眼のつけどころ

消費は浮上しているのか?

2017.05.16 代表取締役社長 松田久一

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 政治的混乱の季節、明らかなことは「世界平和」が遙か遠い事であり、「バランス・オブ・パワー」(力の均衡)が、世界秩序に露出してきたということだ。この状況で、日本は独自の安全保障政策を明確にした上で、世界の経済政策を打ち出すべきだ。そのためには、本当はひと世代分の20年後を睨んで、世界都市東京へのインフラ投資と、地方経済の第二次産業依存からの脱却政策を打ち出すべきである。しかし、日本は政治スキャンダルと、東京政治の「劇場」化で、肝心の経済政策は放置されている。何よりも、まったく消費浮上策が打たれていない。この状況下で、消費が浮上するかもしれないという「観測気球」が上がっている。自動車(登録車)が売れている。居酒屋も久しぶりに浮上した。

 しかし、マクロで300兆円の個人消費が再成長の足を引っ張っている要因は、何も変わっていない。まず、3%の消費増税で都合8%の消費税が下押し圧力になっている。退職年齢である65才に近づく人口は増加し、一挙に収入が減少する「日本的収入減少の崖」が老後への備え意識を高め、消費に回らない。住宅などの選択的耐久財や旅行などのサービスの将来購入への貯蓄意識も高い。借金嫌いは徹底している。消費者にとって、名目金利(ほぼ1%)は実質金利と違って相当高いと思える。

 消費の下押し圧力は何も変わっていないのに、消費浮上の観測が出るのは、失業率がバブル期並みに低く、賃金が上昇傾向にあるからだ。このメカニズムが効果をもたらしている。しかし、これも限定的だ。生産性上昇を伴わない「働き方」改革では、賃金上昇は期待できずに、残業が減れば賃金は確実に減る。さらに、そもそも収入の半分は、収入の価格弾力性が「1」以上の「選択的支出」である。残りが食品などの「必需支出」である。

 つまり、平均で見れば、収入はもはや食べていくためのものではない。やりたい事をやるための収入、つまり「生き甲斐」を求める消費である。これを「モノ」から「コト」へなどと1980年代に流行した廣松渉の「事的世界観」風にスローガンで説明しても意味がない。「似非インテリ」を納得させることができても、現場の実務では何の答えも出てこないからだ。

 賢明な読者ならおわかりのように「生き甲斐」など、そう簡単にわかるものではない。帰りの電車で、「俺(私)は何してるんだろう」と、ふと考えるようなものだ。生き甲斐を探すという不確実性の高い消費に依存しているのが、日本経済である。それが約150兆円である。供給者の実務的な答えは、「生き甲斐」に繋がる価値のある新製品と、ものづくりを超える新しいビジネスモデルを創造するしかない。