眼のつけどころ

10年で変わった日本人の性格
-「様子うかがい」型から「着実無欲」型へ

2018.01 代表 松田久一

01

性格分析とは何か

 弊社の「エゴグラム」による性格診断の内容を、約10年ぶりに改訂した。

 普段、企業の商品やサービス開発に、グループインタビューなどの質的調査やアイトラッキングなどの「行動心理学的手法」、「社会心理的手法」を利用している。

 こうしたいわゆる質的分析に不可欠な言語的表現、つまり言葉の分析に用いられるのがS.フロイト(1856-1939)によって構築された「精神分析」だ。20世紀の知的遺産のひとつである。

 フロイトの構築した精神分析は、現在はドイツ、イギリス、フランス、そしてアメリカへと普及し、継承されている。日本でも、例えば土居健郎の「甘えの構造」はフロイト理論を日本へ適応させた結論だ。

 アメリカでは、フロイト理論は娘のアンナ・フロイト(1895-1982)を通じて広く普及した。アメリカのドラマを見ている方はご存じだろうが、アメリカでは何か心理的なトラブルがあれば、必ず精神分析医と面接する。そこまで精神分析は定着している。

 エゴグラムは、フロイト理論をヒントに、性格分析や交流分析(TA)に利用されている。しかし、質問紙調査による性格分析は、他人のこころを「性格分類」から知るための「手がかり」に過ぎない。特に、本人が意識できない無意識を把握するのに、質問紙による言語的アプローチで理解できるかどうかは、大いに疑問だ。

 しかし、まったく意味がないわけでもない。消費者のこころを知る手がかりとして使える。私たちは、消費者の価値意識を継続的に研究しており、これは表層意識の研究だ。これに対して、性格分析は深部意識をとらえる手がかりとなる。

 性格とは、対象物や人的関係についての固定的な態度、つまり好き嫌いということになる。この性格、パーソナリティは中期フロイトの理論によれば、「超自我-自我-エス」の精神的葛藤の中で形成され、安定化した外的対象への好き嫌いを意味する。

 当社のエゴグラムでは、理論的には251パターン、量的には31パターンの性格が析出されている(「『性格』から自分と他人のこころを読む」参照)。ここでは、この性格類型の変化を約10年前と比較して、日本人の性格がどう変わったのか、なぜ変わったのかについて紹介する。

02

進んだ性格の同質化

 2008年と2017年の9年間で、測定した性格類型はどう変わったのか。全体で確認できることは、ふたつある。

 ひとつは、性格の上位パターンへの集中が進んだことだ。

図表

 つまり、弊社の性格分類でみると、日本人の性格の同質化がこの9年で進んだ。性格は、家庭内の親子関係や学校などの社会関係によって形成される。つまり、家庭と学校などの環境が同質化したということがいえる。2017年の結果では、たった五つの性格で約47%の日本人の性格をとらえることができる。性格やパーソナリティの多様化が強調されるなかで、実際には性格の同質化、つまり好き嫌いの同質化が進んでいる。

03

「様子うかがい」型から「着実無欲」型へ

 ふたつは、「様子うかがい」型から「着実無欲」型へトップ性格が交代したことだ。

図表

 日本人の生き方は、「状況依存的」である。独身のときは独身の考え、結婚すれば結婚しての考え、子供ができれば子供ができた時の「状況」にあわせて、価値観や考え方を変える。一方で、欧米は価値観が形成されたらその価値観を一気通貫している。しかし、日本ではそういう生き方はあまりない。「なるようになる」のである。

 それを性格でとらえると、「様子うかがい」型となる。周りをよく見て、空気を読んで行動する。経年変化では微増している。このことからも日本人が状況依存的であることは、性格類型からもいえる。

 驚いたのは、性格類型トップの交代だ。

 「様子うかがい」に代わって、トップになったのは「着実無欲」だ。全体の約14%を占める「着実無欲」型は、道徳や倫理を重んじ、理性的に振る舞おうとする性格だ。時系列変化でも約6%増加している。

