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HOME > JMRからの提言 > 提言論文 > 戦略 > 提言論文 生き残りは、ものづくり型自動車産業から移動システム産業へのイノベーション

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生き残りは、ものづくり型自動車産業から
移動システム産業へのイノベーション

松田久一・合田英了
プリント用画面(PDF・会員サービス)
1.自動車市場のコンバージェンス(収斂)
 自動車産業の「戦略の窓」が開いている。大きな産業イノベーションが起こる際に、企業がとることのできる戦略の軸が大きく変わるタイミングのことである。新製品や品質、コスト優位が自動車メーカーの短期的な収益の鍵だが、この時期は、市場をどう見通すかがもっとも大きな成功の条件である。具体的には、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)など次世代車の成長見通しである。普及の順番は、ガソリンエンジン車→ハイブリッド車(HV)→プラグインハイブリッド車(PHV)→電気自動車(EV)である。この順序には大筋の合意があるようである。しかし、どのようにこの構成が推移していくかはまったく不透明であり、不確実であると言わざるを得ない。この推移をどう見るかによって、どの次世代車にどのタイミングで投資するかが変わってくる。それが収益に直結していることは言うまでもない。
 次世代自動車は、50万円のソーラーカーへと一挙に収斂し、ものづくりとしての自動車産業はおそらく日本市場では半減し、様々な自動車ニーズを補完する情報、コンテンツやサービス産業が成長するのではないか。既存の自動車メーカーにとってもっとも厳しいシナリオを描くことによって、日本の自動車メーカーの21世紀の戦略を考えてみたい。

(1)2010年はEV大ブレークの年
 ガソリンエンジン車に代わる次世代の自動車開発競争が活発化している。今年は日産リーフの登場に象徴されるように、電気自動車が大ブレークの年になりそうだ。経済産業省によれば、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)など次世代車の割合は、2020年に新車販売台数の50%、2030年に70%に達すると言われている。次世代自動車のうちEVが占める割合は25%程度になると予測される。

(2)ハイブリッドは過去のβ方式か-EVに一気にジャンプする自動車市場
 しかし、この見方は甘い。技術変化はもっとドラスティックで早いものだ。過去、固定電話から携帯電話、レコードからCD、フィルムカメラからデジタルカメラへの置き換えは、新技術の量産開始からほぼ7年しかかからなかった。蒸気機関車と電気鉄道が併存しないように、EVが普及し始めれば7年後には全てがEVに置き換わる。APS(アドバンストフォトシステム)やDAT(デジタルオーディオテープ)のように、どんなにその技術が有用であったとしても、既存技術の延命商品が長く続いた例がない。次世代自動車への置き換えは、こうした前例と同様、ガソリン車からEVへと一気にジャンプする可能性が高い。続々と参入する新興EVメーカーがこの動きを加速している。後発メーカーにとっては、トヨタとホンダが独占し参入障壁が高いハイブリッド市場より、EVに参入したほうが魅力的だからだ。HVはかつてビデオの記録方式の規格争いで破れたβ(ベータ)方式(ソニーが主導して開発したビデオの記録方式。最終的にはビクターが主導し後に現パナソニックを中心にシャープ、三菱電機、日立などが採用したVHS方式に破れた)のように孤立した規格になりかねない危険性を持っているのである。トヨタやホンダが長年の技術蓄積と膨大なコストをかけて開発したHVはもはや、電気自動車に収斂する過程の、過渡的な商品にしかならないのである。

(3)コンバージェンスの最終段階は50万円のソーラーカー
 次世代自動車の競争は最終的にどのように収斂するのか。結論はEVの先にある「50万円のソーラーカー」(図表1)である。ソーラーカーとは、太陽電池で発電した電気を使って走る電気自動車の一種である。ソーラーカーに収斂する理由は三つある。

図表1.次世代自動車のコンバージェンス(収斂)


