III. 経済・情報産業組織について

NEXT STRATEGY 2007
産業融合下の市場多面化(MSM)戦略
- 新しい競争優位づくり

2006.12 代表 松田久一

本コンテンツは、2006年11月15日に行われた当社イベント「NEXT VISION 2007」の講演録と、同日使用したプレゼンテーションをもとに修正・加筆したものです。
本コンテンツの全文は、会員サービスでのご提供となっております。

はじめに

 本日は、市場多面化戦略による競争優位づくりというお話をさせていただきます。先ほどアンドレイさんのお話にありましたような市場の多面化ということを通じて、新しい競争優位をつくっていこうという提案です。

 アンドレイさんとある研究会でお会いして以来これまで約2年間、ご指導いただきながら、議論してきたことをベースに、私どもの実務経験や調査の上で、市場多面化の考え方をいかに現場の実務に利用していくか、応用していくかということをまとめたのが私のプレゼンテーションということになります。

 長年、日本の製造業、ものづくりメーカーと一緒にお仕事をさせていただいて感じておりますのは、メーカーにとって情報、コンテンツ、ソフトというのが大変重要になっているということです。ところが、メーカーはそれをどうもうまく生かしていない。どうやったらそれをうまく生かすことができるのかということをずっと考え続けておりまして、その答えが市場多面化、すなわち、プラットフォームづくりということになると思います。

 本日は、三つの構成で、お話を進めて参ります。最初に、市場多面化、すなわちプラットフォームはなぜ重要なのかということをお話しいたします。次に、強いプラットフォームというのはどう創ったらいいのかということ、そして、最後に、いかにプラットフォームビジネスを皆さんの具体的なビジネスに応用していくかという順で話をします。

01

好景気下の低収益

 早速、本題に入りますが、最初に結論を申し上げますと、現在、高い収益を上げているのは、強いプラットフォームを提供している企業だということです。

 ちょうど今日(2006年11月15日)、58ヶ月の景気拡大が続いたということで、戦後最長の「いざなぎ景気」を超えるという発表があったそうです。「神武景気」は、戦後最初の好景気でした。初代天皇にならって「神武」と命名されました。次に、それより長い「岩戸景気」がやってきました。岩戸景気は、神武天皇より神話にまでさかのぼる「天照大神」に由来しています。天照大神が閉じこもられた岩戸に由来しています。神武よりさらに古い、すなわち長いということを意味したかったのではないでしょうか。そして、1960年から70年の間、これらの景気よりもさらに長い好景気がやってきました。それが「いざなぎ景気」です。これは古事記や日本書紀の国生み神話に登場する天照大神の父であるイザナギの尊に由来しています。それをさらに今回は超しているわけですから、一体どうしたらいいのか。

 今年、お生まれになった「悠仁さま」景気というふうに名づけたらいいのかどうかというのは分かりませんけれども、とりあえず戦後最長の好景気が続いています。

 さて、マクロな景気はいいのですが、ここに主要情報家電メーカー10社のデータをあげております(図表1)。売上は2005年で51兆円、GDPの約10%を占めており、対前年比で104%の伸長です。それから、2006年の通期見通しでは、売上約54兆円、2005年比では同じく104%伸長というレベルまできております。経常利益も2005年は対前年比117%とアップしていますし、2006年の通期見通しでも、同111%というところまできております。株式時価総額も23兆円というところまできております。

図表1.主要な情報家電メーカーの業績見通し(2006年度・連結)
図表

 しかしながら「トヨタ」と比べてみますと、残念ながら圧倒的に利益で差が出ております。情報家電メーカー10社合計よりもさらに「トヨタ」の方が大きいというふうになっております。経常利益率で見ましても、「シャープ」が2006年の通期見通しで5.7%ということで頑張っているわけですけれども、「トヨタ」の半分ということになります。また、お隣の国のライバル、「サムスン電子」は今期見通しの経常利益率11.6%ということで、「トヨタ」を上回っております。株式時価総額は、「松下電器産業」で大体5兆6,000億円ということですが、「トヨタ」は26兆円、そして「サムスン」は9兆円となっております。このように収益では厳しい状況です。さらに、アメリカの水準にまったく達していません。「マイクロソフト社」は、売上は大体5兆から6兆円ぐらいの数字になります。「富士通」と同じぐらいですけれども、営業利益でみていきますと、1兆9,990億円、つまり約2兆円の営業利益があります。実に、37%の営業利益率です。アメリカとは会計システムが違うので単純比較はできませんが、経常利益率レベルでも桁違いであることは間違いありません。クラスが全然違うわけです。そして株式時価総額でいきますと33兆円ということで、「トヨタ」を上回ることになっております。

