| 爆発する世界市場での 日本の情報家電メーカーの生き残り戦略 -サムスン攻略法 |
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| 松田久一・舩木龍三 | |
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日本の主要な8社の情報家電メーカーの業績が回復し、積極的な投資の動きも一部には見られるようになった。言うまでもなく、中国などの新興国の景気回復が鮮明になり、情報家電製品の輸出需要が拡大しているからである。また、国内では、薄型テレビのようにエコポイントなどの政府支援策と低価格化によって需要が拡大している。
円安バブルによって、世界市場での価格競争力を回復し、ようやく反転攻勢にでようとした際のリーマンショック以後の景気後退と円高は、日本企業にとっては極めて厳しい結果をもたらすことになった。さらに、旺盛な国内需要を背景に成長し、資金調達力を拡大し、技術導入によって、品質競争力を持ち始めた中国企業に、国内市場で、低価格攻勢に出られれば、さらに、厳しい状況に追い込まれざるを得ない。このような状況に無策で臨めば、国内外含めたM&Aの嵐と海外独占メーカーによる業界再編は避けられない。それは、日本の産業、非雇用者や消費者にとっても必ずしもよいことではない。 この難局に、日本企業は、「ものづくりの復権」や「品質差別化」によって新たな可能性を開こうとしているように思える。米づくりの伝統を引き継ぐ、高品質のものづくりの鍵となる「すり合わせ」によって差別化を図ろうとするものである。しかし、この戦略だけではもはや生き残れないことは明確である。 第一に、もはや品質では差がつけられない。日本製も韓国製も、日本製の原材料を使用し、同じ日本製の製造装置で製造しているのだから、差別化の源泉はほとんど同じである。第二に、数千程度の部品のすり合わせによって生まれる高品質も、もはや30%以上の価格差が開けば勝ち目はない。リーマンショック後にすすんだウォン安と円高の同時進行は、世界最大の情報家電市場であるアメリカでの日本製と韓国製の価格差を一挙に拡大した。液晶テレビなどの同一カテゴリーでは、日本製は20%高くなり、韓国製は20%安くなったようなものである。 それでは、日本企業はどんな戦略を構築すれば、世界市場で生き残ることができるのだろうか。戦略構築の前提としての顧客と市場の見方、そして、日本企業の最大のライバルとなったサムスン電子の強さと弱さの分析、そして、日本企業の生き残り戦略の代替的な可能性を提案したい。
1.日本の情報家電メーカーの苦しさ(1)爆発する世界の情報家電市場世界の情報家電市場は、成長期にある。背景にあるのは、世界的な中流人口の増加である。20世紀は人口爆発の時代と言われたが、21世紀も人口増加は続く。国連人口部推計による2005年の世界人口は65億人、2050年の将来予測(中位推計)では91億人と約1.4倍にまで膨れあがる。人口拡大の原動力は、新興国である。アジアは2005年の39億人から53億人へ、アフリカは9億人から20億人へ拡大する。先進国(日本、欧米、豪州)の人口比率は19%から14%へと低下し、新興国では中流人口の増加が予測されている。 これにより市場魅力度の世界地図は塗り変わる。アメリカ家電協会(CEA)によれば、2010年は、欧米と日本を含むアジアの市場規模は同一規模になると予測されている。翌年には、アジア市場が欧米を上回ることは必至である。今後の人口拡大を考慮すると、欧米、日本からBRICsへ、そしてVISTAへと市場魅力度は変動していくだろう。 (2)変わるキーテクノロジー、すすむ産業融合一方、業界における技術や産業そのものが大きく変わろうとしている。情報家電業界では技術革新が絶えず起こる。それも不連続なカタチで急速に進んでいく。今後、注目すべき四つの技術革命をあげる。ひとつは、「クラウド革命」である。インターネットの雲(クラウド)の向こう側からサービスを受けるようになると、自分自身でソフトウエアやデータを保有、保管していたスタイルがなくなり、ユーザーのハードに求めることや利用スタイルは大きく変わっていく。ここで鍵となるのはアプリケーションやプラットフォームを制することにある。単なるものづくりでは製品価値を高めることは至難の技となる。 第二は、「ストレージ革命」である。HDDやSSD、NAND型フラッシュメモリは大容量化がますます進んでいく。これにより応用製品の大幅な需要拡大が見込まれている。