II. 現代の戦略とマーケティング

2.マーケティングの切り口

巨大化する家電量販店の支配力

2007.10 代表 松田久一

本稿は、「週刊エコノミスト2007年10月30日号」掲載記事のオリジナル原稿です。

01

ヤマダ電機とビックカメラの激突

 家電流通のトップであるヤマダ電機と業界5位のビックカメラが首都圏市場で激突している。2007年7月、地方での出店と郊外でのローコスト経営で急成長してきたヤマダが、ヨドバシカメラとともに都市型駅前立地で拡大してきたビックの牙城である池袋に出店した。来年度以降は、ビックが拠点を持つ新宿、渋谷等への相次ぐ出店が予定されている。こうした動きに対して、ビックは、池袋各店のリニューアルと人的販売への再投資によって迎え撃った。その結果、首都圏の夏の商戦の結果は、ヤマダは約10%とわずかのシェアアップにとどまり、ビックは約26%へとおよそ5%のシェアアップに繋がったようである(弊社推定)。これはヤマダの出店した店舗の売場面積が3,500m2とビックの池袋での売場のおよそ半分強に過ぎず、ヤマダ出店による池袋への集客効果をビックとの面積比で按分した結果である。夏の陣が終わった8月、ビックは、グループのソフマップが秋葉原に家電量販店をリニューアルオープンさせ、9月には業界7位の九州に出店の多いベスト電器との提携を発表し、攻勢に出た。他方、ヤマダは、新橋に出店するディスカウンターのキムラヤを買収、さらに、ベスト電器の株買い増しを20%程度まで進めると発表し、海外への出店計画も公表されている。ビックとヤマダとの戦い、さらにはエディオン、ケーズホールディングスやヨドバシなどの上位企業の競争は激しさを増すばかりである。

02

バイイングパワーを巡る激しい攻防

 ヤマダとビックの首都圏での激突、さらに、上位企業間の競争激化の背景には、家電流通市場での上位企業への売上集中が急速に進んでいることがある。日本の家電流通市場の規模は約9兆5,000億円と推定され、約5万1,300店によって担われている。上位10社への売上集中度は2000年には38%であったが、2006年度には約65%までに高まっている。このような寡占化が進んだもっとも大きな要因は、売上規模の拡大による低価格戦略が収益に有効だからである。デジタル技術によって製品の同質化が進み、顧客への低価格販売がもっとも顧客獲得と売上に結びつく。低価格販売のためには、店舗のフォーマット化や効率的な売場づくりなどのローコストオペレーションによるコスト削減に加え、多店舗展開や大規模店舗によって売上規模を大きくし取引先メーカーから他社よりも有利な仕入れ条件を引き出すことである。つまり、規模の拡大をバイイングパワーのアップに結びつけ、メーカーへの値引き交渉力をつけ、ライバルとの値引き競争に勝ち、参入企業を淘汰していくという循環が家電流通市場の寡占化を進めているのである。しかし、この競争には首都圏などの都市部と地方や都市郊外というふたつの仕切りがあり、両者は棲み分けてきた。地方や都市郊外での競争に勝ち抜いてきたヤマダは、人口減少と高齢化が進み、所得格差が広がる地方での出店が多く、これまでのようにバイイングパワーを拡大することは見込めない。従って、首都圏や大阪などの都市部に市場侵攻せざるを得ない。他方、ビックは、人的販売に重点を置くヨドバシと競りながら、主要都市に立地し、品揃えの広さとサービスで差別化してきた。そこに、約3倍以上の売上規模を持つヤマダが低価格を武器に出店攻勢をかけてきた。ビックは、これ以上、売上規模で差が開けば、仕入れの価格条件で圧倒的に不利になる。他店にはないサービスを提供しても約30%以上の価格が開けば勝てない。従って、ビックも出店、提携やM&Aによってバイイングパワーを拡大するしかない。つまり、バイイングパワーを巡る激しい攻防の結果が巨大な家電量販店の誕生である。

