I. 消費社会をどう読むか

2.マーケティングの切り口

脱大衆社会の生活研究と戦略

1989.12 代表 松田久一

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生活革命元年

 もはや、日本企業にはエクセレントカンパニーがなくなったのではないかと思うほど、平成元年のヒット商品には優れたものがなかった。にもかかわらず、消費は堅調で88年度は約5%の伸びとなった。消費は、戦後最大の景気上昇期間55ヶ月を更新すると噂される好景気の立役者である。この数字と実感との乖離はどこから生まれているのか、今、生活者に何が起こっているのか。今年度注目された新現象から振り返ってみると、「生活革命」とでも言えるような構造的変化がみえてくる。新現象はいくつも指摘された。主なものを三つだけあげてみる(図表1~3)。

図表1.高級化の進行
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図表2.サービス支出の増加
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図表3.海外旅行者の増加
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 第一の現象は、「高級化」である。日産「シーマ」以来、車の高級化はますます進行し、購入中心車種の大型化は、3000㏄に移行している。エクセレントカンパニー「ホンダ」は、こうした状況の中で苦戦を強いられているという声が強い。テレビの大型化も進行した。かつて大型と言われた29インチは店頭では常識化し、一挙に液晶ビジョンの時代に突入しそうな勢いである。どの商品、どのサービスの領域でも、こうした高級化がみられた。

 第二の現象は、「サービス化」である。88年度に、家計費に占めるサービス支出の割合は、50%を超えた。しかも、その伸び率は現在も2桁である。もはや、ものを材料を単独で購入し消費するという行為自体がマイナーなものとなっている。豚肉はハムに従属し、ハムはサンドウィッチに従属し、サンドウィッチはディズニーランドに支配されている。豚肉の単独の需要は、その出身地という情報が付加されない限りもはや店頭存在理由をなくしつつある。製品の高次元の連鎖がますます明確になってきた。

 第三の現象は、「グローバル化」である。海外渡航者数は、日本の全人口の約1割の1,000万人を越え、その支払い金額は2兆円に上る。マスコミで提供される海外情報は、国内情報に匹敵し、「プアゾン」の香水を5本と「ティファニー」のペンダントを7個、購入すればニューヨークヘの片道切符は手に入る。内外価格差である。国家には国境がある。企業と生活者には国境がない。マルクスが百年前に指摘した「資本の文明化作用」である。日本には約1,500の商店街がある。そのうち客数増の見られる商店街はわずか11%である。生活者の商圏、国境を越えた購買行動が生まれている。

 清潔現象、「イカ天」現象、あげれば無数に新現象はある。しかし、これらの枝葉現象の幹にあるものは、何なのか。このことが問われねばならない。

 ひとつの仮説を提示するならば、フランス革命以後200年、大衆社会のもった生活のパラダイムのゆらぎ、新しい生活スタイルヘの模索、生活革命の進行という推理である。

 19世紀、ヨーロッパで生まれた市民社会は、フランス貴族の生活スタイルを模倣する形で新しいものを創造してきた、宮廷料理をつくっていたシェフの食いっぷちとして誕生した外食レストラン、個人主義の裏側に貼り付いた家族主義のもとで生まれた「個室」、「悪臭」を発見し「清潔」になれない農民上の差別化意識に根差す「健康志向」。この新しい生活スタイルがアメリカに渡り、徹底して実利化され、新しい消費文化として戦後の日本の廃墟に持ち込まれる。

 今、このフランス、パリに根をもつ貴族趣味の生活スタイルが世界的規模で実現し、革新されようとしているのである。高級化、サービス化、グローバル化は長い目でみればほんの過渡期現象にすぎない。

 好景気感と現実意識との乖離は、この生活革命によって生まれる新しい生活スタイルを予測できないところにある。