TVやスマートフォンのみならず、電子書籍端末、iPadにみられるように新たな次世代携帯端末が生まれようとしている。 第三は、「4G革命」である。携帯電話は現在、第3.5世代(3.5G)となっているが、2010年末からドコモが3.9G(スーパー3G)サービスを開始する予定である。これは、下りの通信速度で100Mビット/秒以上を実現するものだが、2012~2015年には4G時代が到来する。通信速度は最大1Gビット/秒と飛躍的になる。 第四は、「スマートエネルギー革命」である。脱石化エネルギーをスマートエネルギーと定義するが、本命は太陽光発電である。スマートエネルギー革命を支えるシステムとして注目されているのがスマートグリッドと呼ばれる次世代電力ネットワークである。一般的にイメージされているのは、家庭/ビルの利用者はIT化された「スマートメータ」で、電力エネルギーを賢くマネジメントし、電気は蓄電され、電気自動車にも利用しようというものだ。 このように産業構造を規定したキーテクノロジーが変わることで、産業融合、コンバージェンス革命が起こる。数年前から言われているデジタルコンバージェンスは、情報家電とコンテンツ、サービスとの融合で、アップルやグーグルが進めようとしているが、これが一挙に加速することは間違いない。 注目しないといけないのは、もっと大きな産業融合である。ひとつは自動車産業との融合である。電気自動車、ソーラーカーの時代になると自動車は完全にエレキ化する。そうなると移動にまつわる情報、サービスとの融合もすすみ、移動システム産業に変貌していくだろう。また、住宅や街との融合も進んで行くであろう。住宅のエレキ化であり、総合リビング産業のような業界に変わっていくことが予想される。 (3)競争力を失う日本の情報家電メーカーこうした市場や技術、産業が変貌を遂げようとしているなかで、日本の情報家電メーカーは、先に見たように、世界市場での競争力を失いつつある。なぜ、このような事態に陥ったのか。半導体から始まり、現在の液晶テレビまでの敗北と劣勢を振り返り、その要因を整理したい(図表2)。
日本企業が最初に競争力低下に陥ったのは半導体である。80年代のピーク時には世界シェア50%を誇っていたが、現在では20%に満たない。負けた要因は、サムスンを始めとするアジア企業との投資の意思決定タイミングを見誤った要因もあるが、根本的には、最終製品をフルラインで次々に新製品を出していき市場を拡大するスパイラル戦略に失敗したからといえる。国内市場において新製品開発で成功し、世界に出て行くモデルが通用しなくなったのである。また、フルラインの製品開発の間隙を突かれ、マイクロプロセッサではインテルの独走を許すことになった。 つぎに負け始めたのはパソコンである。これはデジタル製品であるがゆえに、オープンアーキテクチャ化が一気にすすんだことが大きい。マイクロソフトがOSを、インテルがCPUを支配するようになり、垂直統合で開発をすすめてきた日本企業は、市場拡大期には、儲からない互換機の製造で対応するしかなかった。しかも、労賃の安い台湾メーカーに価格競争力で勝つこともできなかった。その上、流通は寡占化し、メーカーマージンは低下せざるを得ない状況になる。 携帯電話では、グローバルなユーザーニーズの変化へ対応できなかった。グローバルな成長期に入ろうとしているなかで、ユーザーが第一に求めるのは標準品であった。しかし、日本企業は、どちらかというと、通信キャリア別仕様、高性能機種を重視した。ノキアは、標準品をベースにキャリア対応し、圧倒的な量産優位を確立することができた。世界市場で失敗した日本企業は、撤退を繰り返し、ますます量産劣位になった。そして、近年では、iPhoneによって国内市場も危機に直面している。アップルの開発は、ものづくりにソフト、サービスのプラットフォームを提供していくソフト対応の開発である。これが先進国ユーザーのニーズに応え、製品価値を高める一因にもなっている。日本企業は、ものづくりにこだわり、多種多様な組み込みソフトウエアで高機能化し、開発機種ごとにゼロベースに近い開発を繰り返し、開発スピードや真の顧客ニーズを掴み切れなかったといえる。 携帯音楽プレイヤーでは、製品機能、スペック自体は日本企業、ソニーの方が優れていたにもかかわらず、アップルのiPodに支配されてしまった。情報コンテンツ産業との融合がすすんでいくなかで、iTunesというプラットフォームを提供し、ものづくりだけでなくソフト対応の開発をしたアップルが、もっともユーザーニーズを理解していたといえる。 現在では、液晶テレビも競争地位を低下させてしまった。