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HOME > JMRからの提言 > 提言論文 > 戦略 > 消費転換期の「もう一度選ばれる」ONE-UPマーケティング

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消費転換期の「もう一度選ばれる」
ONE-UPマーケティング
~今、売れているものに学ぶ~
 消費者の景気認識が急速に悪化している。実態としての雇用や収入は悪くなっていないが、先の見通しは良くない。当社の調査では、景気について「よくない」と感じている人の割合は89%に達し、今後についても77%が「悪くなる」という厳しい認識がもたれている。その結果、消費マインドが急速に冷え込んでいる。
 しかも食品やガソリンを中心に値上げラッシュが続き、生活コストは確実に増加している。消費者は生活コストを見直し、必要なものを絞り込んでいる。商品の選び直し、選択行動の変化が起こっているのである。一方、企業側もマーケティングコスト削減は避けられない状況にある。売れるものを絞り込み、それに資源を集中するようなマーケティングコストの再配分が試行されている。こうした結果、多くの商品分野で売れているものと売れていないものの格差が出てきた。
 ここでは、売れているものを消費者の選択行動という観点から分析し、消費者にもう一度選ばれ、勝ち残っていくために必要なマーケティングへのヒントを提供したい。キーワードは「ONE-UP」。ワンランク上の品質を提供し、競争相手よりも一歩先んじるマーケティングである。

今、売れているもの、売れていないもの
 現在売れているものと売れていないものをそれぞれ30取り上げた。同一商品分野であっても売れているものとそうでないものがあるのは消費者が必要なものを選択、絞り込んだ結果である。この差はどこにあるのか、売れているものを消費者の選択行動という観点から分析すると、「ONE-UP」という五つのキーワードで整理することができる。

(1)Opportunity - 生活行動の変化によって選び直されたもの
 生活コストの見直しによって行動と生活シーンが変わった結果、売れている商品がある。これらの商品は、これまでの中心客層とは異なるユーザーに支持されている。典型例が食品に現れている。乾麺のパスタやパスタソースなどの関連商品、あるいはカレー鍋の素が売れているのは、ガソリン代高騰が生活行動を変えたからである。ガソリン代が上がったこの春以降、ファミリーレストランやショッピングセンターの客数、売上が減少している。その多くは郊外に立地するため自動車での移動が必須であるがガソリン代が上がったため、外出や外食の頻度を減らしている。結果、内食へ回帰する傾向が続いている。その中心はファミリー層や独身層で、家庭での食事機会が増えてパスタやカレー鍋を利用しているからである。マックベーカリーは100円という価格が受けて、それまでは他商品ですませていた朝食やおやつ代わりに利用されている。

(2)New interface - 確かな用途、使い勝手が上がり選び直されたもの
 新しい機能や用途の提案が消費にとって確かな用途を生み出し、使い勝手が良くなったことで選ばれている商品がある。この7月に発売された「iPhone」(アップル)は、タッチパネル方式という新しいインターフェースが使い勝手をよくし、App Store(アップストア)という新しいサービスが新しい用途を生み出し、日本のみならず全世界的なヒットとなっている。こうした使い勝手の向上や用途提案はウルトラモバイルPC、PS3といった情報家電だけでなく多くの商品カテゴリーでみられる。下着とトップスのふたつの機能を併せもつユニクロの「ブラトップ」や新規性のあるデザインのブラシと下地、専用クレンジングの3アイテムで新しいマスカラの使い方が受けている「マキアージュ」、手軽な軽食・ランチとして長年提案し、その種類も50以上あると言われる山崎製パン「ランチパック」は前年比180%と猛烈な勢いで売れている。「クロレッツアイス」も液体ミント入りという新基軸によって2ヶ月で1千万個を販売することに成功した。また、「PSP」もモンスターハンターポータブル2ndGというヒットソフトの発売によって使えるゲーム機としての認知が浸透し、ニンテンドーDS Liteを初めて追い抜き、上期販売台数のトップにたった。

(3)Enhanced needs - よりニーズが強くなって選び直されたもの
 消費者が生活コストを見直した結果、よりニーズが強まった商品が選び直されている。この間強まったニーズのなかで顕著なものがふたつある。ひとつはメタボ対策ニーズである。この4月よりメタボ健診がスタートし、中高年層にとってメタボ対策は一過性のものではなく深刻な悩みとなった。おなかを引き締める効果のある「クロスウォーカー」(ワコール)は、中高年男性の支持を受け、6月で年間販売目標を達成した。糖質ゼロの「ワンダ・ゼロマックス」(アサヒ飲料)は発売2ヶ月で年間目標の4割を超える売れ行きである。このほか多くの「ゼロ」関連の新製品が発売されたのは記憶に新しいところである。
 もうひとつはエコ・環境ニーズである。原油高、食品値上げが続くなかで、環境コスト削減ニーズは着実に強まっている。植物原料を主原料にした化粧品「ロクシタン」は5月の渋谷店オープンを契機に人気に火がつき、「フィット」(本田技研工業)も昨年10月のフルモデルチェンジで燃費性能、排出ガス基準低減を実現し、9ヶ月連続で車種別販売台数ランキング1位を維持する人気を博している。

