![]() |
|
イオン、コンビニで中国進出 | |
「中国コンビニの業態開発が鍵」 | |
本稿は、「週刊エコノミスト2009年5月19日号」掲載記事のオリジナル原稿です。 | |
楊 亮 | |
![]() |
イオンは2009年6月末に、グループ傘下のミニストップを中国の山東省青島市に出店する。同省内で今後1年内に10店舗程度、5年間で200店舗に拡大する計画で、中国でのコンビニエンスストア事業に乗り出す。 中国では既に1992年にセブン-イレブン(香港牛ニュウ(ニュウは女へんに乃)公司)が深セン(センは土へんに川)に中国初のコンビニエンスストアを出店し、1996年にローソン、2004年にはファミリーマートも進出を果たしている。イオンは、1987年にジャスコストアーズ香港(現、イオンストアーズ香港)の出店を皮切りに、これまでに中国で総合スーパーやショッピングセンターなど27店舗(2009年2月末)展開しているが、コンビニ業態の出店は今回が初めてとなる。 ![]() こうした小売新業態の成長の背景には、都市部のみならず農村部にも共通する個人所得の伸びがある。2008年は都市部住民1人当たりの平均可処分所得(年間)は1万5,781元(約24万円)で前年比+約15%、農村部住民の1人当たり平均純収入(年間)も4,761元(約7万円)でこちらも前年比+15%となっている。国家成長段階における経済転換期といわれる「一人当たりGDP3,000ドル」という指標も突破した(2008年末に発表された人口統計に基づく試算で一人当たりGDPは3,260ドル超)。2008年10月以降は消費の伸びの翳りも指摘されているが、所得の伸びが消費意欲を喚起し、内需の底堅い成長を支える原動力となっている。
中国のWTO(世界貿易機関)加盟(2001年11月)に伴い、2004年から、内資流通企業保護を目的とした規制が緩和された。小売業の出店地域、出資比率、店舗数の制限撤廃、2005年には2店舗以上の直営店と1年以上の経営実績を条件にフランチャイズチェーン化も可能となった。2007年には、一般小売業・卸売業が「奨励類」から「許可類」へ変更され、税制に関する優遇措置も得られなくなった。こうして、外資流通企業にとって、公平な条件下で競争する環境も整ってきた。内資コンビニも併せて競争が厳しい上海を除くと、広大な中国への出店可能性は未だ高い。 ![]() 日本では、1974年にコンビニ第1号店が登場し、バブル崩壊後の不況による消費の低迷で百貨店やスーパーなどの売上が大きく落ち込む中、売上高、店舗数共に増加の一途を辿り、2008年には百貨店業態の売上高を上回るまでに成長した。1972年に大型スーパーの出店攻勢の影響から中小小売店を保護する大規模小売店舗法(大店法)が施行されたことにより出店を抑えられた大手スーパー各社は、大店法の適用を受けない小規模の小売店であるコンビニの出店に注力した。弁当やおにぎりといった中食の提供を始め、宅配便の取り次ぎ、公共料金収納代行、ATMの設置、医薬部外品やアルコール販売と「生活インフラ」としてコンビニは発展した。大店法規制という特殊な環境下でスタートし、日本の生活文化に対応する形で定着してきた。 中国には都市ごとに定める「都市商業発展計画」があり、実質的な大型店の規制にあたる内容を含む場合もあるが、国レベルでは日本の大店法にあたるものは存在しない。コンビニの伸長は、経済水準の向上に伴い増加した中間層の求める便利さ、快適さ、衛生面に応え、食料雑貨店の近代版としてのポジションを築いたこと、また、買い物してきた食品を保管しておくという習慣も無かったため、手軽に買って消費するというスタイルに適合したことが主な要因と考えられる。中国コンビニ業態の牽引役といわれるローソンは、スーパーとの差別化が図れていなかった内資コンビニとは全く違った展開をしてきた。1980年代の新しい消費文化の下で育ったホワイトカラーの若年層を狙い、受容性の高い飲料や菓子類、弁当・おにぎりなど日配品の品揃えを充実させた。さらに、安全性や衛生面を気にして、冷たい食品には手を出さないという中国人に配慮し、弁当をレンジで温めて提供することや、食べながら歩くことを気にしないことにも着目して、串に刺したおでんを販売するなど中食でのローカライズを進めた。