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(2012.05)
月例消費レポート 2012年5月号
政府の基調判断、9ヶ月ぶり上方修正も、景気の本格回復の道険し
菅野 守



1.はじめに
 新年度入りから2ヶ月近くが経過し、震災復興特需や政策効果による需要の盛り上がりが本格化しつつある中で、日本経済の先行きに関し、政府からは楽観的姿勢が垣間見えつつある一方で、マーケットからは「円高」「株安」の形で悲観的なメッセージが発し続けられており、官民の間での認識の格差が鮮明化しつつあるようだ。
 2012年5月18日に内閣府より公表された「月例経済報告(平成24年5月)」によると、景気の現状について、2012年4月の「景気は、東日本大震災の影響により依然として厳しい状況にあるなかで、緩やかに持ち直している。」から、2012年5月には一部文言が修正され、「景気は、依然として厳しい状況にあるものの、復興需要等を背景として、緩やかに回復しつつある。」とし、基調判断は2011年8月以来9ヶ月ぶりに上方修正された。2012年5月には、2011年3月以降入っていた「東日本大震災の影響により」という文言が削除された上で、新たに「復興需要等を背景として」の文言が加わっており、震災復興のプロセスが本格化していることを示唆する内容となっている。新たに盛り込まれた「回復」というコトバ自体は、2010年9月報告の中の「自律的回復」を最後に基調判断から消えていたものであるとともに、「緩やかに回復しつつある」に類する文言が基調判断に登場するのは、2008年2月報告の中で「回復が緩やかになっている」との表現がなされて以来のことである。先行きについても現状と同様に、2012年4月の「各種の政策効果などを背景に、景気の持ち直し傾向が確かなものとなることが期待される。」から、2012年5月には一部文言が修正され、「復興需要等を背景に、景気回復の動きが確かなものとなることが期待される。」とし、判断は上方修正されている。2012年4月から2012年5月にかけて、「各種の政策効果など」が「復興需要等」へ、「景気の持ち直し傾向」が「景気回復の動き」へと文言が修正されている点は、景気の現状に関する文言の修正に沿ったものといえる。景気の下押しリスクをもたらす要因については、2012年4月の「欧州政府債務危機や原油高の影響、これらを背景とした海外景気の下振れ等によって、我が国の景気が下押しされるリスクが存在する。また、電力供給の制約や原子力災害の影響、さらには、デフレの影響、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。」から、2012年5月には一部文言が修正され、「ただし、欧州政府債務危機を巡る不確実性が再び高まっており、これらを背景とした金融資本市場の変動や海外景気の下振れ等によって、我が国の景気が下押しされるリスクが存在する。また、電力供給の制約や原油高の影響、さらには、デフレの影響等にも注意が必要である。」としている。2012年4月から2012年5月にかけて、「欧州政府債務危機」がリスク要因としてより一層強調される形に表現が追記補強されるとともに、影響のルートとして「資本市場の変動」の文言が新たに盛り込まれており、欧州政府債務危機の行く末に対する強い懸念が示されてはいる。だが他方で、「雇用情勢の悪化懸念」の文言が削除されている点は、景気の現状並びに先行きに対する判断の上方修正の背後にある、政府の楽観的認識が反映されているともいえよう。
 個別項目を見ると、個人消費は、復活したエコカー補助金による自動車の販売増加等を材料に、2012年4月の「底堅く推移している。」から2012年5月には「緩やかに増加している。」とし、2ヶ月ぶりに上方修正された。輸出は、米国向けやアジア向けでの回復を好感し、2012年4月の「横ばいとなっている。」から、2012年5月には「持ち直しの動きがみられる。」とし、2ヶ月連続で上方修正されている。企業収益は、各社の決算発表での業績の堅調ぶりを受けて2012年4月の「減少している。」から、2012年5月には「減少してきたものの、下げ止まりの兆しもみられる。」へと、14ヶ月ぶりに上方修正された。雇用情勢は、有効求人倍率の上昇や残業の増加に伴う現金給与総額の増加などを好感し、2012年4月の「持ち直しの動きもみられるものの、東日本大震災の影響もあり依然として厳しい。」から、2012年5月には「持ち直しているものの、東日本大震災の影響もあり依然として厳しい。」とし、7ヶ月ぶりに上昇修正されている。国内企業物価は、原油価格の高止まりによる輸入物価の上昇を受けて、2012年4月の「このところ横ばいとなっている」から、2012年5月には「このところ緩やかに上昇している」へと変更している。