トップ企業はサムスンである。液晶の技術開発では、シャープも先頭を走っているが、リーマンショック後の円高・ウォン安で価格競争力は大きく低下したのが一因である。これも国内でのものづくりにこだわったことが影響しているといえる。 繰り返される市場地位の喪失の共通にあるのは何か。 第一は、コスト競争に敗れたことである。メモリ、パソコン、携帯電話、液晶テレビは、「収穫逓増」産業の性格を持っている。つまり、生産量が増えればコストが下がる特性を持っている。このような産業でのコスト優位の鍵は、横並びの技術革新ではなく、生産量であり、設備投資のタイミングである。ライバルが投資のできないタイミングで投資をすれば、圧倒的なコスト優位によって一挙にシェアを獲得できる。つまり、市場の見通しと投資リスクの許容度が、競争優位を決定する。サムスンの現在の圧倒的な市場地位は、常に、世界市場を対象とする視点とひとりの経営者に投資判断が委ねられるトップダウン型組織によってもたらされたと言える。逆に、国内市場でのライバルに拘り、任期を気にせざるを得ないボトムアップ型の組織には不利である。 第二は、差別化競争に敗れたことである。パソコン、携帯電話、液晶テレビは、市場の成熟化が進めば、コモディティ化して、差別化が難しくなる。同じ材料、同じ製造装置から生まれる製品が大きく違うはずがない。他方で、ソフト、情報やコンテンツが「補完財」として大きな影響を与える。3DのAV機器を普及させるには、映画「アバター」のようなコンテンツが必要になる。差別化の鍵は、これらのソフト、情報、コンテンツといかに連携し、ユーザーにとって便利な提供システムを構築することである。アップルは、業界外の強みを生かして、音楽ビジネスを事業に持つソニーにはできなかった楽曲提供のシステムを創りあげることができた。このように製品差別化が困難になり、ソフト、情報やコンテンツとの連携が差別的な付加価値づくりの鍵を握っているにも関わらず、日本企業の対応はグローバルな競争力に結びつくような動きは少ない。 第三は、最終製品(アプリケーション)開発力で優位に立てないことである。これまでの日本の情報家電メーカーが開発した製品革新には様々なものがある。戦後のブラウン管テレビから様々な電子ガジェットに至るまで枚挙にいとまがない。これは、日本の消費者が、豊かで、多様で、欲求品質が厳しいからである。これは、他の国の消費文化と比較して、特殊で、他国の消費者と孤立的であり、また、他国の消費者をリードする先進性もあるという二面性を持っているということである。例えば、携帯電話の利用に関しては、特殊で「ガラパゴス」的な面が見られるが、寧ろ、先進的な面の方が大きい。問題は、日本の消費者にもっとも近い日本企業が、他国にはないこの強みを生かした最終製品の開発力へ結びつける努力がないことである。 第四は、バランスのある戦略がとれないことである。ひとつは、輸出志向の垂直統合戦略への拘りである。ものづくりのすべての工程を自社で行う内製に拘り、コスト吸収と品質差別化を同時に行い、海外に輸出できる国際競争力をつけ、世界市場を席巻する戦略に固執している。他方で、ひと度、垂直統合モデルが失敗すれば、今度は、すべてを海外へのアウトソーシングに依存し、ものづくりノウハウを失い、低品質に陥入らざるを得なくなる。最適な戦略を模索するのではなく、極端から極端へと戦略が振れ、失敗を繰り返している。サムスンが日本から学んだ輸出志向の強い、すべてを内製しようとする垂直統合戦略はまったく振れない。 第五は、国内ライバル企業しか見ない競争意識である。日本企業にとって、世界市場での最大のライバルは言うまでもなくサムスンである。サムスンの競争戦略は、日本企業との競争に焦点が当てられている。しかし、日本企業が海外で市場を拡大するには、サムスン製品に競り勝つ必要があるにも関わらず、ライバル意識は薄い。売上などのすべての収益性で格差が開き、やっとライバル視する企業が生まれはじめている段階である。これは、欧米の企業にキャッチアップする戦略の経験は豊富だが、キャッチアップしてくるライバルを振りきる経験がないからであろう。また、技術力ではまだまだ負けていないという自負があることも言うまでもない。 世界市場を見ない視野狭窄によって、投資競争で敗れ、量産によるコスト競争で負け、差別化もできず、新しい製品開発もできずに、基本の戦略が振れ続け定まらず、ライバル対策も打てずに沈んでいかざるを得なかった。それがこの10年の帰結であり、日本企業が敗退した実態である。 どうしたら大変貌を遂げつつある世界の情報家電市場で勝てるのか。
