer」(邦題:『ザ・マーケティング-「顧客の時代」の成功戦略』ダイヤモンド社)の中で彼は、1990年代は顧客の時代になると宣言している。このメッセージはアップルの当時のチーフ・エバンジェリストであり、マッキントッシュの初期マーケティングスタッフメンバーのひとりであったガイ・カワサキに取り上げられた。カワサキはハワイ生まれの日系3世であり、著書である「The Macintosh Way」、「Selling the Dream」(邦題:『夢を売る』東急エージェンシー出版事業部)、「Rules for Revolutionaries」(邦題:『神のごとく創造し、奴隷のごとく働け!』ダイヤモンド社)などで「エヴァンジェリズム」という考え方をシリコンバレーのコンピューター業界に持ち込んだ。その後1990年代以降、バイラル・マーケティングは人気がなくなっていった。それは、200チャンネル以上もあるケーブルテレビの時代が到来し、「インフォマーシャル」(情報型広告)とテレビショッピングが注目されたからである。このアプローチは非差別化広告によりマス・マーケットに届けることが出来るもので、ケーブルで放送されるものもあるが、従来の放送局で放送されるものもあった。 | ||
バイラル・マーケティングのメカニズム | ||
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バイラル・マーケティングの手法 | ||
V-マーケティングアプローチの基本は「口コミ」であるが、様々な種類がある。その基本は「友達に伝えよう」「皆に伝えよう」というものである。メッセージを受け取った人をその気にさせるには、メッセージにもっとも感染しやすいターゲットとして友達を選ぶ。その他のよくみられる手法は、以下に列記する。賢いマーケッターは新しいメッセージ伝達システムにフィットする新しい感染のタイプを考えていることは間違いない。
このようなアプローチは長所と短所を持っているが、その点についてはシリーズの次回でもっと詳しく述べたいと思う。ここでは、バイラル・マーケティングの「草の根」運動的側面は、コミュニケーションが自然発生的で、信頼のおけるものであると受け取られている時のみ有効であるということに注意したい。擬似的なネットワーク外部性を利用した「やらせ」のコミュニケーションやシステムは、「アストロ・ターフィング」の非難をうけることになりかねない。アストロ・ターフィングとは、政治上の主義や製品サービスのように自然発生的な一般の反応があるという印象を与えるキャンペーン技術であるが、逆に終わることもある。特に、オピニオンリーダーになりそうな人に向けた口コミキャンペーンでそういうことが起こる。 | ||
日本でのバイラル・マーケティング | ||
バイラル・マーケティングアプローチはハイテク市場や欧米の視聴者に限定されたものなのだろうか?オグルヴィ&メイザーPR・ジャパン社のシニアマネージャーとして東京に拠点を置くトーマス・ゼンゲージ氏に聞いた。「もしバイラル・マーケティングの土壌として有力なところがあるとすれば、それはここ、日本です」とゼンゲージ氏は言う。「日本人のサイバースペースへの接触度は驚くほど高く、本物の情報狂が存在する。」日本のウェブサイトの周辺を見てみると、ブログや消費者の製品レビューサイト、オンラインの「ファン雑誌」が増えており、2倍も3倍もの役割を果たしながらエンターテインメントや製品ニュース、宣伝メッセージを提供していることがわかるだろう。 音楽と映画DVDの販売は、バイラル・マーケティングアプローチが当然ともいえる分野である。このアプローチは新しいメディアを使用し、次に何が「来る」のかを待ち望んでいる世代である10代から30代までの幅広い観衆を狙ったものだからだ。ワーナーミュージックジャパンのニューメディア・ジェネラル・マネージャーであるアンドリュー・ダンバー氏は日本のバンド、リップスライムのプロモーション用ウェブサイトを取り上げて説明する。バンドの写真や、アルバムカバー、インタビューなどの他に、サイトではブロガーのリンクを設け、リップスライムに関する情報とディスカッションを自分のブログでリンクしている。ダンバー氏はバンドのプロモーションにおける「ストリート・チーム」の広がりについても言及している。このようなグループは無償のボランティアで、インターネットより以前の時代ならばファンクラブのメンバーだったようなファン達だ。このような「ストリート・チーム」が地域でポスターを貼ったり、常連である音楽クラブの人達に話たりして盛り上がりを作っていく。また、彼らはバンドのイベントを友達の間の口コミと自分たちのささやかなブログ活動を通して広げていく。 ファッションも視野に入ってくる。地域でバンドイメージを反映した服装が見られるようになることで、地域の人々にバンドのサポートグループとして活動していることを知らせることができる。代わりに、ストリート・チームのメンバーは特別なイベントに招待されたり、バンドのニュースを他の人より先に受け取ることができる。ストリート・チームに対しての直接の現金出費はゼロである。電車のホームや建物のポスターなどといった標準的な音楽プロモーション活動と比較して、ストリート・チームのもつ能力を考えると、ストリート・チームへの投資収益率は素晴らしいものがある。ワーナーミュージックのダンバー氏は「現金支払いシステムではないんですよ」と説明する。「会員限定コンテンツや、関係者になるというカッコいい要素は、ファンが時間を割いて自分たちのお気に入り音楽グループの宣伝をするというモチベーションになっているのです。」
