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(2013.04)
勝者なきセルフ式コーヒーチェーン店の競争
~多様化が進む消費者向けコーヒー市場では勝者なき戦いが繰り広げられている~
ビジネスディベロップメントマネジャー 大澤博一

本稿は、「ZAITEN 2013年5月号」掲載記事のオリジナル原稿に、未掲載の図表を加えております。


1.構造転換を果たした喫茶店市場
 喫茶店市場は1982年の1兆7,396億円をピークに年々減少を続けている(図表1)。2011年では1兆182億円とピーク時から4割以上も減少、この間、業界内部の構造は大きく変貌した。

図表1.喫茶店市場の推移(売上高と伸び率)


 1980年にドトールコーヒーが東京・原宿にセルフ式の1号店を出店した。当時のコーヒー平均価格の半額にあたる150円でドリップ式ブレンドコーヒーの提供を始めた。1988年にはサントリーとUCCが共同出資でプロントの前身であるプレスを設立し、1988年に銀座に1号店をオープンしている。ここまでが、日本におけるコーヒーチェーンの「第1の波」である。
 こうしてセルフ式コーヒーショップが台頭するなか、1996年に高品質コーヒーとエスプレッソ文化の普及により北米で成功を収めたスターバックスコーヒーが銀座に1号店を出店した。シアトル系コーヒーの日本進出である。1999年にドトールコーヒーは対スターバック対抗業態として「エクセルシオールカフェ」を出店、追随して繁華街の好立地で展開するカフェが次々と誕生した。これがコーヒーチェーンの「第2の波」である。
こうした第1と第2の波を経て、喫茶店市場は個人経営を中心としたフルサービスの喫茶店が淘汰され、企業化されたセルフ式コーヒーチェーン中心の市場へと変貌した。

2.生き残りをかけたセルフ式コーヒーチェーン各社の展開
 今、セルフ式コーヒーチェーン企業間で熾烈な生き残り競争が繰り広げられている。現在、セルフ式コーヒーチェーン業界は、売上高と出店数で圧倒する2強とその他の中規模チェーンという競争構造になっている。2強とは、ドトールコーヒーとスターバックスである。ドトールコーヒーの売上高は721億円、出店数1,479店。スターバックスの売上高は1,076億円と1,000億円の大台を超え、出店数は955店である。2社の合計シェアは66%を占める。その他のチェーンとして主要な企業ではタリーズ(売上高223億円)、サンマルクカフェ(同191億円)、プロント(同175億円)があげられる。
 2強の1角であるドトールコーヒーは多業態化し、ライバル店を複数業態で取り囲んでシェアを奪う戦略を採っている。200円のブレンドコーヒーを提供する「ドトールコーヒーショップ(以後ドトール)」とスターバックスに対抗する業態で「エクセルシオールカフェ」とフルサービス喫茶店業態の「コロラド」、そして後述するコメダ珈琲店に対抗する業態の「星乃珈琲店」の4業態を展開している。ドトールの成功のポイントは「安くておいしい」コーヒーの開発と高効率の店舗運営を実践している点である。コーヒーの味にこだわりを持ち、世界11カ国から豆を「品質買い」し、直火式焙煎を大量に行う仕組みを構築した。この仕組みは品質を維持できる一方、調達コストが割高になる。このため売上原価は50%とスターバックスと比較して非常に高くなっている(スターバックスは26.5%)。ドトールは1店舗あたりの平均社員数が0.7人(スターバックスが1.9人)と人件費を抑え、高回転率を維持し、坪効率を高めている。しかし、エクセルシオールカフェは、人件費と原価が高く収益性が悪いため、出店数はこの数年減少しており、業態の方向性を見極める段階にきている。星乃珈琲店もコメダ珈琲店と同じ形態であるものの、成功するか否かは不透明である。ドトールコーヒーは、消費者の様々なニーズに対応した柔軟な多業態化を展開しているものの、直近の2013年2月の既存店売上高は▲4.4%、客数は▲5.2%と苦戦を続けている。各業態をどう立て直していくのかが今後の大きな課題である。
 対してスターバックスも1,000店を目前にして踊り場を迎えている。スターバックスのビジネスは集客力のある立地に出店し、そこで飲み方や生活のスタイルを売る「ブランド力」の強さと人手をかけた販売によって、高単価の商品を提供していくものである。好立地出店の継続がスターバックスの成功パターンである。当初は繁華街立地を中心に展開していたが、現在はショッピングセンター(以後SC)内の出店が最も多くなっている。このことはスターバックスにとって大きな転機を生み出した。中心客層が、これまで繁華街やオフィス街でビジネスマンやOL中心から、SC内出店が増えることによりファミリー層へと広がった。アメリカのスターバックスではこのような多店舗展開によって客層が広がったものの、それによりブランドの希少価値が失われ、陳腐化して失速してしまった。日本ではアメリカの二の舞にならないために、2012年に原点回帰を打ち出し、既存店に設備投資をし、ラテやフラペチーノなど目新しい商品で差別化を進め、既存店の活性化を図っている。その結果、2012年度の既存店売上は客数の増加により回復している。
 2強とは違う路線で戦っているのがプロントとサンマルクカフェである。プロントの特徴は同一店舗で昼と夜で提供している商品・サービスを変える二毛作ビジネスである。昼は客単価400円のカフェ、夜は客単価1,500円のバーでお酒を提供している。近年では女性層の集客促進を狙ってカフェラテのリニューアルとパスタの充実を図っている。結果、カフェラテの売上は前年比約2割増加、パスタは同6%増加と成功を収めている。加えて、集客した女性層に対して会員制度「プロン女」で組織化し、割引や特典をつけることで固定化につなげている。一方、この二毛作ビジネスは出店エリアの条件が厳しく、大きな出店拡大が見込めないという問題も抱えている。
 サンマルクカフェは「カフェベーカリー」業態とも言われ、コーヒーとパンを販売している物販併設型のカフェである。サンマルクカフェは冷凍生地パンを活用することで高収益化を実現、チョコクロワッサンという人気商品を生み出し、コーヒーも200円という低価格で提供している。競合チェーンに対し、「パン」と「価格」で差別化を図っている。