 まず第一に、電気自動車が実用化段階に入ったことだ。2010年に入り三菱自動車の「アイ・ミーブ」、日産自動車の「リーフ」が個人向けに発売される。中国の電池メーカーBYD、韓国のCT&Tなどの新興企業も続々と電気自動車を今年度中に発売する。2012年前後とされる電気自動車の量産段階に入れば、ガソリン車・ハイブリッド車から電気自動車への置き換えが一気に進む可能性がある。背景にあるのはリチウムイオン電池のエネルギー密度の驚異的な成長である(15年間で5.2倍)。電気自動車の航続距離は現段階で160kmであり、ハイブリッド車の500kmと比べると劣るものの、実はこの航続距離で90%以上の車の利用シーンがカバーできる。次世代自動車の鍵を握る電池技術に対しては、日本の「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業」(7年間で210億円投資)をはじめとして、米国、欧州、中国、韓国が国家予算を投じて開発に取り組んでおり、さらなる性能向上が期待できる。さらに、コストが下がる。電気自動車の価格は補助金がなければ400~500万円と高価だが、リチウムイオン電池の価格は量産時には1kWh当たり1,000ドルにまで下がり、ガソリン車の相場とほぼ同等になると言われる。電気自動車へのシフトが前倒しで起きる可能性も出てきたのである。
 第二に、膨大な太陽エネルギーを電気に換える太陽電池の技術進化により、電気自動車普及の阻害要因が小さくなることである。電気自動車はバッテリーの容量が大きいことや、充電時間がかかるデメリットがあり、1基200万円もする急速充電機の設置に膨大な社会的コストがかかる。このデメリットが太陽電池によって将来的に解決される可能性がある。地球に届く太陽エネルギーは1時間の日射量で、全人類が消費する1年間のエネルギーを賄うことができるほど膨大なものである。太陽電池は太陽光さえ届けばどこでも電気を作り出せるため、走りながら充電することができる。太陽電池と蓄電池を組み合わせることにより、「リアルタイムの充電」が可能になり膨大な社会的コストを削減することができる。太陽電池を自動車に搭載する場合、設置面積が2㎡、最大出力が300Wとして、利用可能な最大電力量は現状1日当たり0.8~0.9kWhであり、太陽電池の発電電力による走行距離は1日あたり6~7km程度である。しかしシリコンを使わない化合物系太陽電池を使った太陽電池の変換効率が4割台にまで向上しており、現状の1割台から4倍に増える可能性がある。さらに、電気を効率的に使うためのモーターにおいては、ネオジム磁石のように高温でも磁力が低下せずモーターの性能を維持することができる素材の開発や、洗濯乾燥機で蓄積されたモーターの技術を電気自動車で活用する動きも出始めており、太陽電池の電気を使った航続距離は今以上に伸びることが予想される。
 第三に、消費市場の世代交代が進むことである。クルマに従来の「走り」や「格好よさ」のような付加価値を求めず、車に関心を持たない若い世代が2020年に消費市場の5割に達することである。この傾向は日本だけでなく、ドイツ、アメリカなど先進国でも進む現象だ。若い世代は、上の世代のようにクルマに200万円も300万円も払う世代ではない。200~300万円のクルマは見向きもされず、50万円で買えるクルマには飛びつく。電気自動車の開発コストは現在、鉛電池や汎用品のモーターにより1台100万円で改造EVがつくれる水準にまで到達している。電池の発電量当たりのコストが5年で1/3~1/2に減少するスピードを考えると、50万円という価格帯もみえてくる。自動車の革命的な変化は電池の進化により間近に迫っている。従来描いていたような、ガソリン車からハイブリッド、そして電気自動車へと段階的に進むシナリオではなく、電気自動車、あるいは太陽電池との一体化により一気にソーラーカーへとジャンプする可能性も出始めている。

