I. 消費社会をどう読むか

3.時代の流れを読む

東京像の起源

1986.08 代表 松田久一

 新幹線で大阪から東京にくると車両は品川付近から徐行をはじめ、15度程車体を傾斜させながら東京駅構内にむかって加速度を零に近似していく。東京の風景はこの時一挙に露出される。一日平均1,328人の移住者たち、約38%の東京以西の新幹線利用者たちの東京像の初源はこの実物の風景に違いない。

 大阪や京都、関西の風景にはいつも背景に緑や紅の山々がある。行き場のない過剰な自意識を自然に帰してくれる空間が身近な距離にある。新幹線から見る東京の風景は、日本一広い平野を圧倒的な数の低中層住宅がおおい超高層ビルが大地をつきさしている。山々を背にもたない風景に移住者たちは初めて出会う。

 この風景は万人の一人のための願望実現という東京と、行き場のない自意識をつぎつぎと繰り込んでいくしかない疑似時間をもつ東京という像を二重に結実させる。これは人間のふたつの原基的なつきあい方の違う事の暗喩にもなっている。千人の移住者たちは、やがて、遠方化された自然とのつきあい方と行き場のない自意識を街の雑踏のなかに放置する術を学びながら、風景にとけこんでゆく。

 東京は毎日、毎日、千人の移住者たちを迎えながら、世界一の瞬間移動力をもつリゾームのような地下鉄をはるかに凌ぐ万人の願望を埋蔵させながら、すこしずつ、すこしずつ、願望実現の挫折として、あるいは、成功として風景を進化させていく。

 1億2,000万Kwの電力消費量、758億Kcalのガス消費量、ありとあらゆる自然エネルギーを入力し、2万3,000トンの産業廃棄物、1万7,000トンのゴミ、ありとあらゆる人工物質を産出するのが、東京24時間自然質料転換システムである。この代謝量を千万人の体重に換算すると、一人平均40トンの重さになる。地球上の生物進化の歴史の中で、この重さに匹敵するのは、控えめな願望しかもちあわせていなかった恐竜である。人間の願望は無限の自由度と次元をもち、地球の重力との妥協が体重を構成する。40トンにまで太った体重を支える東京人の願望進化はどこまでも東京像の初源となる。

[1986.08 「営業力開発」 日本マーケティング研究所]