3.異業種から攻め込まれるセルフ式コーヒーチェーン市場
 2000年代後半からセルフ式コーヒーチェーン業界に脅威となる出来事が続いている。ひとつは、マクドナルドに代表される異業種からの参入である。コーヒー市場参入の理由は、収益性の向上と集客促進、顧客の固定化である。さらにコーヒーは機械を導入すればアルバイトでも同じ味が出せるというオペレーションの容易さが後押ししている。
 マクドナルドは、2008年に100円コーヒーを中心にカフェメニューを一気に拡大した。さらに2009年には「マックカフェ」業態を展開し、カフェラテなどを追加している。これまではハンバーガーのサブとしてのコーヒーであったものを、方向転換させてコーヒーそれ自体を高品質化し、ブラックで飲めて、熱くても冷めても飲めるように工夫している。また、ガストやデニーズなどファミリーレストランもスイーツメニューの充実に加えてコーヒーの品質向上を図っている。主婦層を中心とした昼間需要を取り込むためである。
 セブン‐イレブンやローソン、ファミリーマートなどコンビエンスストア(以後、CVS)も2012年からコーヒーの販売に注力している。セブン‐イレブンのカフェ導入店では1日あたり約60杯が売れ、同時にサンドイッチが2割、デザートは3割売上が増えるという。2013年夏までに導入店舗を1万5,000店舗まで拡大する計画であり、年間で3億杯、売上300億円を目指している。これはタリーズの売上高を遥かに超える金額であり、業界全体を大きく変貌させるインパクトを持っている(参照:戦略ケース コンビニコーヒーはCVS競争の新ステージの幕開け)。
 そして、フルサービスの喫茶店が復活してきている。その代表企業が中部地方に拠点を置くコメダ珈琲店である。コメダ珈琲店は現在、北は新潟から南は徳島、香川まで25都道府県475店(2012年12月26日現在)を展開している。ここ数年で一気に出店数を増やしている。コメダ珈琲店が拡大している要因は三つあげられる。ひとつは郊外ロードサイド型出店でローコスト運営を可能にしている点である。郊外出店によって家賃を8%未満に抑えることができ、それが高速出店を可能にするポイントになっている。
 ふたつは、回転率を重視するセルフ式コーヒーチェーンとは異なる「居心地の良さ」を提供していることである。コメダ珈琲店の滞店時間は1時間を超え、セルフ式コーヒーチェーンよりも長い。椅子の高さを低くし、テーブルをパーテーションで区切ったボックスタイプを中心に客席レイアウトの工夫などによって「居心地の良さ」を実現している。
 最後が、同社の看板メニュー「シロノワール」に代表されるフードメニューの充実である。「シロノワール」とは、皿いっぱいの大きな焼き立てデニッシュの上にソフトクリームとシロップをかけたオリジナル商品である。その他、500円前後で海老フライやサンドイッチなど、かなりボリュームがある。コメダ珈琲は、早期に1,000店の大台に乗せ、ドトールコーヒーとスターバックスの2強の牙城に食い込んで行く計画を打ち出している。
 さらに家庭用のコーヒーにも変化が起きている。家庭用コーヒーは、ネスレのネスカフェなどに代表されるようにインスタントコーヒーが主流であった。近年、ネスレはそこで「イタリア最高のバールで作られるエスプレッソコーヒーを職場や家庭で提供する」というコンセプトでネスプレッソ事業を展開している。2000年に世界で180億円の規模だったこの事業の売上は、2011年には3,120億円と飛躍的に伸ばしている。この事業はエスプレッソをつくるマシン(ミドル機種で1万8,800円)を購入した後は、エスプレッソの素であるカプセル(1個70円)を購入するだけで、家庭でも美味しいエスプレッソが飲めるというものである。このビジネスモデルの肝は、マシン販売で儲けるのではなく、カプセルの販売で儲ける仕組みになっていることである。自宅でリラックスしたい、リフレッシュしたいという意識を背景にお酒などを自宅で飲む「イエ飲み」スタイルや自宅で食事する内食化が定着している。ネスプレッソ事業の生活の変化を捉えて成功している(図表2)。