2.変わるものづくりと産業
(1)基幹産業の危機
 自動車産業は、製造だけでなく資材調達・物流をはじめ、販売・整備など広範な関連産業を持つ総合産業である。自動車産業の従事者は537万人(日本の全就業人口の8.4%を占める)、製造出荷額は57兆円(全製造業の17%のシェア)、世界自動車生産台数の33%を日本の自動車メーカーが握る、まさに我が国の基幹産業である。日本の自動車産業の優位性は、自動車部品、エレクトロニクス、車体製造などの水平的な広がりと、良質な労働者が「乾いた雑巾を絞る」ほどの現場改善、無駄の削減によって1万点の部品を集積する摺り合せの力によるものである。しかし、この優位性は2020年までもたない可能性が出てきた。自動車のものづくりが全く変わるからである。

(2)自動車のKFSは「摺り合せ」から「電池の量産優位」へ
 ガソリン車はガソリンを燃焼させエンジンを動かし、トランスミッションを通じて車輪を駆動させるのに対して、電気自動車は蓄電池(バッテリー)の電力を使ってモーターを回し、車輪を駆動させる。ソーラーカーはこれに、電気を調達する太陽電池が加わる。
 ガソリン車の燃料に当たるのが、太陽電池によって調達されて蓄電池で蓄積される「電気」、エンジンに当たるのが「モーター」である。つまり自動車のキーデバイスが、エンジンから、電池とモーターにシフトする。この変化はクルマのものづくりを根本から変えるものである。エンジンとトランスミッションを微妙に調整して取付ける高度な組立工程から、電池メーカーから持ち込まれる電池ユニットと、モーター+インバーターユニットを取付けて、電気コードを配線するだけの簡単な組立てに変わると言うことである。部品点数は従来のガソリン車が1万点だったのに対し、電気自動車では1千点以下と1/10に減少する。つまり家電製品と同じ集積度になり、付加価値がバッテリー、モーター、インバーターなどのエレクトロニクスに移転し、家電と同じ設備投資と低価格競争になると言うことである(「力の論理」第一章 国際競争力を失うお家芸の情報家電産業参照)。KFS(成功の鍵要因)は、「摺り合せ」から「量産優位」に変わるのである(図表2)。

図表2.キーデバイスの転換


(3)参入障壁が崩れオープンな産業へ
 部品点数が減り、キーデバイスが電池とモーターに変わると、日本の自動車メーカーが得意としてきた製造現場における摺り合せが無意味になり、参入障壁が一気に下がり、ベンチャー企業や電池の量産技術で優位を持つエレクトロニクスメーカーなど、誰でも自動車を作れる時代になる。自動車をつくるメーカーが大手の自動車メーカーだけでなくなるということだ。日本でもシムドライブ、ゼロスポーツ、フィアロコーポレーションなどのベンチャー企業、埼玉冨士などの工場、NPO(浜松SVP、NAFCAなど)が続々と参入し始め、米国ではテスラ、コーダ、アプテラ、フィスカー、中国では山東宝雅(中国のオート三輪メーカー)、時風集団(中国の農用車メーカー)、新宇宙(中国のゴルフカートメーカー)など、「スモール・ハンドレッド」と呼ばれるベンチャー企業が無数に台頭する一方、BYDのような中国の電池メーカー(今年2月にダイムラーと提携)も電気自動車に参入し、台風の目になっている(図表3)。

図表3.活発化する電気自動車(EV)の参入


 電気自動車、中でもソーラーカーへの進化は、破壊的なイノベーションである。自動車メーカーを頂点に部品メーカーを系列化させ、1万点の部品を集積させる摺り合せによって高品質で多様な商品を作り出してきた日本の自動車メーカーの強みが一瞬で消え、既存の自動車メーカーが独占してきた市場が一気に崩れる。日本の自動車メーカーがHVで延命している間に、市場はガソリン車から電気自動車に一気にジャンプし、量産で安い電池がつくられ(「力の論理」第五章 力による対決戦略-シャープ、東芝参照)、賃金の安い中国・インドで低価格の自動車がつくられたら、日本の自動車メーカーは即死である。従来のビジネスではもはや生き残れない時代になった。

