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HOME > JMRからの提言 > 提言論文 > 消費 > 提言論文 消費低迷下の需要刺激のてがかり(2009年)

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消費低迷下の需要刺激のてがかり
-求められる信頼価値

本稿は、「月刊レジャー産業2009.05号」掲載記事のオリジナル原稿です。
大場美子
プリント用画面(PDF)/会員専用
1.家計の節約モード
図表1.抑制される選択的支出

図表2.減少する外食、レジャー支出
-1年前と比べた支出増減
 景気が悪化し、雇用不安と収入減が消費意欲を悪化させている。生活の細かな節約ノウハウが本になり、著者が「カリスマ節約主婦」としてマスコミにもてはやされている。消費市場全体が節約ムードに支配されているかのようだ。しかし消費者の意識では、主に節約しているのは生活費や教育費などの日常的支出ではなく、余暇レジャーなどの選択的支出(日常的支出に向けられた以外のお金)である。日常的支出の増減と選択的支出の増減をみると(図表1)、2009年1月調査結果では、「1年前に比べて日常的支出が減った」と答えた人は17.4%であるのに対して、「選択的支出が減った」人は45.9%と半数に近づいている。過去からの推移をみると昨年の夏以降に節約モードが強まっていることがわかる。
 さらに費目別にみると、増加層の比率が減少層を上回るのは20項目中2項目のみ、「食品・飲料への支出」と、「子供の教育費」だけである(図表2)。中でも減少層比率が最も高いのが「外食」(減少51.7%)、次が「旅行などレジャーへの支出」(減少33.3%)とレジャー産業にとって深刻な事態となっている。

 不況下の節約ムードによる需要減退ならば、景気が回復すれば需要は回復することになるが、やっかいなのは、不況の前から進行している消費者のニーズや購買行動の変化によって需要が減退している場合である。例えば数年前から言われている若者の車離れ、海外旅行離れ、アルコール離れ、ギャンブル離れ、若者の××離れは、枚挙に暇がない。各業界では、20代の学生から独身社会人に移行して、自由裁量金額が増えて、欲しいものが最も多いはずの若い世代の購入率が以前に比べて低くなっていることは、極めて重大な問題である。今の若い世代が、従来であれば住宅や車の主要顧客となるファミリー期になってもこのまま冷えているのか、さらに若い新しい世代が20代にあがってくれば復活するような今の特定世代に限った問題なのか。そうではなくて、これから先の若者が同じ傾向を持ち続けるとしたら将来の需要が失われてしまうことになるからだ。
 ちなみに「世代」とは同時期に生まれ、歴史的な事件や共通の経済環境を通過した共通の価値観をもつ人々の塊のことである。団塊の世代や新人類世代が有名だ。10代20代といった「年代区分」と混同されることがあるが、生まれた年を基準に区分される「世代」は、年を重ねても同じ世代に属する(世代区分に対応する現在年齢は後述する図表4に記載)。例えば団塊世代が20代の時には第一次オーディオブームをつくり、ファミリー期にはカローラ、サニーといったファミリーカーの主要な買い手となって自動車産業を支えたように、世代はそのライフステージの代わり目毎に商品サービスの普及やヒット商品を生み出してきた。消費の動向を占うには世代による違いに着目し、各世代が独身社会人や子育て期、子手離れ期といったライフステージのどの段階にあるかを考慮する必要がある。
図表3.復活するレジャー支出-今後の支出増減意向
 まずは費目別に、全体の今後の支出増減意向がどうなっているかみてみよう(図表3)。全体的には、すべての費目で増加意向層比率よりも減少意向層比率が上回っているという節約一色である。しかしその中で増加意向層が最も多いのが「旅行などレジャーへの支出」である。続いて「子供の教育費」、「趣味、関連商品」となっている。住宅、自動車、テレビなどAV機器、家事・調理家電など大型耐久消費財は増加意向が5%以下と極めて支出意向が低いことがわかる。ここから、消費者の消費の欲求は、車や家電などの選択的ストック型の財から、レジャー、教育、趣味などの選択的フロー型の財サービスへと向かっていることがうかがえる。さらにこうした費目による消費意欲の違いは、性別や世代によって異なる。若い世代ほど、選択的フロー型の財サービスへの支出意向が高く、選択的ストック型の財に関心が薄い傾向がある。

2.レジャー支出を牽引する層
図表4.世代別レジャー支出増減意向
 ではレジャー支出を増やしたいと考えているのはどの層か。性別と性別世代別にデータを整理してみると(図表4)、増加意向が減少意向を上回っている層がいくつも発見できる。男性よりは女性、男女の団塊世代以上の成熟した世代と、女性の少子化、バブル後世代である。団塊の世代はちょうどリタイアメント期にあり、65歳までの雇用延長もあるが、これまでよりは時間のゆとりも生まれ、退職金も年金も保証された悠々自適の老後生活が見込める最後の世代である。これからもレジャー産業の上顧客となる。断層の世代は、女性は増加意向層が多いのに対して、男性が少ない。この世代の男性が企業の中間管理職から幹部の立場にあって、現在は高収入であっても、景気悪化、企業業績悪化の心理的影響を強く受けてしまうのに対して、女性は子育てが一段落して自分を取り戻すための消費意欲が活性化している。女性で減少意向層が多いのは「団塊ジュニア」と「新人類」世代であるが、今現在子育て期にあり、日常的支出はなかなか絞れないため、企業業績悪化から残業代カットなどによる収入減少が選択的支出抑制に直結してしまうからである。団塊ジュニア世代は、20代の頃から消費意欲が高くはなかったので期待できないが、「新人類」世代は、バブル消費を体験しブランドブームをつくった消費大好き世代である。景気回復によって収入見通しが改善し子育てが一段落すれば、消費は活発化してくると予想できる。バブル崩壊後に思春期を迎え今20代にいる「バブル後世代」と「小子化世代」では、最近よく聞かれる「草食男子」「肉食女子」の例えにもあるように、女性の方が男性よりもアクティブで消費意欲も高くなっている。女性にリードされて男性もレジャー支出を増加させていく可能性がある。

