第11回 ネクスト戦略ワークショップ
「市場溶解期の再成長マーケティング」講演録 提言.

市場溶解期のビジネスモデル変革

2017.11 代表 松田久一

01

ブランドという認知資産を活用したビジネスモデル変革

 日本の消費財メーカーには、誕生から30年、60年というロングセラーブランドが多数あります。長年そのブランドに投資をしてきた企業にとっては、認知資産です。ロングセラーとなったブランドを、これからも売れ続ける商品にするためには、ビジネスモデルを変えていく必要があります。そのために必要な「4Mビジネスモデル」と、変革を行うときに問題となる「組織の壁」の突破方法について、提案したいと思います。

02

ブランドをつくりあげた市場環境

 これまでのブランドは、前提としてハードという素材があって、マスコミに広告を出し、小売りを通じて有料で販売し、ブランド確立するというものでした。しかし、インターネットが普及し、スマートフォンが生活に浸透したことで、製品(Product)、価格(Price)、プロモーション(Promotion)や小売(Place)の「4Pマーケティング」でつくりあげる接点はまったく通用しなくなりました。

03

メルティングする市場環境

 市場環境がすっかり変わり、製品と情報コンテンツの境目がなくなってきています。ゲームやAV関連製品だけでなく、食品などでも製品と情報コンテンツは不可分の関係になりました。おかずをつくるのに、4ステップ以内、30秒以内で作れるレシピがないと食品素材は買わなくなりました。また、食事から「みそ汁などの汁」が消えています。製品を有料で売るという前提も崩れています。スマホゲームは無料でダウンロードし、アイテム課金するのが常識です。ニュースでも大きく取り上げられましたが、食品スーパー「Whole Foods」を買収した米アマゾンも、ネットからリアルへと大きく踏み出しています。小売り業態も、電子取引との区分が曖昧になってきています。(図表1)

図表1 市場の「溶解」 ― メルティング
図表

 このように、これまで顧客接点となっていたオファー(提供物)が、「メルティング(溶解)」を起こしています。「あの世(ネット世界)」と「この世(リアル世界)」は「三途の川」で隔てられていましたが、もはや融合してひとつの新しい世界をつくっていると理解した方がいいようです。

04

「市場溶解期」という段階

 1970年代、K.レヴィットは「プロダクトライフサイクル(PLC)」の概念を提案しました。生物と同じように製品にも寿命があるという考え方です。このPLC概念は、マーケティング立案の前提になおり、「製品ポートフォリオマネジメント」(PPM)の考え方のベースでもあります。

 この概念を製品市場に応用すると、導入期、成長期、成熟期、衰退期があり、「死」を迎えるというものです。期ごとに投資と利益を変えて、マーケティングを変更します。

 しかし、メルティング時代の市場の成熟期には「溶解期(脱皮期)」といえる時期があるようです。何もしなければ、製品ブランドは死を迎えます。しかし、新しい接点を捉えれば、新しい成長の機会が生まれます。現在は、この時期で、市場溶解期にあります。長年培ってきたブランドを再生する絶好のタイミングです。

05

2018年の消費-堅調消費、価値観の変化と世代交代

 消費の行方を捉えるときに必要な視点は、「世代交代」「年代」「ライフステージ」の三つです。アメリカやヨーロッパでは、世代が大きく影響しますが、日本人は状況依存型で、ライフステージが変わるごとに考え方を変えていきます。つまり、市場を見る際には、どのライフステージを、どの世代が通過しているのかを理解する必要があります。そうすることで、10年先、20年先の市場をある程度予測することができます。

 日本人は一般的に22才で大学を卒業して、定年前が収入のピークとなります。60才前後で定年や役職交代で、収入が大きく下がるというのが日本人の賃金プロフィールです。そのために、その「収入の崖」に備えて、多くの人はその手前から支出を抑えるようになります。また、退職金などを使って資産運用する人も増えてきます。

 アベノミクスによる官製バブルにより、資産運用をしている人たちは資産効果がありました。そのため、60代以上の高資産層は、消費を牽引している層のひとつといえます。また、世代交代により、ゆとり世代やリオ世代の若い世代も活発に消費をしています。この世代は、自分に自信があり、アメリカのクリントン世代と似ています。特に20代女性は、海外旅行好きで、写真を撮ってはインスタグラム(写真SNS)にアップするといった特徴があります。一方で、お金を使うのが嫌いで車所有への興味も薄いといわれたバブル後世代も、子育て期に入り、自動車を所有し、子供の教育費や食費などへの消費が多くなっています。(図表2)

図表2 消費堅調を支える3層(上方圧力>下方圧力)
図表

 もちろんアベノミクス効果の恩恵を受けていない非正規雇用や低収入・低資産といった層も存在します。しかし、これらの下方圧力よりも、上方圧力の方が大きく、堅調な消費を支えています。

06

時代のヒロインは「AYA」さん

 時代が変わるときには、ヒーローやヒロインが現れます。クロスフィットトレーナーのAYAさんが、今のヒロインといえるでしょう。「自分に負けない」という強い価値観を感じます。30万人のインスタフォロワーがおり、トレーニングの様子や食事などの写真を、多数アップしています。食事はサラダメインです。AYAさんほどではありませんが、若い女性を中心にサラダをメインにした食事を摂る人が増えおり、専門店も増加しています。一口にサラダといっても、種類やメニュー、中にはサラダ専門店の商品を自宅まで出前してくれるというサービスまで出てきています。

 以上のように「20代女子などの若者層」をはじめとし、「共働き子育て層」「60代以上の高資産層」が堅調な消費を支える3層です。

07

市場溶解期の新しい顧客接点

 ロングセラーブランドにとって市場溶解期にあたる今こそ、成長のチャンスが生まれています。そこで課題となるのが、こういった消費を支える顧客との接点をどうつかむかということです。

 まず、既存ブランドが対応できていない接点がいくつかあります。「消費社会白書2018」の最新データからいえることは、製品そのものや素材に、情報コンテンツやサービスを加え、加工度をあげ、高度なニーズに対応することが求められていること、収益のあげ方、SNSなどを通じて信頼感を醸成して店頭などに送客できるようになっていること、店頭で製品選択のバリエーションや五感説得が求められていることです。また、メルカリのような売り手が買い手になり、買い手が売り手にもなるという商品の社会財化の接点も既存では対応できていません。