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I.消費社会をどう読むか
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2.消費リーダーを斬る
いつまで続く消費不振
代表 松田久一
節約一色の消費
図表1.商業販売統計
販売額の前年同月比伸び率の推移
 消費者の節約志向が強まっている。衣料では割高なインポートブランドが嫌われ、ジーンズでは1000円以下の価格帯で競争が激化している。食では、外食よりも家族で囲む鍋が主流だ。内食が増え、スーパーでは、節約貢献度が高いキャベツやもやしが人気だ。キャベツは芯までムダがなく食べきれ、もやしは野菜のなかでは安くて調理が簡単だからだ。こうした節約消費を反映して、小売業では、百貨店、スーパー、コンビニエンスストアのどの業態も売上は前年を大きく割っている(図表1)。コンビニエンスストアの不振は、スーパーなどの298円弁当と比較され、割高感が嫌われているようだ。
図表2.消費支出と消費者物価指数の
前年同月比伸び率の推移
 節約色が強まり、支出が抑制されている消費だが、経済統計から見れば、不況後の昨年から景気を支えているのは、GDPの約60%を占める個人消費支出である。「実質」の個人消費支出の堅調さが、設備投資の減少、政府支出の減少、円高で揺れる輸出の減少をカバーしている。しかし、「名目」の世界は節約一色である。このような差が生まれるのは、今年度の4月から急速に物価下落が進んでいるからである。従って、物価下落によって、名目では支出が減っているのに、実質では堅調だと言うことになる(図表2)。今後、物価下落が賃金減少に結びつきデフレが進行すれば、実質でも支出は減少し、実感に近い名目と一致することになる。景気の底である。名目の消費の行方を探ってみる。

長く続く消費低迷の構造要因
 名目の消費は長期間にわたり不振である。総務省「家計調査年報」によると、1998年の勤労世帯の一ヶ月当たりの家計費は約354,000円だった。10年後の2008年は、約318、000円である。月額36,000円と、約10%の減少である。このような長期の消費不振の要因は三つある。
 ひとつは、低収入層の増加である。契約社員、アルバイトやパートなどの非正規雇用が増え、低収入化が進んだことである。この傾向は特に女性で顕著にみられ、有職女性の非正規雇用率は53%、年収が300万円以下の層は68%を占める(「JMR消費動向調査」2009年8月実施)。そして、低収入層が増えれば、消費は落ち込まざるを得ない。
 ふたつめは、収入の見通しの悪化である。短期的な収入減少だけなく、将来の収入見通しの不確実性が高まると、消費支出の水準は低くなる。終身雇用制度や年功序列賃金が実質的に崩壊しているなかで、多くの人々は雇用と賃金水準に不安を抱いている。その結果、生涯の予想収入は以前に比べ下方に修正する傾向が強くなっている。そして、予想収入の下方修正に見合う分だけ支出を減らそうとする。
 三つめは、心理的な不安である。現在の平均的な消費者は、収入に占める食費の割合であるエンゲル係数が30%を切り、生活を営む上での必需支出が50%を下回り、消費支出に心理的な影響を受けやすくなっている。少子高齢化や政府の財政赤字などの将来不安が支出にブレーキをかけている。

新たに加わった要因
 この10年間の消費不振の背景にはこうした構造要因がある。これらの要因は、人口、企業の雇用政策、産業構造に起因する日本経済の成長ビジョンに関わる要素である。これらに加えて、昨年来の世界同時不況から顕著にみられるようになった新たな要因がふたつある。
 ひとつは、収入の減少である。厚生労働省「毎月勤労統計」によれば、現金給与総額指数は前年同月比で17ヶ月連続してマイナスとなっている。さらに、09年度のボーナスは夏冬ともに二桁の減少となる。言うまでもなく、企業のコスト削減の結果である。そして、このような短期の収入の減少が支出減に直結している。
 ふたつめは、消費者の世代交代である。世代交代によって、節約好きで、消費嫌いの世代が消費の主役に躍り出たことである(近著『「嫌消費」世代の研究』)。彼らは、80年代生まれで、バブル崩壊後に思春期を過ごした。バブル後の社会の価値意識の混乱、イジメや就職氷河期体験によって、うまく「劣等感」を克服できなかった世代である。その結果、あらゆる面で将来のリスクや負担を嫌う傾向にある。従って、車や家電などの選択耐久消費財の支出には極めて慎重であり、他世代に比べて消費性向が低い。この世代の影響が強まっていることが消費不振に拍車をかけている。

新たに加わった要因
 2010年度、消費不振はどうなるのか。答えは、現在の延長線では消費不振は継続する、である。なぜなら、低収入層の一定の増加、収入見通しの不確実性や将来不安などの構造的な要因に変化があるとは思えないからである。これらの要素を解消する、共通のコンセンサスにまでなった日本経済の成長ビジョンはまだない。従って、構造要因に変化はない。また、新たな付加要因として浮上した賃金減少に大きな変化は想定できない。来年度も不況下で企業のコスト削減努力は続くと思われる。さらに、世代交代は食い止めようがない。
 懸念されるのは、さらなる深刻な消費低迷である。特に、短期的な収入減少にも関わらず、消費が実質で堅調なのは、失業率が比較的低位で推移し、雇用不安に結びついていないことによる。仮に、失業率が上昇し、雇用不安が広がれば深刻な消費低迷に陥らざるを得ない。
 2010年度に消費が回復する余地はふたつある。ひとつは、海外や政策などの外的なものである。中国やアメリカなどの海外の市場回復によって、輸出が伸び、グローバル企業の先導によって業績が回復して、収入や雇用に結びつき、国内消費に繋がる経路である。また、「子ども手当」などの所得移転が消費性向の低い層から高い層への移転になれば消費回復に寄与するかもしれない。もうひとつは、企業などの商品サービスの供給者が、イノベーションやマーケティング革新によって、消費を刺激し、消費不振に終止符を打つことである。企業主導型の消費の回復余地は少なくない。安いだけではない機能性やファッション性のある衣料は売れている。外食は切り詰められているが、内食は増加し、粉ものや鍋の食材は好調だ。外食でも集客プロモーションのうまい店は強い。「話す携帯」は安さが勝負だが、「使う携帯」は消費嫌いの世代にもコンテンツの豊富さで売れている。エコポイントやエコカー減税など節税に繋がる家電や車は売れている。タクシーの利用者は減っているが、マラソン関連グッズは売れている。リアルな店売りは不振だが、情報のあるネット購入は増えている。単なる低価格競争ではなく、新たな顧客接近によるマーケティング革新によって消費を活性化できる可能性は高い。

[2009.12 週刊エコノミスト]


東洋経済新報社より
2009年11月13日発行
定価 1500円+税
「嫌消費」世代の研究
経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち

若者の消費が変化している。若者はなぜ、物を買わなくなっているのか。
そこには巷間ささやかれている「低収入」「格差」「非正規雇用の増加」以上に深刻な、
彼ら独特の心理=「劣等感」が強く影響している。

本書では「収入が十分あっても消費しない」傾向を「嫌消費」と名付け、
大規模な統計調査と聞き取り調査をもとに、「嫌消費」を担う世代=20代後半の
「買わない心理」の原因と深層に鋭く迫る。ビジネスパーソン必読の一冊。


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