3.変わる自動車メーカーのビジネスモデル
(1)ものづくりでは勝てない
 日本の自動車メーカーは設計から部品、製造、物流、販売まで全て傘下の下請け企業で賄う垂直統合のビジネスモデルである。トヨタの強さは価値観を共有した者同士が高度な摺り合せによって、高品質で低コストな製品を作り出す、垂直統合のものづくりの強さである。簡単に真似ることができないのは「人づくり」が根底にあるからだ(図表4)(「力の論理」第五章 市場制覇をめざすものづくりひとづくり戦略-トヨタ自動車参照)。トヨタが世界でトップになったのは、垂直統合をベースに、中国や韓国勢よりもはやくグローバルに販売地域を広げ、製造拠点を効率的に配置し、生産現場の力をいかして高品質な商品を量産することに成功したからだ。今回、トヨタの問題が様々なメディアに取り上げられたが、トヨタは世界で勝つために、当たり前の戦略を進めたに過ぎない。それを、グローバル化がはやすぎた、と指摘するのはナンセンスである。

図表4.トヨタのものづくりの強さのベースは「ひとづくり」


 電気自動車、ソーラーカー時代は、電池、モーターなど、水平分業が進み、パソコン型のものづくりになる。従来の垂直統合モデルでは、高コストになるだけでなく、製造で付加価値がとれなくなる。そのインパクトは、100万円以上で販売していた車の価格が半分以下になること、つまり売上が半減するということだ。戦略オプションは、全てのコストを半分にするか、クルマ以外の領域で付加価値をとるか、のふたつしかない。全てのコストを半分にするには、人も設備も販売店も1/2にするか、人件費の安い国で製造するしかない。こうなると我が国の基幹産業は崩壊である。

(2)変わるビジネスモデル
 水平分業型の新しいビジネスモデルは、地場に有力な自動車メーカーがない中国において既に活発化している。機構部品の少ない電気自動車は中国メーカーでも容易に参入することができるからだ。中国が有利なのは既に電動バイク、オート三輪などで水平分業の仕組みが出来上がっていることが背景にある。日産自動車も、EV(リーフ)をきっかけに、自動車で付加価値をとるビジネスから、電池の量産や電力サービスなど収益を多様化させるビジネスへと、舵を切り始めた。米国のGMは国・自治体と一体になった国内寡占モデル、韓国の現代自動車は国内市場の8割を握る圧倒的な寡占で得た利益を、欧米先進国と新興国(中国、インドなど)の海外生産拠点の建設に次々と投資し、人件費の安さと量産によるコスト低下を背景に、日本車の価格の2/3の値づけで世界における販売台数を伸ばし、とうとう生産台数でホンダを抜き、世界第5位に躍進した(図表5)。

図表5.変わるビジネスモデル


(3)求められる産業のイノベーション
図表6.世界の人口ランキング
 日本のメーカーは、量産優位に立つ韓国メーカーに新興国での成長を阻まれ、他方でオープン分業モデルの中国新興企業の追い上げを受け、挟み撃ちに合っている状況である。注目できるのは、トヨタが電気自動車時代のあらゆるキーデバイス(電池、モーター、半導体、ソフト、充電など)をおさえ、世界各地の組立ハブとマーケティング会社を通じて、現地のニーズに摺り合せて、充電ステーションなどのインフラまで含めてトータルに、モビリティを再設計しようとする動きである。電気自動車へと進む時代に、垂直統合によるイノベーションで世界をリードし、ナンバーワンであり続ける戦略とみてとれる。アメリカのEVメーカー、テスラモーターズに50億円の出資をしたのもこの一環として理解できる。しかしながら一方で、産業の構造を一新してしまうことを主体的にはできない弱みもある。トヨタが今後とも世界でナンバーワンであり続けるには、電気自動車時代の垂直統合によるイノベーションを進めると同時に、インド、中国、ナイジェリア、インドネシアなど人口のボリュームが多い地域を他社よりもはやくおさえ、量産優位を構築することが重要である(図表6)。
 しかし、自動車産業が、これまでと同じように、基幹産業として、雇用を維持し、世界に覇権を広げるためには、個別メーカーレベルでは太刀打ちできない問題もある。電気自動車になるということは、電池の技術開発・生産に巨額の設備投資がかかり、エレクトロニクスの技術との融合や、ソフトウェア、交通、通信などを根本から変えていく大きなパワーが求められる。政府だけでなく、日本の産業の強みを総動員しなければ、このイノベーションは実現できない。日本の強みをいかして、ユーザー視点で新たなビジネスモデルを構築し、電気自動車、ソーラーカー時代のデバイス、規格、インフラをおさえ、世界を支配していくことに国とメーカーが一体となって取り組んでいく必要がある。

