II. 現代の戦略とマーケティング

2.マーケティングの切り口

ロングテール市場下のネクスト・マーケティング
-ローカルの強みを生かしたブランドマーケティング(2006.0801版)

2006.07 代表 松田久一

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はじめに

 「ローカルの強みを生かしたブランドマーケティング」というテーマですが、大きく四つに分けてお話しします。ひとつは、最近のヒット商品の特徴を概観した上で、これから商品・サービスを売っていくためには、これまでのマーケティングの基本的な考え方を大きく修正する必要があるという話です。お客様のネットワークが非常に重要であるというのが結論ですが、このことを含め、現在の市場、お客様をどう捉えればいいのかを整理します。二番目は、その上で地域の強みを生かしたマーケティングをどう考えていくのかという話をします。三番目は、これまでの旧態依然としたレガシーなマーケティングの成功原則とは異なる新しいマーケティングの原則についてです。特に4Pについての基本的な考え方をお話しします。最後に、アメリカで生まれたマーケティングの本質、ブランドマーケティングの成功の鍵とは何かについてお話しします。

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最近のヒット商品の特徴

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最近のヒット商品

 2005年のヒット商品として、リバティジャパンの「かむかむレモン」やシャープの「AQUOS」など30の商品があげられます(図表1)。

図表1.ヒット商品の事例(2005~)
図表をクリックすると、別画面で詳細を表示します
図表
図表2.ヒット商品の事例(2006~)
図表

 今年の動きでは、シャンプー・リンスで、98年末から首位を守り続けたユニリーバ・ジャパンの「ラックス スーパーリッチ」を久しぶりに逆転した、資生堂の「TSUBAKI」、本も映画もヒットしている「ダヴィンチ・コード」、任天堂「DSライト」があります。また、「脳トレ」も凄い勢いで売れてます(図表2)。今もヨドバシ新宿西口本店のゲーム館では行列ができます。商品が入荷すると、「いま商品が入荷しました。これからご案内させていただきます」と西口本店の玄関でアナウンスが入りますが、それを合図に中高年がぞろぞろと行列を作ります。販売員もくたくたです。皆さん同じ質問をするからです。「在庫はありますか」「白はありますか」「ありません」。それをずっと毎日、電話でもやり続けています。これが脳トレの現実です。それから表参道ヒルズです。開業から僅か1年で日本の人口にも匹敵する約1億人を集客した森ビルの六本木ヒルズに続き、表参道ヒルズもお客様を集めています。最近のヒット商品の一例として、こうしたものが挙げられます。


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ヒット商品の共通点

 さて、私どもでは、ヒット商品の独自分析を毎年行っていますが、最近のヒット商品は、これまでの傾向とは違うということが指摘できます。これまでのヒット商品というと、1970年代の第二次消費革命時には、カラーテレビ、クーラー、カーの3Cが代表的です。また、近年では視聴率が50%を割り込み、凋落が喧伝されていますが、NHKの紅白歌合戦は、昔は70%台の視聴率を誇っていました。過去のヒット商品といえば、誰もが知っている商品・サービスであったということができます。

 しかし、最近のヒット商品はどうも様子が違います。これを、私どもなりに整理してみると、つぎの四つになります。

 ひとつは、非常に趣味性が高い商品・サービスだということです。逆にいうとオタク好みともいえます。「男前豆腐」というのが大ヒットしています。以前は三和豆友食品が、今は男前豆腐店という分社独立した企業が製造販売しています。この「男前豆腐」は、阪神百貨店から売りに出されています。同社の「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」も大ヒットしています。シェアが約12%あります。お豆腐の好きな人は本当に豆腐が好きでよくご存知かもしれませんが、こういうものがヒットしているということを知っている人は非常に少ないと思います。

 ふたつは、マス広告の投下量が非常に少ないという特徴があります。昨年のヒット商品、資生堂の「Q10AA」は、ドラッグストア10社を組織化して販売に火を点け、マス広告を投入したのは発売時から数ヶ月経過してからでした。マス広告の投下量に依存せずにヒットした商品が多いことが指摘できます。