03

巨大な家電量販店と対峙する情報家電メーカー

 巨大な家電量販店のバイイングパワーと対峙しているのが、家電流通との取引関係のある主要10社の情報家電メーカーである。主要10社の売上規模は日本のGDPの10%以上を超える約56兆円と巨大なものである。これらの企業の売上の約17%を占めるのが、国内の民生用機器のメインチャネルである家電流通である。海外市場や産業需要をおさえる上でも、この市場で要求される低価格と消費者の厳しい品質要求が、これまでの日本企業の競争優位の源泉であった。日本製のビデオ、カラーテレビ、エアコンや半導体などが世界を席巻したのは、国内の消費者の厳しい品質基準と流通の価格条件を満たしたからである。国内で勝てば世界を制することができた。

 家電流通の寡占化と巨大な家電量販店のバイイングパワーは、日本の情報家電メーカーの世界市場を制す勝利の方程式を変えてしまった。上位の家電量販店のバイイングパワーは約6兆円であり、わずか10社に握られている。トップのヤマダの株式時価総額は、三洋電機とパイオニアを上回り、日本電気の約1兆2,000億円と並んでいる。こうした巨大な家電量販店がバイイングパワーを背景に価格交渉に臨む結果、情報家電メーカーの2007年度の予想経常利益率は10社平均で約3.7%と低い(図表1)。

 アジアの家電メーカーで最大の株式時価総額約8兆円を誇るサムスン電子は、現在は、大規模なリストラを進めるほど苦境にあるがそれでも営業利益率は11%の1兆1,000億円である。国内でもっとも高い経常利益率が予想される松下電器やシャープの約2倍である。世界市場でサムスン電子と激突する液晶テレビ、フラッシュメモリーなどの半導体市場などでは、巨大投資による量産効果で低コスト競争が繰り広げられる。家電流通の寡占化によって生まれた巨大な家電量販店のバイイングパワーはメーカーの収益を圧迫し、持続的な大型投資を困難にし、グローバルな競争力を失わせる結果を招いている。

図表1.主要な上位10社の情報家電メーカーと家電量販店の2007年度業績見通し
図表

04

取引先集約によるパートナー獲得競争

 情報家電業界は、流通企業は大手10社に集約され、メーカーは10社からさらに集約されようとしている。その動向を左右するのはメーカーと家電量販店が相互にパートナーを奪い合う取引先集約競争である。

 家電市場が縮小すれば、家電量販店は、売上を維持拡大するために、取引先を集約し、もっとも取引量の多いメーカーに発注を振り向けた方が、取引コストを削減し、値引き交渉力をあげることができる。他業界でもよく見られる取引先集約である。同じことがメーカーにも言える。取引先を集約した方が納入先への物流コストなどが削減でき、よりよい条件が提示でき、取引先の販売意欲も引き出すことができる。

 こうした取引先集約競争が流通サイドからもメーカーサイドからも進み始めている。実際に、10社のメーカーの量販店各社への売上構成には大きな差が見られる。つまり、個々のメーカーは個々の家電量販店を見極めながら条件を変え、家電量販店も取引条件を変えて提示している結果である。こうした取引条件の格差の拡大によって、メーカーも家電量販店も淘汰が進み、最終的には、特定メーカーと特定家電量販店との垂直連携や戦略同盟化が進むと考えられる(図表2)。こうしたパートナーシップ関係の構築に成功すれば、アメリカのP&Gと自社の売上の20%を占め、約40兆円の売上を持ち世界最大のバイイングパワーを誇示するウォルマートとの同盟関係に見られるような共存共栄の関係を結ぶことができる。P&Gの家庭用品の売上は約9兆円、営業利益率は実に約20%である。世界市場を制する日本のメーカーと家電量販店との新たな共存共栄のパートナー関係の創出が期待される。

図表2.取引先集約による新たなパートナー関係へ
図表

[2007.10]