眼のつけどころ

「性格」から自分と他人のこころを読む

2018.01 代表 松田久一

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「こころ」を読む

 誰しも自分のこころを知りたい、さらに他人のこころを知りたいと思うでしょう。これは不可能です。不可能なのに知りたいので、占い、迷信や恋愛コンテンツにのめり込んでいきます。

 しかし、一定の手がかりを得る方法があります。それが「エゴグラム」による「性格診断」です。エゴグラムは、精神分析理論を、実用主義的に計量化しようという試みです。

リニューアルした「データでわかる 辛口性格診断」
図表

 性格とは、人間や対象物に対する固定的な感情や情動、つまり好き嫌いのことです。例えば、お金の使い方に関して、「いつも浪費してしまう」、あるいは「節約家でケチである」などというのも性格の違いによるものです。

 後述するように、このような性格を「肛門的性格」といいます。消費するという「難問」にぶつかった際に、幼児期に「退行」していると分析します。つまり、「欲望(エス)」を「自我」が抑えられないために、「不安」が生まれ、「防衛機制」が働いて、いつも「幼児期」に退行してしまうことによって、お金の使い方に性格が表れるのです。このように、性格を知ることで、その人のこころ=精神の一面を知るという方法があるのです。

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精神分析

 我々が消費者のこころを知るために、もっとも活用しているのは精神分析です。S.フロイト(1856-1939)がつくりあげたものです。特に、「自我とエス」(1923年)は必読文献です。

 フロイトの凄さは臨床経験の豊富さと、科学的な思考による分析です。このフロイト理論が、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどで様々に派生して発展してきています。もちろん、日本でも継承されています。そして、ビジネスとしてもっとも成功したのが、娘のアンナ・フロイトが移住したアメリカです。アメリカでは、ほとんどみながホームドクターのように精神分析医にかかり、インタビューを受けます。分析医は、発達史の中で、被験者が気づかないことを意識に浮上させることを主目的に治療します。

 精神分析とは、こころを精神と考えます。そして、フロイトは多くの臨床経験の中から不安神経症などの病には、個人の精神の三つの部分が「葛藤」を演じていることによって生じるのだという理論を得ました。それが、「超自我-自我-エス」という、みながこころに持つ三つの「自分」です。

 専門家に叱られることは承知で単純化します。「超自我」とは、両親や両親らしい人物から学んだ善悪などの判断です。私たちのこころの耳には、「~すべき」という命令として聞こえます。エスとは、「煩悩」です。「あれがしたい。これがしたい。楽したい。辛いのいやだ」と「快楽」を求める声が、聞こえてきます。自我(エゴ)とは、現実を認識し、その現実にうまく適応しようとします。そのために、超自我とエスの狭間で「現実原則」に従って行動しようとします。しかし、この調整がうまくいかないと様々な症状が現れてきます。私たちは、言語的表現は、この精神のドラマの結果として捉えます。従って、「うそ」ではないのですが、その背景にある「超自我」や「エス」の葛藤の理解なくしては、現実的な解釈はできません。

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分析結果の使い方

 当社の性格診断では、25の質問に完全に答えてもらうと結果がでます。エゴグラムでは、自分はこんな性格として出るとご理解下さい。

「データでわかる 辛口性格診断」結果画面
図表

 結果の読み方は、三つの点に着目して下さい。

 ひとつめは、五つの項目のパターンです。超自我はふたつ、自我はひとつ、エスはふたつの高・中・低がでています。まずは、何が高くて、何が低いのかを見てください。2018年版でもっとも多い性格は、約14%の「着実無欲」タイプでした。このタイプは、超自我が高く、自我が中、エスが低くでています。倫理や道徳にうるさく、理性的に行動し、欲望は低いタイプです。おそらく、2017年に話題になった「不倫」などは許せないでしょうが、心理的な葛藤は少ないはずです。このようにまずは超自我、自我、エスの高さに着目してみて下さい。

 ふたつ目は、性格の命名に着目して下さい。五つの項目の高低のパターン(組合せ)とデータから名前を付けています。「着実無欲」、「様子うかがい」、「かんしゃく玉」、「ひたすら忍耐」、「熱血漢」などです。「欲望本位」という性格も0.9%の方がいます。このひと言の命名から、自分の性格の強みと弱みを再認識できるのではないでしょうか。

 三つ目は、事実であるデータをよく読んでみて下さい。ここから自分と同じ性格の他者がとっている行動が理解できます。性格ですべての行動が決定する訳ではありませんが、自分がとりやすい行動だと理解し、参考にしてください。

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継続診断

 エゴグラムの結果は、自分のこころの一側面を知るだけでなく、継続的に測定したり、他者の性格を知ったりすることで、相手のこころの一部も知ることができます。これはペアや友達と試してみてください。

 継続診断では、精神の安定度や自分の他の性格がみられます。弊社の測定尺度は5段階になっています。そのため、データの再現性の高いものになっています。例えば、11段階尺度にすればデータ精度は高まりますが、再現性はありません。前につけた得点と次につけた得点の一致性、つまり再現性は低くなります。いつも同じパターンのでる人は精神が安定している、演じ続けていると言えると思います。しかし、パターンが複数出現する、あるいは常に違うタイプが出る場合は、精神が不安定か、いろんな側面を持っている性格だと理解できるのではないかと思っています。

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相性診断

 また、友達や異性との相性診断にも使えます。友達や異性に対する好き嫌いは、性格に依存する比重が高いです。他人の好き嫌いは、まずは外見の理解しやすさから生じます。よく見慣れている、つまり自分や親族の容姿に近い他人は、見やすく、その見やすさを「好き」だと解釈しやすくなります。

