不況下の経営革新
-長期不況下にますます強くなった企業

2002.03 代表 松田久一

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01

90年代の経験

 強い企業は、不況下に成長する。一部上場の大手消費財メーカーから14業界40の事業を任意に抽出し、90年代の業績の推移と戦略を分析した結論である。バブル崩壊後の92年から99年まで8年間の売上伸び率をみると、3分の1の事業が100%を下回るという存続が危ぶまれる状況にある一方で、連続2桁成長し200%を超えた事業がある。業界別に業績を精査してみると、格差が生じたのは、経済成長や業界という環境に依存したものではなく、企業の経営努力と智恵、すなわち戦略の優劣の差であったということがわかった。不況は、強い企業を生み出す機会である。「構造改革なくして景気回復なし」のデフレ政策下において、2~3年の長期不況がやって来る。これからは、長期不況に耐えうる企業体質を獲得し、不況下で成長する企業へと経営改革を進めなければならない。それには、自分の経験ではなく他者の経験に学ばねばならない。バブル崩壊からの10年、90年代の成長企業の事例に学ぶことは多い。

02

不況下に成長した企業

 三つの企業をとりあげる。いずれも中核となる事業において、バブル崩壊後2000年までの間に業界成長を上回る成長を達成し、危機から復活して好業績をあげている企業である。

 味の素は、97年総会屋疑惑事件により、名声は地に堕ちたかと思われた。しかし、逆風を克服して90年代に成長した企業のひとつである。01年3月期の連結売上高約9000億円、対前年110%の伸びとなっている。

 ふたつめは、92年からの8年間で260%の成長を果たした伊藤園である。大手メーカーの参入と新製品投入により厳しい競争が続く飲料業界で、新製品に依存しないで、事業を成長させている。

 三つめは、カネボウである。この10年間に繊維事業をリストラし、化粧品を中核とする新しい企業体へと転換、化粧品業界の市場成長率が3年連続マイナスになる中で増収増益を続けている。

 それぞれの企業がこの10年にどんな手をうってきたのかを追ってみる。