2.サムスンに競り勝つ方法(1)サムスンの競争地位と戦略サムスン電子は、1970年に設立され、家電機器、電子部品の製品群を拡大させた。しかし、1990年代までは流通へのOEM製品輸出が中心であり、自社ブランドであっても低価格品のイメージが強かった。主力は半導体を中心とする電子部品であった。ところが1990年代後半から家電製品分野でのマーケティング投資を積極的に行い、世界一の情報家電メーカーに登りつめた。現在では部品を含めて21の製品分野でトップシェアを誇っている。成功要因の分析は様々な文献が出されているが、一言でいえば「デジタル刺身屋戦略」である。デジタル刺身屋戦略とは、ユン・ジョンヨン副会長の理論であるが、デジタル製品は日用品であると認識し、スピードやコスト削減を通じて競争優位を獲得する、というものである。これはメモリ半導体事業での投資競争での経験が大きいと言われている。トップの素早い意思決定によって日本企業を逆転した成功ストーリーである。スピード重視の戦略は、典型的には短期間で世界三位までなった携帯電話事業にみることができる。サムスンは3~6ヶ月で新製品のデザインを完成し、一四半期当たり8~10個の新しいプラットフォームを開発しているのに対し、ノキアやモトローラのデザインサイクルは12~18ヶ月、年4~5個しかプラットフォームを開発できない。これを可能にしているのが、中核部品から完成品まで垂直系列化している点である。同時にコスト削減にもつながっている。 冷静に考えると、サムスンの採ってきた戦略は、かつての日本企業と同じで、垂直統合、ものづくりを基軸とした量産優位にある。 (2)サムスンの強み日本企業が採っていた戦略を採用し、サムスンが成功している背景には、サムスン独自の強みがあるからである。同じ戦略を採用しながら、差が出ているのはそのためである。サムスンの強みは四つに集約できる。ひとつは、国内市場での寡占である。韓国市場はサムスンとLGの2社寡占状態にある。国内市場の競争が激しくないため、一気に世界市場で勝負できる。日本企業は国内市場が激戦で、国内での競争に重点がおかれ世界市場に出遅れてしまうのである。 二つ目は、相対的に安価な労働力がある。サムスンの給与体系は非常に格差が大きく、流動性が高く、人件費を安くおさえることができる。新入社員の10%が1年で退職し、3年後には30%が退職すると言われている。日本企業は、過去リストラはあっても年功序列的色彩は残っており、サムスンと比較すると人件費コストは高い。 三つ目は、後発の優位性である。サムスンが急成長した背景には、追撃相手が明確であったからである。家電分野ではソニーをはじめ、日本国内市場を、半導体ではインテルを、携帯電話ではノキアやモトローラのようなリーダー企業をベンチマークし、追撃するために日夜努力してきた。市場で成功した製品を、模倣、学習し、スピードとコスト削減を武器に世界市場を一気に席巻することを得意としている。日本企業はオリジナル製品にこだわるものの、ミートゥー商品によって模倣され、量産優位で負けていくのである。 四つ目は、ナショナリズムである。サムスンの企業文化は、忠誠心やインテグリティの強調、キャン・ドゥ・スピリット(為せば成るという信念)が特徴である。組織になじみ、組織への忠誠心が高く、いかなる困難にも耐え、任務を最後までやり遂げる人を選別し訓練する軍隊的組織なのである。日本企業がかつてもっていた滅私奉公的な企業文化がスピードや実行力を生んでいる。現代の日本企業は、こうした文化はない。やりたくても従業員の労働観が異なるのである。 (3)サムスンの弱みサムスンに競り勝つには、サムスンのできないことをやるしかない。弱みを見極め、そこに経営資源を投入するのである。昨年12月に復帰したイ・ゴンヒ会長は、強い危機感をもっている。「今は本当の危機だ。サムスンもいつどうなるかわからない。今後10年以内にサムスンを代表する事業や製品は大部分が消えるはずだ、ぐずぐずしている時間はない。」と語っている。サムスンのモデルは、中国企業に模倣され、日本企業と同じ運命をたどる可能性があるからだ。 サムスンの弱みは、五つある。第一は、オリジナル技術が弱い点である。中核部品で優位にあるのは、メモリ半導体や液晶パネルなど数えるほどしかない。中核となる技術や部品は日本企業を中心に調達しているのが現状である。 第二は、創造的新製品開発力の弱さである。他社をベンチマークし、模倣と学習によって成長したサムスンは、創造的な新製品開発力の弱さが指摘されている。強い製品分野は、メモリ半導体、液晶テレビ、携帯電話などコモディティ的製品が多い。