I. 消費社会をどう読むか

2.消費リーダーを斬る

小収入格差が生む新しい世帯層-市場チャンス

1999.04 代表 松田久一

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収入格差の拡大

 アメリカが収入格差の大きい階級社会であることはよく知られている。収入で購入するチャネルが異なれば購入するブランドも違う。日本では、「ルイヴィトン」でも、「エルメス」でも誰もが購入できるし、実際にもっている。これは、日本が諸外国よりも、豊かで収入格差の少ない国であると思われてきた証拠でもあった。ところが、近年になって、収入格差が拡大してきている。「平成十年家計調査報告」(総理府)によれば、勤労者世帯で、実収入の年間収入五分位階級別の第I階級(下位20%の層)に対する第V階級(上位20%の層)との格差は、3年連続拡大し、2.88倍になっている。平成10年の月額で比較すれば、第 I 分位の実収入325,898円、消費支出、228,770円、に対し、第V分位は、939,457円、510,540円となっている。実収入で、月額で約61万円、消費支出で約28万以上の差が見られる。

 時系列でみれば、91年のバブルのピークでもっとも拡大し、バブル後に格差が縮小し、95年でボトムとなり、96年以降、再び格差が拡大している。バブル時は、土地や株の値上りが資産価値を上昇させ、キャピタルゲインなどによる収入格差を拡大させた。資産の格差が収入の格差を生んでいた。

 バブル後は、資産格差が縮小するとともに、逆資産効果が生まれ、収入格差は減少傾向にあった。その収入格差が、3年連続して拡大し始めたのである。

 この収入の格差は、趣味のレベルではなく、実体としての異なる生活ニーズの違いを生み出している。収入格差はこれからの市場機会を探っていく上での大きな切り口のひとつである。収入格差が今後どうなり、どんな市場変化をもたらすのかを探ってみたい。

 収入格差が拡がっている理由はいくつか考えられる。

 もっとも大きな要因は、経済のグローバル化、規制緩和によって、日本企業の雇用政策が大きく変わってきていることである。これによって、失業者が増大すると同時に、企業の業績格差が生まれ、企業間従業員の収入格差が拡大している。さらに、企業内の賃金格差が能力主義へと転換することによって個人格差が拡大している。終身雇用、年功序列賃金体系、企業内社会保障制度などの日本的雇用政策はコスト高となり、もはや、維持できなくなっている。

 ふたつめは、こうした経済の構造変化の条件とともに、人々の価値意識が「結果平等主義」から「機会平等主義」へと転換し、実力主義による格差を意識的に受け入れる土壌が生まれていることである。高賃金への出世レースへの参加機会が平等であれば、その結果に開きがでてくるのは当然である、という意識が広範に広がっている。

 格差が生まれることについての価値判断は様々である。しかし、金融ビッグバンが進行し、企業業績が「利回り」によって評価、「格付け」され、経営効率を無視しては資本調達ができないことを考えれば、この動きは不可逆的なものとなっている。

 日本企業は、収入格差の少ない伝統的な雇用政策を維持することができなくなっている。20、30代で実績より収入が下回り、40、50代で実績よりも収入が上回り、定年時に実績と収入が一致するという特殊な賃金の「カシカリ」関係は、企業にとっても、被雇用者にとっても耐えがたいものとなっている。

 大正、昭和初期の時代が階級社会であったことは忘れられている。90%もの人々が中流意識をもつ平等社会へと転換したのは戦後であり、恐らく、実現されてから約30年の歴史しかなかったのである。