 この交代の理由は、日本人の性格が、両親などの親的存在からの影響を強く受け、善悪を尊重する性格へと移行したということだ。「団塊の世代」によく見られたような「頑固親父」との対立や反発といった父子対立がなくなり、親にとって、学校にとって、「良い子」が増えたということだろう。子供の育てられ方が、父性による権威主義的で抑圧的なスタイルから、母性的な平等主義的なスタイルへと変わったことによるものだと考えられる。

04

堅苦しい日本人へ

 このように日本人の性格が、およそ10年で変わった。

 その理由は、大きくふたつある。ひとつは、世代交代である。年代別に、性格類型の比率の変化をみると、すべての年代で「着実無欲」が増えている。特に、20-30代で顕著だ。

 2時点比較なので、コーホート分析などのテクニカルな世代分析は難しい。しかし、この年代差から推測できる世代効果は、明らかに80年代以降生まれの「バブル後世代」でより増えているといえる。つまり、性格から言えば、善悪を重視し、合理的に行動する低快楽志向の性格の人たちが増えたということだ。これは1960年代生まれの「新人類」の子育ての結果である。

 もうひとつは、時代環境の変化だろう。2008年は、1991年のバブル崩壊から「失われた10年」が過ぎ、再び「失われた10年」が始まる年である。アメリカ同時多発テロやリーマンショック後の世界同時不況の時期だ。この時期、人々は「様子うかがい」の性格類型でしか時代に適応できなかった。しかし、2017年は「様子うかがい」ではなく、「着実無欲」に、合理的に自分の目標を追求していくという性格が大勢を占めるようになったのではないかと思われる。10代の「着実無欲」比率が16%というのは、こころ強い。

 もうひとつ気になるのは、若い年代ほど性格類型の上位集中が高く、性格の多様性がないことである。先にみたように、家庭や学校での「育てられ方」の画一化を感じる。「低欲望の善人」ばかりの社会に変わりつつあるようだ。私には、日本人が「堅苦しく」なっているように見える。

05

マーケティングへの三つの示唆

 性格類型の変化で、マーケティングがどう変わってくるか。ポイントは三つある。

 ひとつは、態度形成の本質である性格類型の同質化が進んでいるということは、製品への態度であるブランド意識が集中しやすくなっている。つまり、同じ対象製品を見て形成する態度は、同じ性格では同じになると予測できる。故に、性格セグメントをすれば新たなブランド形成の感情の鍵を探すことができるかもしれない、ということだ。

 次に、善悪に対して理性的な性格に対して、比較的相性のいいのは、「自由奔放」型である。つまり、製品サービスの開発やコミュニケーションにおいて、「自由奔放さ」を感じてもらえるものが受容されるのではないか。もちろん、善悪の判断が厳しくなるので、「カロリー制限」「炭水化物制限」などの傾向は強くなる。しかし、これらは購入のための十分条件であって、必要条件ではない。むしろ、必要条件は善悪を越えた「自由奔放」の価値だと洞察する。

 最後に、「将来不安」から消費水準を下げる傾向は薄まりそうだ。日本の将来などの外部環境に依存することなく、自分の目標を追求するのが「着実無欲」だ。つまり、外部環境とは関係なく、遣うものは遣う、節約するものは節約するというタイプといえる。この意味で、外部環境の見方である「将来不安」から消費水準を下げる時代は終わった。予想以上に内需が強いのは、性格類型の変化から来る消費態度の変化が、将来不安に影響されないようになっているからだろう。

書籍イメージ

2017.11 発行
版形:A4版カラー
本体9,260円+税

顧客接点のメルティングとアイデンティティ消費

発刊以来15年間の知見とデータから「今」を鋭く分析し、「半歩先」を提案
オリジナルの時系列調査から現在の消費者の実像に迫る
中長期だけでなく、短期のマーケティング戦略を構築するための基本データが満載