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セオドア D. レビット 
1925年3月1日〜2006年6月28日
今日の経営課題を方向づけたマーケティング思考のリーダー
リチャード・メイ

ハーバードで教鞭を取っている晩年のレビットの写真
 今は亡きレビット教授は、その独創性に富んだ論文によりピーター・ドラッカーやフィリップ・コトラーなどの経営学、マーケティングの大家と並ぶ地位に位置付けられている。レビットはハーバードで教鞭をとった後、最近81歳で人生の幕を閉じたが、つい数年前まで、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)の編集長としての任務を担い、ハーバード大学大学院経営学研究科(HBS)の活動に関与し続けていた。HBR の編集長としての任期中、彼は発行部数を増やし、実業界のリーダー達と研究者間との実務的つながりを深めた。彼の教授そして思考家としての影響力は大手企業の役員室にまで及んだ。彼のマーケティング手法、そして顧客価値に注意を払うことを厳しく喚起した提言は西洋および日本におけるマーケティングと企業戦略に大きな影響を与えた。


オハイオ州出身、ポーランド人の実用主義者
 実用主義的な助言を上品で洗練された散文で包み隠したレビットは挿入節を使うのを好んだ。これは彼がドイツで生まれ、少年期をそこで過ごした影響であると思われる。少年期に彼の家族は崩壊しつつあったヴァイマール共和国を発ち、威勢を高めていたナチズムの恐怖を逃れた。そしてアメリカ合衆国のハートランドである、保守的で伝統的な価値が支配的なオハイオ州に行き着いた。少年時代、レビットはデイトンにある学校に通い、その後1951年にオハイオ州立大学で経済学の博士号を取得した。まさしくこの大学は、ロバート・バートルズ教授が1976年にマーケティングの古典的な著書、「マーケティング思考の歴史」を書いた場所である。この著書の中でバートルズ教授はマーケティングの由来を1905年に行われたオハイオ大学におけるマーケティング、流通に関する一連の講義に帰着させている(参照:マーケティング誕生100周年! −マーケティングの歴史的起源 )。

「あなたのビジネスは一体何なのか」
 レビットが注目されるきっかけとなったのが、ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された1960年の彼の論文、「マーケティングの近視眼」であった。この論文は、今日の企業経営陣の頭脳にいまだ鳴り響く「あなたのビジネス(事業)は一体何なのか」という疑問を投げかけた。この論文は1983年の彼の著書「マーケティングの革新」、そして1983年のHBRの論文、「市場のグローバル化」と共に、マーケティングにおけるレビットの傑出した地位の基盤を築いたとも言えよう。彼の「マーケティングの近視眼」の論文が今日、米国や日本で知られている現代的なマーケティング手法の原点であったと言える。レビットは全部で8冊の本を著作または共著した。彼のHBRに寄稿した論文量に匹敵するのはピーター・ドラッカーの執筆量だけである。レビットは1985年から1989年まで編集長としてHBRを指導することにより、HBRを純粋な学問的な刊行物から新鮮な雑誌として、企業の最高経営者の懸念を取り上げた本格的な刊行物へとその読者の幅を広げたのである。レビットは経営者の着眼点を「販売」と「宣伝」という「プッシュ」から「顧客価値」、「顧客リレーション」、「顧客を中心としたマーケティング」という「プル」へ転化させることを目指していた。これらの概念や用語は、インターネット、CRM、ワンtoワンのマーケティング、またはフォーカス・グループと言った言葉が世間に知られるずっと前にレビットが紹介していたのである。

 古典的論文である「マーケティングの近視眼」(1963年著作)は使用された例などから時代遅れととらわれるかもしれないが、その論文の論調、姿勢、語彙から読者はごく最近に書かれたという印象を受けるに違いない。彼の著作「Marketing Imagination」の1988年の改訂版および最新版には、本のひとつの章として、「マーケティングの近視眼」の論文が含まれている。最初に刊行された時だけでなく、現在でもどうしてこの論文が話題になるのかを理解するために、レビットが説いていることを復習してみよう。

* ビジネスの実務は、新しい顧客を生み出し確保することである。経営陣や企業は全体的に運営および生産活動を過度に重視し、顧客を満足させるという最も重要な仕事を怠っている。マーケティングの先見の明のなさがみてとれる。この見解におけるマーケティングとは顧客を見つけ出すと同時に顧客を確保し続けると言うことである。一方、製造、パッケージング、販売促進といった活動に焦点が置かれている「販売」はマスプロおよびマスマーケティングの拡張的活動なのである。

