II. 現代の戦略とマーケティング

2.マーケティングの切り口

生活の楽しさ大発見時代の市場多面化戦略
第1回 なぜ消費が低迷しているのか―消費の転換期

2011.03 代表 松田久一

※本稿は、去る2011年2月17日に行われたJMR特別セミナー「"あきらめない"マーケティング―成熟市場での需要開発―」における、弊社代表松田の講演録を要約したものです。

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 本日は話を大きく三つに分けて進めていきます。

「嫌消費」世代の研究
書影

 ひとつ目に、『「嫌消費」世代の研究』(東洋経済新報社、2009)で取り上げた「嫌消費」世代というものが今どうなっていっているのかということです。「嫌消費」世代は、現在27歳~31歳ですが、彼らの消費スタイルはやはり今までの世代とは違うようです。そして消費嫌いな「嫌消費」世代たちが持つ、もうひとつの側面を皆さんに紹介できればと思います(*当社の世代区分を参照)。

 ふたつ目に、彼らが向かっている消費の方向は一体どういう方向なのかということをお話します。それは、ニューノーマル(新しい普通)という方向ではないかと考えています。ニューノーマルとは日本のガラパゴス消費現象ではなく、今アメリカでも注目されている消費スタイルです。皆さんもいろいろな消費財を拡販していく必要があるわけですが、そのときのひとつの手掛かりとして、このニューノーマルという消費スタイルを紹介させていただきます。

 三つ目に、ニューノーマルを攻めるためには、これまでのマーケティングは通用しないのではないかということです。そして、今までの垂直統合的な発想や、4Pで考えていく従来のマーケティングから発想を転換し、市場をプラットフォーム化することが必要になると考えています。プラットフォームと言えば、例えば家電業界だと「何かひとつの共通基盤を作ること」とか、自動車だと「車体を同じにする」とかいうイメージなのですが、同じように、お客様に集まっていただける場を作り、そのプラットフォームをベースにした上で、お客様への価値の提供を考える必要がある、と思うのです。従って、ニューノーマルを攻めるために、プラットフォーム的な発想で戦略あるいはマーケティングを組み立てていくことを提案します。

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なぜ消費が低迷しているのか―消費の転換期

 日本では、消費が低迷し、根拠なき閉塞感が漂っています。日本経済のGDP500兆円のうち、300兆円は個人消費市場です。この300兆円がうまく動いていかない理由は何なのでしょうか。

 原因を五つほど挙げていきたいと思います。

 ひとつは、やはり「デフレだから」。物価が下がっていくのだから当然消費は伸びないという説です。

 ふたつ目は消費者の節約態度です。リーマンショック以降、7割ほどの方が「節約している」と言っています。だから、消費が伸びないのだという説ですね。

 それから、三つ目にエコノミストが好きな説で、「所得が減ったから」という説です。一世帯の家計収入でいうと、97年に年平均59万5,214円というピークを迎え、2010年現在は同52万692円となっています。これにはボーナスも平均して入っていますが、ピークからすれば7万4,522円のダウンです。消費支出額を見ても、97年の同35万7,636円がピークで、それから2010年現在は同31万8,315円となり、マイナス3万9,321円となっています。

 このように、所得が次第に減っていることが、モノが買われていない背景なのではないかという説があるわけです。

図1.平均消費性向の相対的低下
図1.平均消費性向の相対的低下

 ところが、待てよと。平均消費性向はどうなっているのでしょうか。平均消費性向とは、可処分所得の中に占める消費比率です。収入が高いときは、平均消費性向は下がるという傾向を持っています。97年以降、図1のように、収入が減少していますが、収入が減少しても消費支出は下げませんので、平均消費性向は上がっていきます。ところが、2005年以降、バブル後世代が本格的に消費市場に入ってくると少し様子が変わります。図1の近似線を見ていただくとわかりますが、平均消費性向は低下傾向にあるわけです。最新の2010年のデータでは、平均消費性向は74.0%まで下がってきています。ということは、収入に関係なく、平均消費性向が低くなってきていることがわかり、これも消費低迷の一因と言えるのです。

松田久一 著「買わない」理由、「買われる」方法
図1.平均消費性向の相対的低下

 最後に五つ目ですが、消費には世代交代があったと捉えています。

 『「嫌消費」世代の研究』で取り上げ、『「買わない」理由、「買われる」方法』(朝日新聞出版, 2010でも深掘りしておりますが、今、新しい世代が登場しています。

 いわゆる「嫌消費」世代と言われる人たちです。彼らは、「クルマ買うなんてバカじゃないの?」と言いますし、大型テレビも要らないと言います。ワールドカップでの本田(圭佑)のゴールをワンセグで見た若者は約3割います。エコポイントで大型テレビを買ったのはほとんど50代、60代ですし、エコカー減税でプリウスを買っているのも50代、60代です。

 海外旅行については、今は円高で少し盛り上がっていますが、「行きたいところはどこですか」というと、ヨーロッパやアメリカではなくて、オーストラリアと言います。なぜかというと、携帯電話が通じて時差もなく、孤立しないからです。

 それから、グルーポンを含めてクーポンが大ブームです。「化粧水に1,000円以上出すなんて考えられない」と言いますし、「結婚式は意味が分からない」と言う方が大変多いと聞きます。「親のためにやって、人前で恥をかいて、300万円も払うなんて考えられない」というのが、今の若い人たちの結婚式観です。「とにかく30歳までに1,000万円貯めれば何とかなる」と考える「嫌消費」世代。あまり消費をしない世代が登場してきたということです。

 ところが、その背景では、若者たちの貯蓄がどんどん膨らんでいっているのが明らかです。90年代に貯蓄が膨らんでいますがこれは収入が高かった時代ですから貯蓄が高まっていくのは当たり前です。収入が下がっているにもかかわらず、20代は傾向線として上がっています。一方、60代以上になるとどんどん消費性向は上がっていき、平均消費性向の年代差がどんどん拡大していっているというのが今の大きな特徴です。

 日本の消費は高齢者でもっていると言ってもいいでしょう。2009年時点の平均消費性向のデータによると、全体では75.7%ですが、若い世代の25~29歳が一番低くなっていて73.7%、60代以上の方々は90.0%以上です。土地家屋の借金返済も含めると、収入を超えて、貯蓄を取り崩して生活されているようです。

[2011.03 営業力開発]