半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

消費経済レビュー Vol.16
消費者からみた電子書籍市場の拡大可能性

 本稿では、消費者から見た電子書籍市場の現状と今後の方向性を、弊社インターネット・モニターへの調査結果をもとに検討・考察している。
 書籍の収納管理や持ち歩きには、様々な悩みがつきまとう。特に、収納管理では、本の置き場所の確保自体が一番の難儀であり、たまった本の処分・整理も面倒である。書籍の収納管理の悩みは、所蔵量が多くなればなるほど、より深刻なものとなる。
 電子書籍は、書籍につきまとう悩みを解消するものとして、注目されている。現状では、電子書籍の利用経験者は1割程度と極めて少数であり、主な利用者はバブル後世代以下の層や学生などの若年層で、マンガやライトノベルが中心ジャンルであるが、今後、管理職・経営者や高収入層での利用が期待でき、書籍が中心ジャンルとなりそうである。彼らは書籍の所蔵量も多く、書籍につきまとう悩みを解消するものとして、電子書籍利用の動機が強い。電子書籍という新奇なモノに対する進取の気性も、電子書籍の積極利用を後押ししている。
 電子書籍市場は、提供サイト、フォーマット、端末のいずれをみても、導入期の段階にある。電子書籍提供サイトの利用者も、電子書籍の利用経験者の中の1割程度と、ごく一握りだ。電子書籍の管理も、現状では「入れっぱなし」「読み捨て」が主流である。フォーマットの共通化や互換性に対する要求は潜在的に強いが、利用者が少なすぎてネットワーク外部性が働く状況にはない。端末も、スマートフォンやタブレットPC、電子書籍専用端末は、まだ脇役だ。所有率の最も高い機種で4%にも満たず、所有意向率の最も高い機種でも1割程度にすぎない。ネットワーク外部性が働く状況になるまで、時間がかかりそうだ。
 電子書籍の現状はちょうどキャズムの状況にあり、キャズムを乗り越えて成長期への移行を果たすには、導入期とは一線を画したマーケティングの革新が必要となる。成長期のターゲット層は、管理職・経営者である。中心ジャンルは経営・ビジネス関連の書籍にとどまらず、新聞、雑誌へと広がりを持っている。電子書籍専用端末への需要拡大が見込まれ、電子書籍端末へのニーズの中心は紙の書籍に近い操作性や画質の良さといった、読書を含めた書類の確認・処理を迅速かつ快適に行えるツールとしてのニーズである。書籍の種類を問わず手持ちの端末ひとつですべて閲覧できることが必須であり、電子書籍フォーマットの互換性ニーズは極めて強い。電子書籍提供サイトへのニーズとしては、キラーコンテンツの提供が重要となる。ビジネス上のニーズをテコに、フルタイム勤務や自営業・自由業等へも、電子書籍の普及拡大が累積的に拡がる可能性もある。
 電子書籍端末で優位を確保する方法として、ひとつは、フォーマットの互換性への対応を重視した端末の開発方向であり、種類を問わず手持ちの端末ひとつですべて閲覧できるようにすることである。端末としては、書類の出し入れや管理・閲覧の機能を重点的に強化し、書類の確認・処理ツールとしての実用性を極める方向である。もうひとつは、電子書籍を読む機能への対応を重視した端末の開発方向であり、読書行動を徹底的に調べあげ、読書のための一連の動作に不可欠な機能を端末に組み込んでいくことである。端末としては、紙の書籍に近い操作性やポータビリティ、画質の良さを極めた、紙の書籍での読書体験を再現できるツールへと純化していく方向である。
(2011.06)


消費経済レビューの本文をご覧になるには、プレミアム会員にご入会下さい。
消費経済レビューは、プレミアム会員限定コンテンツとなっています。
プレミアム会員は、当社メンバーシップサービスの全てのコンテンツに加えて、
「情報家電産業のリバイバル戦略 -エンド価値志向の多層化戦略-」ほか、
当社のオリジナル研究レポートのご利用が可能なプレミアムサービスです。
この機会に是非プレミアム会員へのご入会をご検討ください。

お知らせ

2024.03.25

当社合田執筆の「猛スピードのクルマはいらない」 これからの高齢化社会に必要な“まちづくり”とは何か? そのヒントは欧米になかった!」がメルクマールに掲載されました。

新着記事

2024.03.29

企業活動分析 KDDIの23年3月期は法人向け好調等で増収、過去最高益更新

2024.03.28

消費からみた景気指標 24年1月は6項目がプラスに

2024.03.28

月例消費レポート 2024年3月号 消費は足踏み状態が長期化している-インフレ見通しや消費マインド改善などによる消費回復の後押しに期待

2024.03.27

24年2月の「ファミリーレストラン売上高」は24ヶ月連続プラス

2024.03.27

24年1月の「ファーストフード売上高」は35ヶ月連続のプラスに

2024.03.27

24年1月の「広告売上高」は、2ヶ月連続のマイナス

2024.03.26

24年2月の「全国百貨店売上高」は24ヶ月連続のプラス、季節商品やインバウンド好調で

2024.03.26

24年2月の「チェーンストア売上高」は既存店で12ヶ月連続のプラス、食料品は引き続き好調

2024.03.26

24年2月の「コンビニエンスストア売上高」は3ヶ月連続のプラスに

2024.03.25

消費者調査データ コーヒー飲料(2024年3月版)独走「BOSS」、「ジョージア」との差を広げる

2024.03.22

MNEXT 資本主義の近未来の行方―企業の持続的存続の鍵

週間アクセスランキング

1位 2024.03.12

企業活動分析 マツキヨココカラカンパニーの23年3月期はPB商品拡販やインバウンド需要増加で増収増益

2位 2024.03.13

戦略ケース なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか

3位 2008.07.24

戦略ケース カルフールは何故失敗したのか?

4位 2024.03.15

企業活動分析 スギHDの23年2月期は増収減益。26年度売上1兆円へ向けた挑戦が続く

5位 2016.03.16

【マーケティングFAQ】どうすればブランド力を強化できるか

パブリシティ

2023.10.23

週刊トラベルジャーナル2023年10月23日号に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事「ラーケーションへの視点 旅の価値問い直す大事な切り口」が掲載されました。

2023.08.07

日経MJ「CM裏表」に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事が掲載されました。サントリー ザ・プレミアム・モルツ「すず登場」篇をとりあげています。

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area