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イオンPB値下げ戦略の深謀
本稿は、「週刊エコノミスト」12月18日号掲載記事の原稿です。
井坂勝也・大澤博一
 スーパー最大手のイオングループは11月30日、グループ約1,400店舗で食パン、お茶、洗剤など「トップバリュ」と冠したプライベートブランド(PB=自主企画商品)24品目を10~15%値下げした。原材料価格の高騰に伴うメーカーの値上げ発表が相次ぐなか、8月7日にはメーカーのナショナルブランド品(NB)100品目の「価格凍結」も打ち出しており、メーカーによる値上げ圧力に対し、一歩も譲らない構えだ。
 背景には、総合小売業(GMS)の経営が厳しくなっていることがある。中間決算では、出店競争の激化と消費の伸び悩みにより、新規出店分でかろうじて増収を確保しても、減益に陥る企業が多かった。イオンも「価格競争は地方を中心に今までで最高に厳しい状況」(岡田元也社長)との認識を示す。このため、値上げを受入、店頭価格に転嫁すれば、消費者が離れるとの恐怖感が強いのだ。
 NBの値上げを拒み、PBは値下げするイオンの動きは、市場が大きく伸びないなかで、値上げ圧力という「逆風」を逆手に取り、シェアと利益の拡大を狙う"攻め"の戦略といえる。
 PBは小売りが自社販売力を背景に、製造メーカーと共同開発して小売り自身のブランドで販売する商品だ。小売りにとっては、大量仕入れと中間マージンのカットによる低価格販売や粗利益の確保が可能で、独自性も訴求できる。特にイオンは、傘下に入れたダイエーとのPB共有により、抜群のスケールメリットを追求できる立場だ。
 イオンの狙いは三つある。ひとつめは、PB値下げで地方のスーパー間の熾烈な価格争いを制し、消費者の固定客化を図ることである。
 ふたつめは、「NB対PB」という構図を明確にし、メーカーとの価格交渉を優位に進めることにある。NBメーカーにとって、値上げすれば、もともと安いPBとの価格差はさらに広がる。イオンとしては、店内価格競争を仕掛けることで、NBの値上げを回避できる可能性もある。
 三つめは、トップバリュの販売シェア拡大による利幅の増加である。イオンは、現在10%弱のPB売り上げ構成比(イオン単体)を、2011年に18.5%にまで高める計画を推進している。NBの値上げに応じざるを得ない事態になっても、損はないのである。

 ただ、いくつか死角もある。
 ひとつめは、大丸ピーコックが12月限定でPB55品目を最大20%値下げ、NB200品目を価格維持または最大3割値下げする戦略を打ち出したように、競合の追随が続けば、値下げ競争がスパイラルを引き起こす可能性がある。原材料高騰という条件は、イオンのPBメーカーにも共通する条件であり、値下げによる利益減少を将来にわたって吸収しきれるかには疑問が残る。
 ふたつめは、値上げを拒むあまり、NBメーカーとの関係が悪化する懸念である。NBの価格凍結は、当初今年末までとしていたが、年明けまで継続する方針に転じた。多くの小売業者はイオンの様子見で値上げを保留している。
 このため、値上げを発表したメーカーは、営業条件の足並みが揃わない小売り各社を相手に、来春の新商品の商談も進まず、来年度の年間計画が読めない状況で苦悩している。
 三つめに、PBが消費者の信頼を獲得できるかという根本的な課題がある。PBはメーカーの代わりに、小売りが品質を保証するものである。食品メーカーの不祥事が相次ぎ、消費者の品質に対する信頼が大きく揺らいでいるとはいえ、もともと「メーカー名」を信頼の根拠とする日本の消費慣行の壁は厚い。むしろ消費者は、ブランドの選定に厳格になり、値上げを発表したメーカーもその根拠として品質向上を訴求してくることは必至である。
 価格に賭けたイオンの戦略の成否は、トップバリュブランドが品質面でも消費者の支持を獲得できるかどうかが、大きな鍵を握っている。

(2007.12)

※本稿は代表の松田の貴重な助言に基づいて執筆したものです。


 

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