(4)Unchangeable price - 値段の変わらないうれしさから選び直されたもの
 この時期、もっとも売れる理由が明らかなのは、値上げが続くなかで、値段が変わらないことが消費者の喜びを生み、選ばれている商品である。大丸の3万円スーツなど百貨店の低価格商品が値段と信頼を両立させたことからヒットしている。
 カップ麺市場は数量減が続いているが、ヤマダイのカップフライ麺は、1月3割増、2月6割増、3月5割増と好調が続いている。その要因は、「ニュータッチ 懐かしの」シリーズがヒットしたことである。同シリーズの6月現在の希望小売価格は140円であり、同時期に値上げされた日清食品の「カップヌードル」シリーズよりも30円安い。また、サラダオイルに代表されるPBも、変わらない値段の安さが支持されている(一部企業でPB値上げを発表)。

(5)Performance - より高いパフォーマンスによって選び直されたもの
 品質の良さ、パフォーマンスの高さで売れているのは、ベンツ「Cクラス」である。自動車全体の需要が落ち込んでいるなかで前期比2倍の販売台数を達成した。一昨年からヒットが続いている、サントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」もビール系飲料の需要が落ち込む中で好調を維持している。これらは通常よりも値段が安いという単純な理由ではなく品質の良さが信頼されているからである。
 また、値上げしたにもかかわらず売れている商品がある。値上げした商品の多くは売上・数量減に苦しんでいるが、グリコ「ジャイアントコーン」は値上げしたにもかかわらず数量を伸ばしている。この3月に100円から120円に値上げしたが、同時に生チョコなどで風味とおいしさをアップしたことでコストパフォーマンスは値上げ前と同等の評価を得ることにつながったのである。ロッテリアの「絶品ダブルチーズバーガー」も同じである。テスト販売で予定数の10倍を超える売れ行きをみせた「絶品チーズバーガー」は360円と通常より100円以上高い値段であるが、高品質のチーズをふんだんに使い、ハンバーガーらしいハンバーガーとして全国発売し、500万食を突破する大ヒットにつながった。これに続く「絶品ダブルチーズバーガー」は490円と通常の価格帯を大幅に超えているにもかかわらず160gのパテがジューシーな肉汁と食べ応えがあり売れている。

シェア拡大のチャンスと脅威
 消費者が生活コストを見直し、商品の選び方を変えた結果、多くの商品・ブランドが売上不振に悩まされている。一方で、先述のような特徴をもった売れる商品が存在している。裏を返せば、現在はシェア拡大の絶好のチャンスと捉えることができる。
 市場シェアは顧客ニーズ、競争相手の戦略、自社の戦略によって規定される。市場シェアが安定しているということは顧客ニーズの変化が少なく、自社と競争相手の戦略に変化がないか拮抗しているからである。現在がシェア拡大の最大のチャンスであるのは、これらが大きく変動しているからである。顧客ニーズは先々の見通しの悪さと値上げによって生活コストを見直し、必要なものを選び直す動きが起きており、大きく変わろうとしている。
 企業の力関係もマーケティングコストの見直しによって変化している。とくに大きな力関係の変化を生み出しているのが値上げである。単純な10%の値上げは、競合が値上げしない場合、約9%の競争力低下、顧客へのパフォーマンス低下を意味している。事例でみたように単純な値上げでは消費者は選んでくれないのである。
 このような時期に強くなった企業、ブランドはその後も強くなることは、過去の歴史が物語っている。
 値上げをシェア拡大のチャンスと捉え、変わる顧客ニーズと選択を見極め、いち早くマーケティング戦略を転換させることが、消費者の選び直しを勝ち抜いていく鍵となる。
 「ONE-UP」マーケティング、ワンランク上の品質を提供し、競争相手よりも一歩先んじたアクションを採ることを提案したい。

図表 今売れているものと売れていないもの



本稿は、松田代表およびリチャード・メイの貴重な助言をもとにしております。謹んで御礼申し上げます。

(2008.08)

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