 三つめに、取扱店が非常に少ないことです。例えばスーパーや商店街の中で、すぐ買えるような商品・サービスではないということです。日本全国に1,500の商店街があり、スーパーは1万店舗を数えますが、そういうところには置いていない。すぐ手に入るものではないというのが特徴です。

 最後に、相対的に高価格であるということです。例えば、豆腐はスーパーの特売では2丁で100円程度です。「豆腐屋ジョニー」は1丁320円と、普通の豆腐より3倍は高い値段です。それでも飛ぶように売れています。

図表3.ヒット商品の共通点
図表

 このように整理すると、これまでのヒット商品とは違うという印象を強く受けざるを得ません。まず、商品の趣味性が高く、好き嫌いで選ばれる商品だということです。これまでの考え方では、すべての人に受けるものをつくるということがベースでした。しかし、「これは非常にオタク性が高いものではないか」と言われるような商品・サービスがどんどん売れています。また、これまでの定石では、よいものを安くして、大量宣伝広告をし、これに合わせて取扱店への配荷量を最大化して売っていくのがよいとされていたわけです。ところが、最近のヒット商品では、ヒットしてから広告したり、また広告費も十分絞り込まれています。任天堂「DSライト」も松嶋菜々子を使っていますが、これもヒットした後でテレビ広告を投下しています。チャネルにしても、スーパーを敢えて取扱店とせず、相対的に高価格設定です。このように、最近のヒット商品は、これまでの傾向とはだいぶ違うことが指摘できます。


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成功の分岐点

 なぜこのようなことが起こったのか、成功の分岐点という視点で整理してみます。近年のヒット商品が、どんな層に入っていったのかというのをトレースしてみると、ネットワークの入り方が違うということが分かってきました。どのように商品の情報が共有され、お客様の間でどのように情報が伝わっているかという、情報の伝わり方と情報の流れ方に成否が大きく左右されるということが分かってきました。

 まず、マス・ネットワークです。これはマスに向けて大量の広告宣伝を行い、一挙にものを売っていくという売り方です(図表4)。他社に真似のできない原料で差別化した商品を作り、それを圧倒的な宣伝量で告知し、告知と同時点に店頭で配荷が最大になるようにするものです。こうしてつくってきたものがナショナルブランドです。キッコーマンであり、キリンビールであり、松下であり、資生堂のブランドということです。マス・ネットワークでのお客様の情報の入り方は、ある人からある人に一方向で情報が流れていくというものです。肝心なお客様同士の横の情報共有というのがありません。これが、森永製菓の「小枝」、「ハイチュウ」やスバルの「インプレッサ」などのお客様への入り方だったわけです。つまり個に入っていくような入り方で、魚の漁獲方法にたとえれば、投網を投げるようなお客様への入り方だったわけです。

図表4.成功の分岐点 -顧客ネットワークの違い
図表

 ところが、それとは違う入り方をしている商品・サービスがあります。スモールワールド・ネットワークやスケールフリー・ネットワークというものです。これらが、誰も知らないヒット商品を生み出しています。例えば、歌謡曲で100万枚の大ヒットでも、世代間では共有されない歌があります。私は、突然、ジャニーズファンになり、亀梨君や山下君が好きで、「青春アミーゴ」や「抱いてセニョリータ」を「いい歌だ」と思っています。女子中高生には分かって貰えると確信していますが、会社ではなかなかわかってもらえません。でもミリオンセラーとなり、大ヒットしています。そういう構造になっているというのは、実は、スモールワールド・ネットワークやスケールフリー・ネットワークと言われるようなネットワークに入っていっているんだということです。

