I. 消費社会をどう読むか

2.消費リーダーを斬る

ちょいリッチ層がワンランクアップ消費をリードする

2007.06 代表 松田久一

本稿は、代表の松田による社内研修での講演録をもとに加筆修正したものです。

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下流から「ちょいリッチ層」へ - リード層の交代

 ここ1、2年はトレンドとして「下流」が注目され、年収300万円以下の生活が当たり前になる時代であるなど、いろいろと言われてきました。それが一転して、今年になって「富裕層」だと言い出した方がいて、年収5,000万円以上とか、金融資産5億円以上の層に注目せよ、ここがビジネスチャンスだと主張しています。

 弊社では、毎年毎年違ったことを言うのではなくて、長年取り組んできた生活研究の蓄積から、継続性のあるものとして消費社会を捉えようと考えています。そうした観点から、70年代からの30年超のスパンでみると「下流」が注目されたのは過去15年の不況下の現象であって、景気回復下の現在の消費を牽引する層として着目すべきは、他にあるとみています。

 しかし、今言われている年収5,000万円以上というような富裕層は、これは数字になりません。統計的に把握できる1,000万以上の高額納税者(推定年収3,500万円以上の層)は、全国で8万人です。その人口構成比率は政府の統計でみると0.0%です。超高額品や億単位の金融サービス関係では意味があるかもしれませんが、我々がマーケットとして捉えるには規模が小さすぎます。

 収入階層について当社の定義を確認しておくと(図表1)、世帯年収300万円未満を「貧困層」、中流を上中下に分けて「中の下」が300万円から500万円未満、「中の中」が500万円以上1,000万円未満、「中の上」が1,000万円以上5,000万円未満、5,000万円以上を「富裕層」としています。「富裕層」に関して金融資産で区切る見方もありますが、金融資産は運用するとその運用益が収入に含まれてきますので、階層を捉えるにあたっては、結局は収入で区分するのが妥当だろうと考えています。それぞれの世帯構成比は(総務省統計局「家計調査 2006年」2人以上世帯集計)、「貧困層」から順に、11.4%、31.9%、43.5%、「中の上」以上が13.2%となっています。ちなみに、2006年の2人以上世帯の平均年収は642万円、そのうち勤労者世帯では平均707万円です。

図表1.消費リード層の交代 - 下流層・富裕層から新しい中流層へ
図表

 そして今、注目しているのは収入階層の中流層、その中でも「中の上」層です。

 なぜ中流かというと、中流層が88%と大多数を占めていること、景気回復下、さらに中流層が増加傾向にあるからです。緩やかながら雇用者報酬が伸びて、06年の可処分所得は前年比1%増と97年以降10年ぶりの伸びとなりました。背景には景気回復による失業率の低下、企業の雇用政策が長期雇用へ転換していることなどがあります。結果として、貧困層の増加に歯止めがかかり、貧困層が底上げされます。

 一方で中流層の収入階層分化が進んでいると考えられます。長期雇用化、正社員化が進んでも同時に実力主義賃金体系への移行が進んでいます。その結果、正社員の中の収入格差はある程度拡大していくものと思われ、実際に多数派の「中の中」が減少傾向にあります。

 価値意識の面でも「『下』でもよい」、「がんばらなくてよい」といった「下流」志向に歯止めがかかって、上昇エネルギーが出てきている兆候がみられます。消費者調査でも「ニートやフリーターがいい」という意識が大幅に減少しているという結果が出ています。フリーターとかニートとかいくら続けていてもスキルが蓄積しない、人生が見えてこない、そういうことがはっきりしてきた。若者達も寄らば大樹の意識もありますけれども、正規雇用を目指して、戻ってきている。それから、世界で一番利益を出している会社がトヨタ自動車です。企業が人を育てていって、人作りをして、その人作りの中からしか、その会社固有の差別的なものは創り出せないのだ、そういう経営スタイルが望まれている。企業側の雇用政策の転換と、働き手の側の意識が変わり、そして雇用が回復してきた。こうしたことが価値意識に影響を与えて、「中の中」から「中の上」の「ちょいリッチ」を志向する上昇エネルギーの源泉になっているのだと思います。