反面、デジタルカメラやパソコン、冷蔵庫やクーラー、携帯音楽プレイヤーなど成熟を突破する商品や独創性の求められる製品ではシェアは低いのである。 第三は、周辺産業の弱さである。今後、産業融合が進もうとする情報コンテンツ、自動車産業では韓国内には世界的に強い企業は存在しない。情報コンテンツは日本やアメリカと比較して劣位にあり、自動車産業の現代自動車も国際的には強くない。住宅産業はドメスティックであるが、住宅をエレキ化する電力会社のインフラも整備レベルは高くない。 第四は、グローバル人材の不足である。サムスンは内部の人材を国際経営者に育成する「地域専門家制度」を実施してきた。現地法人のリーダーは、ほぼ100%韓国人である。内部の人材を育成して駐在員を育成している反面、現地経営者を信頼せず、十分な権限を与えていない。これから成長する新興国も含め、現地のユーザーニーズを理解することは難しいと考えられる。 第五は、ブランドへの強いこだわりがある。ソニーやパナソニックよりも高い評価を得たいという「願望」である。実際、欧米で、広告宣伝費の投下量が左右するブランド価値評価では、日本企業を凌駕する結果を得ている。こうした過剰な拘りが、ブランド戦略を混乱させる可能性を持っている。成長する新興国市場において、現地ニーズにあった標準品でシェアを拡大することは、ブランドイメージを低下させる可能性がある。ハイエンドイメージとローエンドの両立をどうするかは今後の課題となる。 3.日本の情報家電メーカーの生き残り戦略このような状況のなかで、多くの日本企業が陥っているのは、抜け出せない低収益の悪循環である。 製品の同質化、市場への過剰参入による過当競争、大手量販店への条件競争、低収益、投資遅れによる高コスト転落、新製品開発余力の低下、そして、また、製品の同質化へと循環する。他方で、海外市場をメインとするサムスンはこの罠には陥らない。製品の同質化は進んでも、日本企業は弱い市場に重点を置き、大手量販店への条件競争は極めて限定し、収益を確保して、資金力をつけて、大型投資に結びつけ、コスト優位を確保し、有利かつ効率的に開発をすすめることができる(図表3)。
世界市場でサムスンのシェアを奪いとるには、「戦いの原則」(「力の論理」第三章参照)に従った展開が必要になる。生き残り戦略が満たすべき条件は四つある。 第一は、市場をどう選択するかである。世界最大の情報家電メーカーとなったサムスンは、すべての世界市場とすべての情報家電製品での全方位の展開になる。つまり、この戦略の弱みは、資源を集中することが難しいことにある。サムスンにとっては、自社と同じ技術力を持つ8社の日本企業が国内市場に留まってくれることがもっとも有利である。しかし、日本企業が、アメリカ市場、中国市場や他の新興国市場に集中されると、個別市場での量的優位が崩れる危険性がある。同じように、特定の製品分野への日本企業の集中にも対応し難い。10の市場に10の資源をサムスンが配分しているとすると、2の資源しか持たない10の弱い日本企業でも10の市場に個々の企業がうまく棲み分ければ、個別市場では、2対1でサムスンに量的優位を確保できる。資源の集中による個別市場の撃破である。
第三は、模倣されない部品づくり、あるいは、部品メーカーとの垂直的な長期の協力関係の構築による差別化である。日本企業の強さは、世界市場で圧倒的な強みを発揮する部品や材料にある。サムスンやアップル製品も日本の材料や部品メーカーによって支えられている。つまり、内製と外製のバランスが、模倣されない製品と品質を生み出す鍵である。 第四は、ものづくりの強みの補完である。日本のものづくりのGDPに占める比率、つまり、製造業は、日本ではわずか20%と韓国(30%)やドイツ(24%)よりも低い。日本の産業競争力の原点と思われているものづくりは、ノスタルジーに過ぎない。他方で、海外の日本メーカーで生産される出荷額は約20兆円に上り、ものづくりは、もはや、日本人と国内に限定されていない、グローバルなものである。日本人だけのネットワークのものづくりではなく、いかに、グローバルなネットワークのなかで優れたものづくりを行えるかが重要である。他方で、ハードであるものの利用価値を高めるソフト、情報やコンテンツを提供するシステムを提供することはますます重要になっているにも関わらず、うまい補完的なビジネスモデルは構築できていない。ものづくりの強みを補完する「プラットフォーム」のようなビジネスモデルが必要である。 日本企業が、これらの条件を満たし、悪循環から脱却するには、過去の栄光のビジネスモデルを多様化し、高収益が高収益を生む善循環に転換する必要がある。どのような可能性があるのか。 市場、競争、そして、この四つの戦いの原則を満たす条件から、世界市場における日本企業の個別の生き残りモデルを整理すると次の七つのモデルが導かれる(図表5、6)。
