I. 消費社会をどう読むか

1.消費トレンドを読む

不安防衛によって生まれる消費

1998.01 代表 松田久一

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日本が危ない

 ふだんの生活には心配事や不安が常にある。生活とはこうした不安や不快を取り除き安心や快を増進しながら生きることである。6月なら梅をつけ梅酒を造り、梅雨の不順な天候に気配りし、夏の計画や対策を立てる暮らしぶりである。

 最近、新型の食中毒を背景に、日常生活での不安が増大している。

 食品、飲料では、わさびや緑茶が売れている。わさびの殺菌機能が見直され、「わさび風味ドレッシング」、「わさびマヨネーズ味のカップ焼きそば」、「わさび味のポテトチップス」などの新製品が導入されている。伝統食品であるわさびが見直されている。事情は緑茶も似ている。緑茶の成分である「カテキン」の殺菌機能が注目されているのである。薬品、トイレタリー分野では、カテキンシートのマスクなどの抗菌グッズや殺菌商品が売れている。これらが、O-157や花粉症対策であることは言うまでもない。

 収入と支出に関わる不安も多くある。支給年齢の上昇などの年金制度の見直し、企業のリストラクチュアリング、超低金利下での資産運用など将来の収入の行方は見えない状況にある。支出では、消費税のアップ、教育費の増大、医療保険改正にともなう医療費負担の増加がある。

 幼い少年や少女を対象にした誘拐や殺人などの事件の多発、金融ビッグバンや財政赤字などの経済問題、出生児数の減少にともなう人口減少と加速化する高齢化、崩壊が叫ばれる家族、激動するアジアにおける日本の安全保障などの政治問題も山積みである。さらに、阪神大震災の記憶も新しく、温暖化などの地球環境問題も気がかりである。

 「日本の命数は尽きつつある」(サンサーラ3月号)、「株価が見抜いた日本の未来」(文芸春秋3月号)、「日本株式会社が立ち腐れていく」(現代3月号)、これらのタイトルを素直にみれば、「日本が危ない」(アエラ)という見方に到達する。一方で、収入は微増し、資産はわずかながら上昇しているという現実もある。消費支出が対前年同月比でマイナスになったのは96年度で三ヶ月に過ぎなかった。これらの不安材料である問題群をすべて自分に引き寄せれば「私が危ない」という不安に繋がる。「私が危ない」という危機意識が新しい消費を生み出している。つまり、メディアが創造する「現実」が生み出す危機意識が、「仮想不安」を生み出し、その「防衛機制」が生み出す欲望に対応した商品やサービスが消費のトレンドになりつつある。