3.節約モード下のヒット商品にみる需要回復の鍵
 節約ムードが支配する中でも、ヒット商品は生まれる。ヒットの裏にはその商品サービスを受容する消費者心理がある。昨年の話題のヒット商品を類型化してみると、共通するいくつかの特徴と消費者心理がみえてくる。そこには不況下でも需要を刺激する方策を探るヒントがあるはずだ。

  • 圧倒的なパフォーマンス優位
     ネットブック、ウルトラモバイルパソコンと呼ばれる5万円を中心とする価格帯の、小型PCが売れた。ビジネスソフトのオフィスを搭載しないなど機能を絞り込み、二台目の需要を開拓、PC市場の新価格帯市場を形成した。引きずられるように、A4ノートPCの売れ筋価格帯が家電量販店店頭では10万円を切るまでになってきた。
     アパレルではユニクロが独り勝ち、2ケタ増収となっている。繊維メーカーとの素材の共同開発から生まれた、2007年の「ヒートテック」や、「ブラトップ」、「速乾Tシャツ」などの機能性訴求と安さによりヒットを連打している。

  • ランニングコスト重視
     コナカの「シャワークリーンスーツ」は自宅のシャワーで汚れが洗い流せ、アイロンもいらずクリーニング代が節約できる。5万円台の価格はコナカの売れ筋よりは高い価格設定であるが、紳士服市場が低迷する中ヒットした。
     省エネタイプの白物家電、ハイブリッドカーも、標準品より高くても売上を伸ばしている。短期間では購入コストが相殺できないとしても、ランニングコストを重視する選択がされている。

  • メタボ対策
     2008年4月からはじまったメタボ健診が、長期トレンドの健康志向をさらに先鋭化したことにより生まれたヒット商品も多い。会社でのメタボ対策の啓蒙や指導強化もあって男性が関心を強めている。食品ではトクホ(特定保健用食品)と呼ばれる茶飲料や食用油、カレールーなど、運動系では任天堂「Wii Fit」、ワコール「クロスウォーカー」があげられる。従来の体重計は体組成計として進化し、体脂肪や内臓脂肪率、骨格筋量などを瞬時に測定し、メタボ該当者にとどまらず予備軍も含めた「体」測定ニーズに応えて売れ行きを伸ばしている。

  • 巧い価格変更
     ビール類は、発泡酒、第3のビールが拡大しビールが縮小傾向にあった中、2008年春の一斉値上げでさらに縮小したが、「ザ・プレミアム・モルツ」は同時期には値上げをせず、好調さを保った。ヤマザキパンは、食パン値上げの際に、原料のマーガリンをバターに替え、国産小麦を使うなど原料品質向上を同時に訴求し、売上シェアを落とさなかった。値上げには正負の両面の効果がある。割高感によりブランドスイッチされる場合もあるが、品質が納得されれば「多少高くてもこのブランドがよいのだ」と再評価されて顧客のロイヤリティがアップすることもある。値下げも同様に、品質イメージに関わる。価格は品質の重要なシグナルになっている。

  • 趣味的消費
     美容健康や趣味などに関連する商品サービスについてはむしろ、高価格で付加価値の高いものの方が標準品よりも伸びている傾向がある。化粧品ブランドでは1万円以上のラインナップの高額ブランドが売上を伸ばし、成長する自転車市場においても、電動アシスト付き自転車と、特に趣味性の強い高価格のスポーツ車が売れている。一般には関心が薄くブランド認知も乏しい自動車タイヤ市場においても、標準品は縮小しているが高価格帯ブランドは堅調である。品質にこだわるユーザーが高価格高品質の商品ブランドを支えている。

 消費者は節約志向を強めているが、単に低価格品を求めているわけではない。節約して生活の質を下げるのではなく、ムダを見直してパフォーマンスを高めようとしている。言い換えると商品サービスの選び直しが行われているのだ。
 食品では、不祥事や農薬混入などの事件により消費者の信頼が揺らいだ。その結果、改めて商品の安全性が強く意識されるようになり、スーパー店頭では売り場で消費者がパッケージの裏を見る時間が増えたという。商品サービスの品質を推定する手がかりとして産地、製造者、流通業者などの提供者が信頼できるかどうかが重要になっている。
 レジャー産業は、現在の節約志向の消費者の選別に生き残れば、他の財サービスに比べて、景気回復による需要回復が見込める顧客条件がある。需要を刺激するためには、不安・不信の時代だからこそ、基本品質と信頼価値をどう顧客に伝えていくかが鍵となる。特に、どんな顧客層に対して、顧客が求める品質をどのように訴求するか、価格政策を見直す余地がないか、顧客がサービス提供者への信頼を醸成するための情報が発信できているか、見直してみる必要があるのではないだろうか。

(2009.05)

本稿には当社代表・松田久一、並びに消費研究チームのメンバーによる議論・検討の成果が活かされております。あり得べき誤りは筆者の責に帰します。

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