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リチャードの視点
ワインについての文化的なギャップを利用したキリンの「裁定」のメッセージ
−カフェ・ド・文化的裁定
リチャード・メイ

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 ワインがフランス生まれだからといって、シャンゼリゼで冷たいグラスの「桜の香りのスパークリングワイン」を楽しみながら、花見をするフランス人はまずいないに違いない。しかし、キリンは、新しいスパークリングワイン「カフェドパリ」シリーズで文化的裁定メッセージ( 文化的裁定については「文化とマーケティングの「鞘取り」-文化的な差異を利用した市場拡大」をご覧ください)のマジックを使っている。
 キリンは「カフェドパリ」シリーズの導入に際して、日本の消費者に対して、この「桜の香り」のするワインが、一般的なパリジャンの季節の伝統に基づいているというようなメッセージをプロモーションしている。フランスについてのアップトゥデートな知識がない日本人に、キリンが知らせたのは、「パリでは、『春といえば』と問われれば、もちろんパリの並木道の桜の香りをほのかにつけた、白のスパークリングワインだ」ということである。

 日本において文化的均衡−海外の新しい文化を取り入れること−は、大概の場合、表参道界隈のトレンドセッター達の間の外国の新しい文化的体験を探すことと捉えられている。それらの情報が本当に外国の文化に由来しているのかどうかについて、立ち止まって考えられることは殆どない。
 東京の春のカフェライフとパリジャンのそれとの間のキリンの巧みな裁定がどんなものか感じ取るために、表参道あたりのオープンカフェを思い浮かべて欲しい。ここに、ハイヒールを履いた女性の買い物客、ビールや日本酒にかわるものを探しているディナーの客を加えて、そこにワインについて詳しくない日本の消費者を呼び戻してみる。ふつうの日本人のフランスとワインについてのイメージ=文化的なメタファと、フランスにおけるそれらの定義との間におおきな認識ギャップが存在する。パリジャンはおそらく冷たい白のスパークリングワインを選ばないだろうという事実は、東京の買い物客にとってはどうでもよいことだ。「カフェドパリ」の購入者にとって大事なのは、トレンディーな都会のレストランでランチをしながら、文化的価値観のギャップを楽しむ機会を得ることなのである。

赤と白、フランスとイタリアの文化的最前線をカバーする
 キリンは、多様な文化的裁定をワインブランドのラインナップで実現しようとしている。実は「桜の香り」は、既にあったヨーロッパのカフェ風スパークリングワインのラインナップに季節的にブランド拡張アイテムとして追加されたものなのである。「カフェドパリ」がフランス文化、その他に「カペッタアスティ」「カペッタバレリーナ」がイタリア文化を伝えるブランドラインになっている。
 結局、この文化的裁定で得たもの、または失ったものは何だろうか。消費者はだまされたわけではなく、キリンももとよりだますつもりはない。外国生まれの製品を知り、ほんのひとときパリ旅行の気分を味わうことは、誰にとっても楽しいものだろう。東京の表参道のカフェで、パリでも同時にグラスをあげて乾杯しているかもしれない、と思うことは一杯のワインを一層おいしくし、文化の旅はもっと面白くなる。そして我々はキリンがブランド価値を構築するために使った文化的裁定に乾杯するのだった。

我々の分析の金融におけるルーツ
 マーケターにとって、金融市場の取引で考えられてきた裁定という考え方を取り入れることの価値は何だろうか。その答えを探すために、裁定の金融におけるパラダイムに立ち戻ることにする。ウォールストリートの先物やオプション取引市場は、ヘッジファンド、投資家、アービトレイジャーに利益追求の場を提供して、かなりの成功を収めてきた。
 アービトレイジャーは価格が低下したり、割高になったりする金融商品をとらえると、利益の確保のためにこのふたつを相殺する位置を取ろうとする。このような利得はリスクがなくインスタントと言われる:「リスクが無い」のは、マージンがふたつの物の間の価格の差異に基づいた安定した利益であるからであり、インスタントなのは、ふたつの取引が同時に実行される瞬間に利得が現実になるからである。そのため、利益はアービトレイジャーが一瞬のうちに売り買いした安い物と高い物の価格差と同じになる。上手いトリックだ。しかし、同じような物の価値の差異というものは効率的な市場においては一般的には非常にわずかである。更に、戦略的なコスト、例えば仲買手数料、税金、利子などによりこの僅かな儲けの多くが持って行かれてしまう。
 しかし、余裕のある大企業がするような大きなスケールで実施された場合には、そのような取引からの純益は、経験を積んだ人に任せれば、相当な額になり得る。
 アービトレージの理念に基づいた広告キャンペーンの実施費用は、メッセージを作り、消費者に届ける費用である。金融取引のインスタントな利益にはアービトレージに基づいたメッセージが引き起こす確実な悪評もセットになっている:キリンの場合のメッセージは「我々のワインはフランス市民のこの季節の伝統にのっとったものであり、パリジャンでさえも私たちのこの素晴らしいスパークリングワインをおそらく飲みたがるだろう(と思っている)」というものだ。

プロモーションによる裁定−マーケットリーダー達による活用のための戦術的動き
 これは、文化的な裁定のアプローチを使ってのプロモーションが、ある種の業界のリーダーにより実行される場合には、短期の戦術的動きとして効果的である事を示している。文化的な裁定は、消費者が広告に気付き、メッセージを聞き、運が良ければ商品購入へとつながる消費者の短期的な認知の差異に基づいているため、戦略的マーケティングのアプローチというよりはむしろ戦術的動きである。近い将来のある時点でこの消費者は新しい情報を得て、裁定のプロモーションが一時的に埋めていた文化的ギャップを埋める事になるだろう。そうして認知のギャップは埋められ、文化的な裁定のメッセージの魅力は減少する。東京人はそのうちパリジャンのワインの飲み方を知るか、典型的なフランス人が日本の桜に親しんでもいないし、特に桜のワインなどには惹かれることも無いという事を学んでいくだろう。しかし、このような事が浸透した頃には、マーケティング部門は、フランスのファッショントレンドや季節的な変化に基づいた新たな短期的「文化的なアービトレージ」の戦術的プロモーションへと移行しているのだ。その間に、キリンが作り上げた裁定広告とマーケットの位置づけは、そのシーズンに出ている沢山のワインの中からキリン製品を際立たせることになるだろう。

■文化的裁定(Cultural Arbitrage)
(2004.05)
English version




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