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バイラル・マーケティングのバリエーション | ||
バイラル・マーケティングは口コミ、テスターグループ、トレンドセッターのトラッキング、モニター介入方式、集合-解決方式といった、いくつかのフォーマットに分類することが出来る。◆ 口コミによるトレンド作り口コミも様々な形式があるが、特にインターネットを活用したもので、インスタントメッセージ(AIM,MSN, ICQのようなソフトを使う)または友達との会話がある。これには従来の広告に対して大きな利点がふたつある。口コミは安く、消費者との双方向の対話の可能性を持っているということである。これはバイラル・マーケティングの初期の形式である。◆ アルファ&ベータ・ターゲティング「アーリー・アダプター」(先駆的ユーザー)であるより先に、テクノロジーに明るい消費者は、すすんで製品のアルファ版、ベータ版のテスターとなり、製品の初期口コミを広める協力者になることができる。新製品、ブランド・リニューアル、パッケージ・リニューアルや改良品の初期テスターとなってくれるオンライン上の人のグループを見つけることは、時間と経費の節約になるだけでなく、製品開発のミスを新製品のライフサイクルの初期段階で避けることができる。◆ トレンドセッター・トラッキングキー・ユーザーと将来の潜在的なファンからの評判は、製品やサービスが将来のユーザーにどのように広がるのか、成功を左右するファクターとなり得る。中核となるオンライングループに目を光らすメーカーは適宜モニターし、評価し、対応することができる。それらグループの状況はウェブサイトのフォーラムでの会話、ヤフー・グループ、インスタント・メッセージ・サービスの掲示板、もちろんブログでも見つけることができるだろう。このようなオンラインのフォーラムに集う潜在的ユーザーは製品カテゴリーの方向性を決め、製品の評判に影響を与える。◆ モニター介入方式モニター介入方式は、製品と関連のある消費者ウェブサイトを取り込み、消費者への回答や関心を信頼出来るソースに向けさせる試みである。それらはメーカー自身や後援するサイトとヘルプデスクの電話番号ソースから来たような正式で信頼できる情報ソースである。◆ 集合-解決方式製品の問題とクレームを探すモニタリングの形と、解決策とヘルプを、無償または有償で問題のソースとなるウェブサイトの中でサイドバーのリンクという形で提供しようとする試み。このリンクは問題に対して無償の解決策や製品向上の提案を提供する。参照されたリンクはメーカー自体の運営であるか、「独立」した専門家が製品の質問に答えるものとして企業がお金を払って保持している可能性もある。この利点は、専門家の回答に人間味と個性を付加することができ、草の根や、ゲリラレベルのコミュニケーション方法としてはこちらの方がより有効であり、流行に敏感な消費者には評価される。 | ||
バイラル・マーケティングの事例 | ||
表面上、バイラル・マーケティングは広報活動に似ているものもある。取り入れているPR手段はフェスティバル、コンサート(オンラインや、ストリーミングのコンテンツフォーマット)、携帯マーケティングチーム(現在では「ストリート・チーム」と呼ばれ、企業の本社や支社の携帯マーケティングスタッフがサポートしている)なども含む。しかし、大きな違いは、ユーザーとのつながりである。イベントはただ発表され、ファンが招待されるのではない。V-マーケティングアプローチでは、イベント発表と招待状の発送の中核目的は、口コミ、オンラインのメッセージの盛り上がりであり、これは孤立したコアなファンサイトから始まり、一般的なターゲット観客へとだんだん広がっていくものである。 | ||
バイラル・マーケティングプログラムの導入 | ||
バイラル・マーケティングキャンペーンはインターネット上の宣伝以上の効果はもっているものの、インターネットは非伝統的な口コミ宣伝の企画で使用される最適なプラットフォームのひとつでしかない。口コミの盛り上がりを生み出すひとつの方法は、インターネットのバナーとアフィリエイト広告の使用である(アフィリエイト:Webサイトやメールマガジンに企業サイトへのリンクを張り、ユーザーがそこを経由して商品を購入したりすると、サイトやメールマガジンの管理者に報酬が支払われるというシステム)。日本におけるアフィリエイト広告プログラムの最大のサプライヤーであるValue Commerce社のマーケティングディレクターであるスコット・ネヴィル氏に、インターネットのバイラル・マーケティングキャンペーン部門をどのように構築したらよいのか聞いた。ポイントは以下の通りである。
ネヴィルがここでのゴールとして説明しているのは、広告の影響力を拡大し、コストを削減することである。 | ||
バイラル・マーケティングの将来 | ||
バイラル・マーケティングの提唱者はゴールデンタイムのマス広告から立ち去りつつある。彼らはインターネット技術に支えられた相互接続のメッセージを使うことを強調していいる。具体的には、製品説明よりも体験を提供することである。このアプローチは、製品に関しての対話の誘因として、無償のミニゲームをオンラインで提供するようなものである。彼らは製品の体験を支持し、単純な説明は避けている。次回は、日本とアメリカにおける、キャンペーンの具体的な成功例を紹介していく。 リチャード・メイ:JMR生活総合研究所に所属。テンプル大学ジャパンのマーケティングの非常勤講師 (2005.09)
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