また、各種チケットの販売代行、公共料金の支払い、コピー、ATMサービスなどを中国コンビニ業界では初めて提供した。品揃えを豊富に、接客を丁寧に、店内を清潔にという原則に徹底的にこだわった店舗運営を進めた。こうしたローカライズに加え、「日本」ブランドの品質や信頼性への高い評価(中国では偽物が多く出回っているが自己責任で購入する。そのため自己防衛の感覚が浸透している)、衛生面や安全性への高い評価(2003年SARSが流行し、屋台や露店よりコンビニの弁当の方が衛生的で安全という評判も生まれた)、内資コンビニよりも的確な品揃え(欲しいものが選びやすく陳列され、短時間で買い物を済ませられる)、来店客を大切にする接客(これまでの中国の食料雑貨店などは、「売ってやる」という意識が強かった)などが加わり、日系コンビニを軸に、現在までの中国のコンビニは、日本と同じように生活インフラとしての利便性を提供する業態として定着してきた。 ![]()
しかし、四つの懸念材料も指摘できる。ひとつは、日系コンビニ企業との戦いは免れたとしても、青島市には、利群、維客といった内資のコンビニ企業が存在する。山東省のコンビニ店舗数は約2,000店といわれるが、両社とも直営店とフランチャイズ加盟店を併せると各800店舗を展開しており、店舗規模では圧倒的な数を誇っている。ふたつは、独特の法規制への対応である。青島ミニストップでも日系コンビニ企業が揃って展開する弁当や総菜などの販売が考えられるが、実践のためには複雑な許認可取得が求められる。衛生面の許認可、店内調理に関連して防災面の許認可、さらに調理で発生する臭いに関連して環境面からの許認可も必要になる。これに対応できるような店舗設備の開発も必要になる。三つは、フランチャイズによる店舗拡大での問題である。コンビニは出店コストを安く抑えられるフランチャイズ方式で店舗数を短期に拡大し、オペレーション効率を上げる業態である。中国では、フランチャイズの会計において、日本における与信という制度が無いため、金融法や銀行法に抵触するとされたり、本部と加盟店間で発生する仕入れや経費が税務処理上、企業間取引とみなされて増値税が発生する。加えて、加盟店運営のための人材開発や人件費のコントロールが目論見通りできるのかも課題である。ローソンでは周到な内容の契約書を準備した上で加盟店募集を進めているが、オーナー希望者とのトラブルを未然に防ぐ方策も求められる。最後に、収益性の問題である。業界を牽引したローソンでさえ、黒字転換までに8年を要している。平均20%以下といわれる中国のコンビニ業界の利益率は、日本と比べかなり低調である。早期の黒字化のためには、ミニストップとしてのビジネスモデルを周到に準備する必要があるが、鍵は効率良い出店拡大ができるかにかかってくる。 ![]() イオンに限らず、中国におけるコンビニの果たすべき価値が何かを的確に予測し、そこに向けた業態開発を行うことが今後の生き残りのポイントになる。「80後世代」と呼ばれる新たな価値観を持つ世代の台頭、共働き世帯の圧倒的な多さ、経済発展に伴う生活の深夜化などライフスタイルの変化を勘案すると、これまでの中国のコンビニより一段深い品揃えをして、より利便性を高める方向での業態づくりも求められてくると考えられる。イオンは日本国内で、売り場面積がコンビニエンスストア規模の超小型スーパー「まいばすけっと」の本格出店を決め、首都圏を中心に2012年までの3ヵ年で500店まで拡大する計画を打ち出した。価格と商品構成はスーパーに近い設定をし、コンビニの退店跡地や商店街の空き店舗など既存の物件を積極的に活用し、初期投資や家賃を抑えて1店当たり1,000億円の年商を目指すものである。青島市でのコンビニ展開のための足場固めがまず優先であるが、「まいばすけっと」のような新業態をローカライズして投入することも視野に入れながら、中国にふさわしいコンビニ開発が長期的には求められる。 (2009.05) 本論文執筆は、当社代表松田久一による貴重な助言や協力のもとに行われました。ここに謝意を表します。 |