 私どもの分析では、「かむかむレモン」や東芝「RD-Style」、シャープ「AQUOS」、日産「ティーダ」、ソニー「WEGA」や「ネットワークウォークマン」の一部が、スモールワールド・ネットワークの中に入っていました。また、スケールフリー・ネットワークの代表的な事例として、ネスレの「キットカット」があげられます。これは、何も広告宣伝をしたわけではなく、自然発生的に九州から大ヒットしてきました。コンビニでチョコレートを買うのが女子高生の楽しみのひとつですが、鹿児島弁の「きっと勝つど」という語呂合わせから、受験生の縁起担ぎの話題にも上り、そういうネットワークからヒットしていったということです。また、アップルの「iPod mini」もスケールフリー・ネットワークに入りヒットしました。「iPod mini」のマーケティングは、お洒落な若者が集まる裏原に「iPod mini」を置いていくことでした。同じような事例では、サントリーのアイスコーヒー参入時の大田区でのサンプリングがあげられます。缶コーヒーのヘビーユーザーであるブルーワーカーが多いのが大田区です。中小企業の人たちがものづくりで汗を流している地域です。そういう人たちにサンプリングしていくわけです。それでどんどん広がっていった。その結果、「ボス」というブランドをつくっていったわけです。

 結論からいうと、広くお客様に受け入れられたいと考えるなら、一方的なマス・ネットワークより、スモールワールド・ネットワークあるいはスケールフリー・ネットワークに入っていく仕組みをつくった方がいいということです。

 では、スモールワールド・ネットワークというのは何かというと、ダンカン ワッツらが提唱していますが、一見、全然つながっていない人同士でも、大体5人を介すると必ずつながっているという理論です。情報は、1人ずつ、1人ずつというように、伝えていかないと伝わらないと思えるのですが、1人の人に入れば、情報がワープしていき、ワープしていくことによってどんどん情報が伝わっていきます。それがスモールワールド・ネットワークということです。理論的には、リンクする、あるいはリーチという言い方をしますが、こうした特性を持った人をつかまえれば、その人が自動的にどんどん情報を流していきます。マス宣伝広告というのはそれを無視して一挙に認知を広げていくものですが、それよりも、お客様がお客様に伝えてくれるネットワークを使っていくということが最近のヒット商品の大きな特徴であるということが分かってきました。「男前豆腐」は、未だにマス広告は行っていないと思います。では、なぜはやったのか。北海道の国産大豆100%を使って味が濃厚で、価格も高いのですが、うまいに決まっているわけです。一度食べれば絶対忘れない。後は、どうやってお豆腐の好きな人に食べて頂くかということと、どうやったら他社製品との違いが分かってもらえるかという、それだけを考えればいいわけです。そこで考えていくと、お豆腐好きな人は、スーパーでなんか買いません。百貨店で買う。ならば、阪神百貨店に置けばいいじゃないかということになります。さらに、店頭で分かってもらうにはどうしたらいいかと考えます。これまでの豆腐は四角のパッケージで白ばっかりでつまらない。売り場を真っ黒にしてしまえ、そこに男という字を書け。そうすると圧倒的に目立つわけです。こうして、豆腐好きのお客様のネットワークを使ってどんどん広がっていく。世の中におもしろい豆腐がある、ジョニーというものがある、男豆腐とかというのもあって、変わっているけれど、味が濃くておいしい、今まで食べたことない味だ。そんなふうにして情報が流れていくわけです。こうしたネットワークを使うということです。マーケティングとしては、スモールワールド・ネットワーク、あるいはスケールフリー・ネットワークというものをうまく使いながら、一切宣伝広告をしないで、インターネットの情報提供だけで豆腐の世界観というものを表現するだけで大ヒットを生み出し、2年で売上二十数億円達成という、ビジネ  こういうマーケティングは、実は強者に勝てるマーケティングということです。例えば、ビール業界では、200~300億円の広告宣伝投下量がないと参入できないのですが、そういった広告宣伝投下量が参入障壁になっていたところでも、勝てるチャンスができてきたということです。あるいは今までブランドができなかったところでも、できるようになってきたというです。ブランドができない領域というのは、プレハブ住宅や家具などの業界がありますが、新しいブランドをつくれる領域ができ、同時に、弱者が強者に勝てる機会が、今のブロードバンド時代にはできてきたということです。