 この好景気のなかで、バブル期並みの利益水準と言われながらも依然として日本企業、21世紀の経済を支える情報家電産業にとっては収益を上げていくということが大変重要になってきています。

 あまり収益が上がっていない典型的なケースとして、携帯市場を見てまいりますと、世界の携帯電話の出荷台数は、7億9,300万台まで急伸長していますが、もう一方で日本メーカーのシェアは急降下しております(図表2)。収益を上げることができないので世界市場から撤退しているという状況であります。これはなぜだろうかというのが大きなテーマです。結論は、強いプラットフォームを提供できていないからだということです。日本メーカーにとって、好景気ではあるが、その中で、いかに高収益を獲得するかというのが大きな課題になってくるというのが、冒頭申し上げたいことでございます。

図表2.急成長する携帯市場 急落する日本メーカーシェア
図表

02

事業収益の決定要因

 低収益の原因をマイケル・E・ポーターなどが作り上げた枠組みをベースにいたしますと、収益の決定要因というのは、ふたつだということになります。すなわち、どの産業に属するかということと、それから産業の中における競争地位ということです。会計的な観点からいきますと、総資本経常利益率は、資本回転率と売上高経常利益率に分解することができます。どの産業に属するかで資本回転率が決まってきます。そして、売上利益率は、市場での競争地位によって左右されます。つまり、利益率の指標として総資本経常利益率をあげるなら、より魅力的な産業へシフトするか、参入市場のなかでの競争地位を改善するかである、ということになります。このことから、ある企業が低収益であるというのは、あまり魅力的な産業に属していないか、市場の競争地位が低いからだと言えます。成熟産業で競争地位が低ければ、当然、収益は低くなるということです。

 従って、収益を上げるには、ひとつは、みなさんのビジネスが属する産業を魅力的な産業にシフトしましょうということになります(図表3)。一番手っ取り早いのが、伸びている市場に出て行くということです。すなわち、多角化をしていきます。事業多角化、地域多角化、それから国際的な多角化、それから垂直統合によってどんどん付加価値を取り込んでくるというふうなことをやります。

図表3.事業収益の決定要因-戦略オプション
図表

 それから、市場での地位を上げるためにどうするかと言いますと、シェアを上げる、できるだけ寡占、独占状況をつくりだしていくということになります。そのために差別化優位あるいはコスト優位を展開していくということです。アメリカはこういうやり方でやってきました。その結果、「マイクロソフト」は、営業利益率37%、「P&G」でも20数%という数字を残しています。

 相撲に喩えて言いますと、まず、土俵を決める、土俵を決めて戦い方を決める、これをはっきりさせることによって収益を上げていくというのが戦略経営の考え方でありますし、これが今でも6割ぐらいは十分通用する基本的な考え方だと思います。皆さんの事業の中で、もし収益改善を目指すならば、まず産業をいかにして魅力的な産業にシフトしていくかということと、その中における市場地位を上げていくこと、このふたつをお考えになればいいということです。

03

産業融合によって従来の戦略経営が通用しなくなった

 ところが、先端的な産業や情報家電産業ではそうはいかなくなってきている。なぜそうはいかなくなってきているかと言いますと、先ほどアンドレイさんのお話の中にもありましたように、産業融合が進んでいるようだということです。これは、例えば、いわゆる情報家電の分野では、放送と通信とエレキの三つが一緒になっていっているということです(図表4)。