図表2.コーヒーチェーン市場の競争構造


4.多様な競争軸で差別化を図る
 セルフ式コーヒーチェーン各社は品質向上を打ち出し、品質による差別化がしにくい状況下で、多業態化、低価格化、フードメニュー充実、飲み方・生活スタイル提案によるブランド力強化など様々な競争軸を設定して、業界内での生き残り競争を行ってきた(図表3)。しかし、現在は業界外から強大で、かつ多様な企業が参入し、市場の競争環境は一変している。異業種からの参入は消費者のコーヒーの飲み方ニーズの多様化を引き起こした。消費者は既にセルフ式コーヒーチェーン内だけでコーヒーの選択を行っていない。しかも消費者からみると、異業種と比べてセルフ式コーヒーチェーン各社を利用するメリットが小さくなってきている。消費者との接点(すぐにコーヒーを飲みたいニーズ)で見れば、店舗数で6万店を超えるCVSやマクドナルドにセルフ式コーヒーチェーンは遠く及ばない。フードメニューの充実(食事をしながら飲みたいニーズ)ではファミリーレストランに劣ってしまう。「居心地の良さ」「快適さ」ではコメダ珈琲店に敵わない。消費者のイエ飲み化の対応では、ネスカフェのネスプレッソ事業の方が便利であり、コストパフォーマンスが良い。

図表3.コーヒーチェーン各社の特徴


 今後、セルフ式コーヒーチェーン各社は多様化する消費者のニーズひとつひとつをどう取り込んでいけるのかが鍵である。獲得する小さなニーズを積み上げていきながら収益が取れるようにすることが重要であり、ロングテール型のビジネスが求められてくるのではないだろうか。これまでの業界内の競争軸とは異なる競争軸を設定して戦い方を進めたところが消費者向けコーヒー市場で生き残っていくだろう。しかし現時点では勝者が見えない熾烈な消耗戦を繰り広げているように見える。



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