(1)世界の水道哲学モデル第一の選択肢は、現地にとって「良いモノを安く」をグローバルに展開する「世界の水道哲学」モデルがある。爆発する世界の家電市場において、新興国を中心に現地に最適な品質の製品を提供し、マス市場を支配するモデルである。成功の鍵となるのは、「脱日本人」の発想である。成長する新興国の中心ニーズは、日本と全く異なる。2万円の冷蔵庫やテレビなど日本では考えられない製品設計が求められているのである。そのためには、日本人のものづくり発想ではなく、現地の生活とニーズにあわせる必要がある。おそらく最先端の技術ではなく、ミドルレベルの技術、そして日本企業が得意だった製品の高機能化、複合化とはまったく逆の発想、必要な製品機能の絞り込みが必要といえる。 (2)マザーファクトリーモデル第二は、世界のハイエンド市場を狙いながら、グローバルな機能の最適配置を行うモデルである。日本を拠点とする垂直統合モデルをいったん見直し、アウトソーシングを含めた機能の組み換え、再配置をするものである。鍵を握るのは、マザー工場と最先端技術である。日本企業のものづくりは、現状でも世界のトップレベルにある。問題は、国内から海外への輸出モデルが、グローバルな市場構造変化に対応できなくなったことである。ものづくりを日本のマザー工場で行い、グローバル視点で最適な機能配置をすすめ、日本でのコスト高を克服する必要がある。 (3)グローバル寡占モデル第三は、世界の標準品を確立し、量産優位によって市場を「グローバル寡占」するモデルが考えられる。かつての日本企業の競争優位を復権するものである。このモデルは、現在のサムスンが採用している戦略であるが、日本企業ができなかった条件を克服すればよい。とくに重要となるのは、投資の意思決定スピードを早め、量産優位に立つことである。日本市場ではなく世界市場の制覇を戦略目標に、大胆に意思決定し、先発者利益を享受できる企業体質が必要だ。また、販売でどう儲けるか、営業の仕組みや流通対応も重要となる。 (4)プロダクト・イノベーションモデル第四は、もう一度、世界に通用する製品イノベーションを実現することによって、世界の消費者の支持を勝ち取るモデルである。その源泉は、高度なニーズをもった日本の消費者である。グローバル競争力レポートによると、世界のなかで日本の消費者がもっとも高度なニーズをもっている、という調査結果がでている。日本企業の最大の強みは、日本の消費者なのである。 鍵を握るのは、高度なニーズをもった日本の消費者をどう理解するか、ニーズとシーズのすりあわせによる製品イノベーションである。 (5)自動車産業との融合モデル第五は、情報家電産業と自動車産業の融合である。自動車産業はソーラーカーに行き着く。日本企業が得意とする電池技術が生きると同時に国際競争力のある日本の自動車産業と手を組み、新たな産業を生み出す潜在的可能性をもっている。鍵となるのは技術イノベーションであり、移動システム産業に必須な総合的なサービスをどのように提供するかが鍵となる。 (6)エコ・スマートエネルギー産業化モデル第六は、エコ・スマートエネルギー産業へのシフトである。太陽光発電を基軸に住宅や街のエレキ化がすすもうとしている。このチャンスを捉え、ホームネットワークサービスやエコ関連商品サービスのビジネスを創造するモデルである。その姿は現在のもの中心のオール電化とは全く異なる技術イノベーション、総合的なサービスが鍵を握る産業になるはずだ。現在の省エネ技術、次世代エネルギー技術にサービスを付加するビジネスモデルが求められる。 (7)プラットフォームモデル第七は、売り手と買い手をつなぐ場を提供するプラットフォームモデルである。現状、アップルがこのモデルの先駆者となっているが、今からでも遅くない。情報コンテンツ産業は大きな潜在成長力をもっているからである。鍵となるのは、どんな関与者をネットワークするか、情報・ソフトを集める交渉力にある。どのようなプラットフォームを設計し、ユーザーベネフィットを提供するかから発想したものづくりが必要である。そうした時に、はじめて製品価値が高まるのである。
4.日本企業への提言(2010.05)
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