 海外経済の現状については、2012年5月も前月と同様、「世界の景気は、全体として弱い回復となっている。」とし、判断は据え置いている。先行きについても、前月と同様、「弱い回復が続くと見込まれる。」とし、判断を据え置いている。海外経済の先行きに対するリスク要因については、2012年4月の「財政の先行き不安を通じた」から2012年5月には「財政の先行き不安の高まりを背景とした」へと一部文言が修正され、リスク要因として改めて「欧州政府債務危機」に対する警戒感をより強くにじませた表現となっている。
 地域別にみると、アメリカに関しては、2012年5月も前月同様、「景気は緩やかに回復している。先行きについては、緩やかな回復が続くと見込まれる。」とし、判断を据え置いている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、前月同様、「ただし、高い失業率の継続や住宅価格の下落等により、景気が下振れするリスクがある。また、財政緊縮の影響に留意する必要がある。」とし、前月の判断を踏襲している。中国に関しては、景気の現状について、2012年4月も前月同様、「景気は内需を中心に拡大しているが、拡大テンポがやや緩やかになっている。」とし、判断は据え置きとなっている。先行きについては、欧州向け輸出の減少などを受けて、2012年4月の「拡大傾向が続くと見込まれる。」から、2012年5月には「拡大テンポが緩やかになっている。」とし、3ヶ月ぶりに判断は下方修正されている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、2012年4月の「ただし、不動産価格、物価や輸出の動向に留意する必要がある。」から、2012年5月には一部文言が修正され、「ただし、輸出、不動産価格や物価の動向に留意する必要がある。」とし、中国経済に関する今後のリスク要因として輸出動向をより一層注視する姿勢を鮮明にしている。インドに関しては、2012年5月も前月同様、「景気の拡大テンポは鈍化している。先行きについては、拡大テンポの鈍化が続くと見込まれる。」とし、判断は据え置きとなっている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、前月同様、「また、物価上昇によるリスクに留意する必要がある。」としている。その他アジア地域に関しても、2012年5月も前月同様、「景気は一部に持ち直しの動きもみられるが、足踏み状態となっている。先行きについては、当面、足踏み状態が続くと見込まれる。」とし、判断は据え置きとなっている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、前月同様、「また、輸出の動向に留意する必要がある。」としている。ヨーロッパ地域に関しては、現状について、2012年5月も前月同様、「景気は足踏み状態にあり、一部に弱い動きもみられる。」とし、判断を据え置いているが、ドイツに関しては別途、「ドイツではこのところ持ち直しの動きがみられる。」との言及が加わっている。先行きについても、前月同様、「当面、弱めの動きになるものと見込まれる。」とし、判断は据え置きとしている。景気の下押しリスクをもたらす要因については、2012年4月の「財政の先行き不安」から、2012年5月には「財政の先行き不安の高まり」へと一部文言が修正されており、リスク要因として「欧州政府債務危機」に対する警戒姿勢が重ねて強調されている。
 2012年5月の報告内容を見ると、基調判断の9ヶ月ぶりの上方修正や「回復」に類する表現の復活などからも示唆されるように、景気の現状と先行きに対する政府の楽観的認識が垣間見えてくる。今回の基調判断の上方修正に関し、月例経済報告公表後の記者会見の場で、古川元久経済財政担当相より「景気の持続性が展望できる状況に少しずつ向かっていると、そのように判断されたことから、『回復しつつある』という表現にした」とのコメントが出され、その背景として古川経財相からは「内需の復調傾向がはっきりしてきたことに加え、輸出も持ち直しの動きが見られる。生産の持ち直し基調が続く中、家計所得や企業収益など所得面に底堅さが出てきている」との説明も重ねて示されている。
 政府としては、震災復興特需や政策効果に伴う公共投資や消費の盛り上がりに加え、米国向けや東南アジア向けなどでの輸出の復調が、家計所得や企業収益の回復へとつながりつつある点を好感し、今後の消費や設備投資等の内需の更なる押し上げといった善循環への期待感を、強くにじませている。今後、政府の期待するシナリオ通りに景気が回復するかどうかは、政府自身もリスク要因として警戒している「欧州政府債務危機」などの海外経済の波乱要因に加え、喧伝される内需の復調自体が、その裾野の拡がりと根強さの両面で、どこまで盤石なものなのかに対する見極め次第となろう。

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