4.自動車産業から拡・自動車産業へ-移動システム産業の提案
(1)変わるユーザーニーズ
 クルマを使うユーザーのニーズとは、「ハード(クルマ)は安くてランニングコストが節約できるもので充分」、お金を払うのは食事や旅行などの「情報・コンテンツ」やゴルフ、カメラ、釣り具など、趣味の「周辺商品」であり、望むのは運転労力が少なく、事故や渋滞などの心配がない、燃料代がかからない安全で低コストなインフラである。付加価値がとれる領域がシフトし、クルマ(ハード)だけではユーザーニーズを満たせなくなっている。ユーザーの移動ニーズに応える「拡・自動車産業」へと変わらなければならない。

(2)自動車産業から「移動システム産業」へ
 ユーザーの移動ニーズに応えるには、単に新しいモビリティだけでなく、人々の移動をサポートする様々な情報やサービス、インフラ事業者等と連結して、ユーザーに新たな「移動システム」を提供するプラットフォーム(移動システムの基盤・規格・ルールづくりを進める主体)が必要である(「力の論理」第五章 プラットフォーム構築による市場多面化戦略-任天堂・マイクロソフト参照)。つまり自動車産業は、個々の企業が垂直統合モデルによって、部品メーカーと販売店を系列化し、顧客を囲い込むビジネスから、「移動システム産業」へと変わらなければならないということだ。
 移動システム産業とは、人の「移動」の生産性を拡大(より少ないコストで最大の価値が得られる)するために、ハードメーカーが主体となって、移動に必要な情報・コンテンツ・周辺商品や、エネルギー・道路・住宅などのインフラをトータルに揃え、国・属性別に新しいモビリティとプラットフォームを構築する産業のことである(図表7)。

図表7.自動車産業からプラットフォーム産業へ


 この構想を実現するには、自動車産業内での狭い対応ではなく、他の産業との融合によりソリューションの巾を広げること(「力の論理」第五章 情報、通信、エレキ産業の融合戦略-ソニー、アップル参照)、国・属性による細かな差に対応した提供システムを構築することが重要だ。移動システム産業への進化は、移動に関する先進の技術蓄積、先進の情報家電メーカーを持つ日本が優位であり、周辺産業を巻き込む巨大な基幹産業づくりと雇用創出、ビジネス機会のグローバルな広がりが期待できる。鍵は、国毎に異なる関与者とのネットワークをつくり、国や属性などの違いによってきめ細かく情報コンテンツ等の提供システムを顧客に摺り合せる「マス・カスタマイゼーション」である。

(3)移動システム産業へのシフト戦略
 自動車産業を「移動システム産業」と捉えると、自動車だけでなく、自動車メーカーの技術蓄積を生かして八つの付加価値がとれる領域を挙げることができ、三つの進化に括られる(図表8)。