* 消費者が買う気になる値段を決定し、それから生産プロセスの効率が生産コストの低減を引き起こすようにするべきである。消費者が実際に欲している商品を、消費者が公平であると思う価格で、いかに生産、物流、それに対するサービスを提供したらよいかを考えること。無論、それらの商品が消費者の目から見て魅力的であるべきことは言うまでもなく前提条件である。

* 株主は企業がこのようにして習慣的な方法で平均より高い営業利益を生み出すことができることに気がつくであろう。そして余剰利益により企業は競合企業と同等、又はそれを凌ぐことができるのである。株主を保持するためには、株主のエクイティーを増大させることを視野に入れて生産効率および利益という観点から企業ゴールを設定する必要がある。受注、顧客測定、または市場シェアのゴールという観点から企業ゴールを策定するべきではない。

* これらのゴールを実現するために、企業は目的、戦略、方策を計画しなければならない。そして一旦決定したら、これらの計画を明確に宣言し、関与するすべての人間に伝えること。最高経営陣が定期的に計画を見直すことはプロセスの一部である。


マーケティングの概念がメジャーリーグに昇格
 今までは生産と宣伝が最高経営陣の計画アジェンダを独占してきた。レビットの業績は米国の最高経営陣の頭の中にあったマーケティングの位置付けを企業戦略における二軍選手から花形選手、実にチームリーダーに再配置することに貢献したと言えよう。レビットの著書や彼の市場に関する解釈の仕方を見ると、彼の見解が今日の主流のマーケティング思考法に大きく支持されていることがわかる。(彼が世界規模製品の見込みを誇張したとして反対する者もいる。)しかし、彼が思考を紙に記すといつでも彼は学問およびビジネスの分野において有意義な議論を引き起こし、経営陣はそれまで大切にしていた想定やアプローチを再評価する結果をもたらした。

 レビットは第一線のビジネス著作者の一人と見なされているが、少なくとも影響力において彼と比較されるビジネス著作者に比べて彼の実際の著作量があまり多くなかったことは驚くべきことである。ギリシャ神話のプロメテウスのように書かれたピーター・ドラッカーとフィリップ・コトラーの著作量はレビットをはるかに超しているが、米国の20世紀における影響力という観点から、彼は同格に位置付けられている。レビットのつましい著作量を経済学の分野において1991年にノーベル賞を受賞したロナルド・コースと比べる者もいるであろう。コースは若干の重要な学術論文を書いたが、重要ではない学術論文はほとんどゼロに近いことで有名である。文体と心情においてレビットは日本人の企業戦略家、大前研一と彼の著書、「企業参謀:日本的ビジネスの技法」と意気投合したに違いない。

【レビットの主要な著書】
 今日のマーケティングおよび経営陣が最も興味を持つと思われる著作は「Marketing Imagination」(初版:1983年)である。テキストの参考資料を見ると、彼はこの本を1950年から1975年にかけて思考し、読んだことを収集し、1976年に編集を終了し、1976年から1977年にかけて執筆したことがわかる(ロシアのMIG 25ジェット戦闘機がビクター・ベレンコによって函館まで飛行された1976年の「最近」のイベントを参照していることから)。

主要なハーバード・ビジネス・レビューの論文
  • "Advertising: ‘The Poetry of Becoming.’” (3.1.1983)
  • "The Case of the Migrating Markets.” (July 1, 1990)
  • "After the Sale Is Over.” (9.1.1983)
      "The Globalization of Markets.” (5.1.1983)
  • "Marketing Intangible Products and Product Intangibles.” (5.1.1981)
  • "Marketing Success Through Differentiation - Of Anything.” (1.1.1980)
  • "The Industrialization of Service.” (9.1.1976)
  • "Marketing Myopia.” (9.1.1975)
  • "Production-Line Approach to Service.” (9.1.1972)
  • "Why Business Always Loses.” (3.1.1968)
  • "Exploit the Product Life Cycle.” (11.1.1965)
  • "Innovative Imitation.” (9.1.1965)

日本語版
 ダイヤモンド社パブリケーションはピーター・ドラッカーを含む主要なマーケティング思考家の著書の正確な翻訳を長年にわたり出版している。レビットの著書で日本語版が発売されているものは下記の通りである。
  1. 新版 マーケティングの革新(2006年02月)


  2. ドラッカーに学ぶマーケティング入門: レビット、コトラーへと通じる源流 (2006年2月)


  3. レビットのマーケティング思考法
     DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 訳(2002年12月)在庫なし


  4. ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー 2001年11月号
     特集:T.レビットのマーケティング論
     2001年10月 在庫なし


  5. インタビュー:マーケティングの針路/セオドア・レビット /レビット・マーケティング論の意義/フィリップ・コトラー1998年5月 在庫なし


(2006.08)
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