 従って、兄弟のような、逆に「美女と野獣」のような対称的なカップルが存在するのは認知的な理解のしやすさを「好き」の感情に変換した結果でしょう。さらに、関係が進むと、性格と性格がぶつかります。本当の問題は、性格の相性にあります。その際に、エゴグラムを利用した相性診断では、両者に「補完関係」が高いことを相性がいいと見なします。

 「東男に京女」という「古色蒼然」(古めかしい)言い伝えがあります。これは、気風のいい江戸っ子には、節約家の京女がいいということらしいですが、性格の補完性がいいという側面を言い得ています。

 ここでも、外見と同じ問題が発生します。一般に、自分と同じ性格の他人に好意を持ちやすいということです。「ダメ女」が「ダメ男」に好意を持つのは性格の一致があるからです。エゴグラムでは、「ダメ女」と「ダメ男」はひっつき易いが、すぐ破綻すると見なします。

 つまり、「超自我-自我-エス」のパターンが逆に出現する性格の人と相性がいいということになります。「着実無欲」のタイプには、「欲望本位」のタイプがいいのかもしれない。「様子うかがい」タイプには、「リーダータイプ」ということになります。この相性に関しては今後、さらに実証していきたいと思います。

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エゴグラムとは?

 そもそも、この性格診断で使われているエゴグラムは、アメリカの精神分析の実務家であるエリック・バーン(1910-1970)が開発し、J・M・デュセイによって発展させられた手法です。

 インタビューの代わりに、定型的な質問紙を使って、手軽に計量化しようとする試みです。そして、精神分析理論の「超自我-自我-エス」という三つを計量化して、性格としてこころを理解しようとする実用主義的なものです。

 超自我を、親の側面(Parents)、自我を大人の側面(Adult)、エスを子供の側面(Children)として捉えます。

 さらにこの三つの側面は、親の側面を批判的親(CP)、優しい親から教えの養育的親(NP)の部分、子どもの側面を自由奔放な子ども(FC)と社会順応した子ども(AC)の部分に分けられ、大人の側面(A)、と合わせて五つの尺度を構成します。しかし、エスという無意識が質問紙で捉えられるかは大いに疑問です。ここに、この理論の最大の弱点があります。臨床的にもそう感じます。

 それぞれ測定変数を設定して質問紙調査で得点化し、高中低の3段階に区分します。得られた五つの尺度の高中低の組み合わせパターンを解釈します。エゴグラムによる性格分類数は理論上いくらでも可能です。差を峻別するためには、243パターンが限界ですが、実際の調査で峻別可能なものは31パターンでした。そのため、当社では31パターンを採用しています。一般的には、これで性格を解釈します。しかし、私たちは飽くまでも参考にし、価値観や生活スタイル、買い物や血液型などのデータを測定して、データから性格を裏付けていきます。実証性を徹底させるためです。この部分が他のエゴグラムと違います。従って、データと数字で語る性格になります。

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平常者への臨床経験と消費者データ

 当社が、エゴグラムを活用した性格診断をWebで提供して約20年、およそ900万人を超える方々に利用して頂きました。

 なぜ、わたしたちのような「マーケティング専門コンサルティングカンパニー」が、このようなサービスを無料で提供しているのかというと、消費者ニーズを探り、生活者を理解することが業務の中核になっているからです。つまり、平常者の臨床インタビュー技術と経験を蓄積し、エゴグラムの基礎となる精神分析のもっとも重要な経験を積んでいます。恐らく、平常者のインタビュー経験は、精神分析医の経験を遙かに凌いでいると確信します。

 その成果を、一般の方々に還元し、今後とも協力をお願いしたいと思っています。

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「言語的な言葉」は表面に過ぎない

 当社は、消費者ニーズを捉えて製品サービスの開発や事業開発するお手伝いをしています。そのため、消費者のニーズを知らなければなりません。しかし、ニーズを探ることは、簡単なことではありません。そもそもニーズとは何かという問題にぶつかります。ニーズとは何かの欠乏意識のことですが、これは消費者のこころを知ることと同義です。

 個人のインタビューやグループインタビューでは、発言された「言葉」を徹底的に分析します。さらに、発言者のインタビュー時の態度や表情も分析します。そして、発言された言葉を吟味して、消費者のこころを探ることがプロの仕事です。これには、話を聞く力が要求されます。

 例えば、新製品を被験者に見てもらい、評価してもらって、購入意向などを聞きます。その表面的な「言語的な言葉」を記述し、表面的に理解しただけでは消費者の本音であるこころを理解したことにはなりません。

 実際、90分ほどのインタビューを繰り返していると、明らかにその人の自我に「ぶつかり」ます。また、思い込みの強い倫理や道徳観を実感します。そして、被験者が意識できていない無意識を感じます。

 プロのマーケティングリサーチはそこまでやっています。そもそもグループインタビューという手法がアメリカで開発されたのは、精神分析の応用にあります。「愛人」としてのスポーツカーの開発や、「主婦が手抜きと思われない」ようにするインスタントコーヒーの普及には、この分析が大きく寄与しています。

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最後に

 エゴグラムによる性格診断は結構、参考になると思います。カップルや友達の何人かでやれば、笑えます。しかし、悪いことは無視し、いいことを参考にして、どうか楽しんで下さい。それが狙いです。そして、我々の生活やこころの研究にご協力いただければ、幸いです。近い将来は、「AIスピーカー」で質問に答えてもらい、相性の合う人を紹介できるような仕組みが提供できるかもしれません。

書籍イメージ

2017.11 発行
版形:A4版カラー
本体9,260円+税

顧客接点のメルティングとアイデンティティ消費

発刊以来15年間の知見とデータから「今」を鋭く分析し、「半歩先」を提案
オリジナルの時系列調査から現在の消費者の実像に迫る
中長期だけでなく、短期のマーケティング戦略を構築するための基本データが満載