図表8.自動車産業の「移動システム産業」へのシフト戦略


 第一の進化方向は、人の移動ニーズに応える「商品イノベーション」である。ひとつめの領域は「新モビリティ領域」である。50万円のソーラーカーへの収斂を見据え、電池メーカーとの協業により、蓄電池・太陽電池の技術蓄積、ライバルを上回る設備投資による量産優位獲得を進める一方、ケーヒン(PDU)や多摩川精機(センサー)などの電気自動車の基幹部品を握る中小部品メーカーとの系列化を進め、世界に先駆けて低価格でCO2ゼロのクルマを開発し、ユーザーの属性に合わせてバリエーション化させることである。ふたつめは、「モビルスーツ領域」である。人の移動をサポートするという観点から、ロボット技術をいかして高齢者の歩行をアシストする機器、人の力ではできない作業をアシストするパワードスーツなど、自動車以外の分野で新たな需要創造商品を開発することである。
 第二の進化方向は、情報ニーズに応える「産業の情報サービス化」である。領域のひとつは「ナビゲーションサービス」である。地図の3D生成技術・測位技術の精度があがり、カーナビや地図情報を自動車側でもたなくても4Gの通信網を使って自動車の位置に応じて、位置連動広告やスポット情報、ルート提示などのG空間サービスが可能になる。4G、DSRC、光ビーコンなど、高度な通信インフラと最先端の消費者を持つ強みをいかして、いちはやく自動車を通信端末とするビジネスを確立することである。ふたつめは「プロバイダーサービス」である。高度な通信インフラを使って国内7,000万台のドライバーを視聴者とする新たなビジネスが展開できる。ドライバー向けネット放送局や音楽・動画などのコンテンツ配信、地域の観光資源などドライブ情報コンテンツビジネスを創出することができる。三つめは「アプリケーションサービス」である。自動車に用いられるOS、さらに様々なアプリケーションが開発・配信されるとともに、通信網を使ったOSやアプリケーションのアップデートが可能になる。パソコンではOSとアプリケーションの主導権を全て米国メーカーに支配されたが、自動車領域において汎用型のOSやOSを基盤とするソフトウェアプラットフォームをつくることができれば、より大きな収益を得ることができる。
 第三の進化方向は、システムニーズに応える「産業のシステム化」である。ひとつめの領域は、「エネルギーシステム」である。今後は、自宅の太陽電池で発電した電気を自動車に蓄積したり、自動車で蓄積した電気を住宅用に使ったりするなど、電気の双方向の利用が期待される。高度な送電線網をベースに、住宅と自動車を結ぶ双方向の電力融通システムやソーラーガレージなどを早期に構築し、スマートグリッド計画だけが先行して肝心のEV開発が遅れている米国を早期に攻略して、日本だけでなく、自動車社会の米国で新たな需要基盤をつくることである。ふたつめは、「情報交通システム」である。日本では既に路車間通信インフラを生かして事故や渋滞を軽減するしくみや、ブローブ情報をいかした事故の起こらない道路計画づくり、自動追従による自動運転システムの開発が進んでいる。日本がいちはやく運転負担ゼロ、事故ゼロの交通通信網を構築し世界に輸出することで、巨額のビジネス機会を得ることができる。三つめは「オートメーションシステム」である。ロボトロニクス技術をいかして、農業・製造・建設・医療など労働集約型の産業を効率化し、人々の労働時間を軽減し、豊かで移動を楽しむ環境そのものを開発していくことである。
 自動車産業の崩壊は間近に迫っている。日本の自動車メーカーは、EV、あるいはソーラーカーへの収斂に悲観し、HVによる延命化に注力している場合ではない。変化の波に遅れることは致命的である。
 電気自動車、中でもソーラーカーへのコンバージェンスを、むしろ成長機会と捉えて、欧米、中韓メーカーの動きがまだ本格化しないうちに、国や他の民間企業と一体となって情報サービス化、システム化など新たな領域にチャレンジし、世界にビジネス機会を広げ、各国の情報コンテンツ、インフラなどのプラットフォームを先におさえ、ライバルの参入余地をブロックしておくことが求められる。

(2010.05)


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