図表4.進む産業融合-放送、通信、エレキ
図表

 今までは、まず、いわゆる堅実なものづくり業界とリスキーなソフトウェア業界といいますか、コンテンツとかあるいは放送局とかそういうものとは画然と分かれていたわけです。ものづくりとコンテンツ、情報の世界というのは分かれていたわけです。産業アナリスト的な見方でみましても、パソコンはパソコン、携帯電話は携帯電話、テレビはテレビというふうに分かれてきたわけですが、今、デジタル技術が共通技術になり、普及していきますと、まずこの垣根がどんどんなくなってきます。パソコンと携帯端末の垣根というのはほとんどなくなってきているわけです。テレビと携帯端末、あるいはテレビとパソコンの垣根もなくなってきているということであります。どんどん垂直非分業が進んでいます。アンドレイさんのお話にありましたように、バーティカル・ディスインテグレーション=垂直非統合が進んでいます。同時に産業間の垣根が全くなくなりました。ライブドアの堀江元社長あるいは村上ファンドの村上元代表に見られるように、いわゆるネットの業界が放送をどんどん飲み込んでいくということもあったわけですけれども、いずれにしましても、ものづくりとコンテンツづくりの垣根が一切なくなって、これが統合されていきます。つまり、これまでの垂直的な分業とそれから水平的な関係というようなものが融合してしまい、産業の融合化、つまりフュージョンがどんどん進んでいくというふうになったわけです。

 これは、収益率を決めていく一方の側が大きく変わっていってしまったということです。どのように変わったかといいますと、垂直分業、垂直非統合が起こる、それから水平融合が起こる、それからもうひとつ市場での地位のとり方が大きく変わってきます。収穫逓増の、どんどんつくればつくるほどもうかるような産業特性になってきた。

 土俵である産業が変わるとともに、戦い方も大きく変わりました(図表5)。「ネットワーク外部性」という「お客さんが増えれば増えるほどお客さんの効用が上がる」という、そういう関係が出てきました。これは、先ほどのアンドレイさんのお話でもありましたが、現代の市場競争を捉える大きなキーワードになります。また、企業のコスト構造も変わってきました。「収穫逓減の法則」から「収穫逓増の法則」が支配する産業になったということです。通常、生産設備の最適生産規模を越えると、単価コストが上昇すると考えられていましたが、最近の半導体や液晶パネルなどの情報家電関連の生産では、生産すれば生産するほど単位コストが低下するという傾向が顕著に見られるということです。つまり、土俵での戦い方、すなわち、市場での競争地位のつくり方が大きく変わってきたということであります。

図表5.産業融合下で変わる収益の決定要因
図表

 これは、例えば相撲で例えますと、朝青龍が頑張って、さあ戦おうかというふうになったと、そうするとひとつは土俵がない、土俵がないのでリングに立ったらK-1のリングだった。出てきたのはオランダのアーネスト・ホーストだった。右四つも突っ張りも利かない。これが今収益が下がっているという大きなひとつの理由だというふうに考えることができるのではないかと思います。

04

儲けないと顧客価値を提供できない

 なぜ、利益を上げるかということですが、ひとつは企業としての社会的責任を果たす、つまり利益を上げて税金を払うことによって、社会貢献するということです。それからもうひとつは、お客様というのはよりいいもの、より付加価値の高いもの、そういうものを望んでいるわけでございまして、そんなふうなニーズに応えようとしますと、どうしても研究開発投資が必要になってまいります。この研究開発を保証するために利益がいるということです。第3番目に、安定的な従業員の満足を満たしていくための雇用を確保していくためにも利益がいるということでございます。基本的な原則からいきますと、売上も達成できない、あるいは利益を出せないということは、社会的な資源の損失ということになるわけです。従って、村上ファンドの村上さんが「儲けることは悪いことですか」という社会への問いがございましたけれども、決して悪いことではありませんで、やはり儲けることは資本主義社会では善いことですけれども、何をして儲けるか、結果としてどれだけもうけられるかということが非常に重要なんではないかというふうに思います。

 逆説的な言い方をしますと、儲けないと企業の存立基盤である顧客価値の提供ができなくなってしまうということだと思います。いずれにしましても、こういうふうに収益の決定要因が大きく変わってきているというのがポイントでございます。

05

独占的な系列システムから強いプラットフォーム供給へ

 では、どんなふうに収益を上げていくかということですが、

[2006.12 『NEXT VISION 2007』講演]