半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

ネット時代の消費リーダーがみえてきた
-ビットバレーで踊る人々 ~神なき情熱~
消費研究チーム

 女子高生と携帯電話に席巻される街"渋谷"。この街で、IT・ネット関連の若きベンチャーたちが注目を集めている。その名は「ビットバレー」。
 ビジネスの領域での注目もさることながら、若きベンチャーたちの企業家精神は、生活スタイルにも、革命を起こしている。この論文では、1) 「ビットバレー」とは一体何なのか、2) 彼らを起業へと導いた要因は何か、そして、3) 「ビットバレー」による新しい生活スタイルを持つ人々が、ネット時代の消費リーダーとなるか、ということを明らかにしたい。

1.「ビットバレー」とはいったい何なのか

(1) ビットバレーの成立

 「ビットバレー」というベンチャーの共同体構想は、1999年3月11日に配信された週刊「ネットエイジ」が始まりになっている。)
 高らかにベンチャーの協力と発展を謳った、このネットエイジ代表取締役西川氏の設立構想後、勉強会や飲み会が開催される。その後、より組織的に運営する目的で非営利団体(NPO)「ビットバレーアソシエーション」が設立される。
 西川氏は、その設立経緯について、以下のように語っている。
 「企業家志望者だったり、企業家になりたての人たちが、みんなで協力し合う相互補助組織=生態系をつくろうというのが当初の趣旨だった。主役は企業家およびその予備軍だけど、そこにはベンチャーキャピタルの人とか大学の人とかいろんな人がいる。そんなプレーヤーがいて、その人たちが循環的にお互いをサポートしあって優秀なビジネスが生まれてくる。そういう土壌を作ろうというようなことで始まったのがビットバレーです。」(別冊週刊ダイヤモンドビットビジネス5月号)
 具体的に現在のビットバレーに集まっている企業の内訳は文末の参考図表の通りである(「ビットバレーの鼓動」荒井久著 日経BP) (文末参考図表)。

(2)ビットバレーの発展

 ビットバレーアソシエーションの参加メンバーは、2000年1月末には4,600人を超え、そのメーリングリストには、5,092人が登録されていた。(2000年2月6日現在 HPより)また、「ビットバレー」には、月に1度開催される「ビットスタイル」と呼ばれる相互交流の場が存在した。当初、この会合は「ビットな飲み会」と呼ばれ、30人ほどの顔見知りの集まりであったという。それが1999年6月24日の会合では200人。8月5日は300人超。2000年2月2日は2,200人とその参加者は急激に拡大。また、2月の会合には、ソフトバンク・孫正義社長が3,000万円かけて飛行機をチャーターし、スイスから六本木のディスコ、ヴェルファーレに駆けつけ、大きな話題になった。
 そして、1999年末の東証マザーズ登場によって、続々とベンチャーが株式上場するようになる。この時もビットバレー企業家は、さまざまな話題をふりまいた。「史上最年少上場経営者記録」「会社設立3年で上場」などである。華やかな躍進は、マスコミでも取り上げられ、ビットバレーブームは加熱していった。

(3) ビットバレーブームの背景

 ビットバレーが注目を集めた要因は、渋谷を活動の拠点にしている、経営者の年齢が若いなど、さまざまあるが、結局、ビットバレー企業が「金を集める」ことに成功したことが大きい。若く、経験も浅く、実績もない若者が、上場し、株価が高騰することによって、その資産を増やし、億万長者と化したのである。そこには羨望と嫉妬の目が集まる。

 しかし、成功の背景には、彼らだけではなく、ソフトバンクに代表される、「株式時価総額」の拡大を狙う経営戦略と、株式投資家のIT・ネット関連企業への期待があった。
 ネットベンチャーで現在、収益をあげているところは少ない。ベンチャーにとって、最大の障壁は、事業を継続させていく資本の獲得が困難な点にある。一方、投資家には、今後インターネットは更なる普及を遂げ、インターネットビジネスは必ず収益をあげるだろうという、予想を予想した期待がある。ソフトバンクや光通信に代表されるVC(ベンチャーキャピタル)は、ビジネスモデルだけで企業を判断し、資本金出資する。そして、株式公開させる。ビジネスモデルがネット先進国アメリカからの輸入であっても問題はない。
 株価が高値で維持されている限り、ベンチャーと投資家、出資者はそれぞれの思惑を達成することができる。ベンチャーは資金を手に入れ、投資家は購入した株式が高値をつけ、出資企業は保有する株式の含み益によって、時価総額を拡大する。
 孫正義は、この経営戦略によって、世界有数の資産家となり、ソフトバンクはネット関連の巨大企業グループを形成している。「時価総額」経営を掲げる企業の経営リスクは小さい。あえて経営には参加せず、グループ会社の株式売却を可能にしているからだ。もし、株価が上昇すれば、出資企業の株式時価総額も膨れ上がり、株価が高い額面を維持できなければ、売り払えばいいのである。ソフトバンクや光通信は、この戦略をビットバレーでも実践し、成功したのである(東証マザーズ上場8社のうち、ネット関連企業が6社、そのうち光通信が出資するベンチャーが4社)。
 しかし、ベンチャーが事業で収益をあげない限り、株価は、現実と乖離した虚栄でしかない。期待感だけが、ビットバレーブームを支えていたのである。

2.ビットバレーな人のライフスタイル
 ビットバレー起業家は、なぜ起業という選択肢を選んだのか。プロフィールや生活スタイルを通じて、彼らの意識を明らかにしていきたい。

(1) 「ビットバレー」起業家のプロフィール

 「ビットバレーの鼓動」(荒井久 日経BP企画)に登場する43人の企業家たちのプロフィールをみていく。
 年齢は、20代 37%、30代 42%、40代14%(不明7%)であり、20代と30代を合計すると79%となり、その若さが際立っている。しかし、ベンチャー起業家たちも、はじめから起業していたわけではない。その経歴をみると、多くがかつて何らかの形で勤務経験があることがわかる(IT・ネット関連企業勤務経験者44%、異業種の勤務経験者 37%)。 特にIT・ネット関連企業の勤務経験者が多いのは、技術的裏付けが必要な業種だからであろう。
 その学歴をみると
1位 慶応義塾大学(14%)
2位 東京大学(12%)(中退1人、在学中1人を含む)
3位 早稲田大学(12%)
4位 青山学院大学(7%)
 ベンチャーとその学歴には、全く関係がないように思われるが、東京大学を除けば、都内私立大学にその出身が集中していることがわかる。
 次に、その本社所在地をあげてみると、やはり「ビットバレー」と命名するだけに、渋谷区32%、港区23%、千代田区14%と確かに渋谷区周辺にその所在地が集中している(図表4)。

(2)「ビットバレー」の生活スタイル=「ドッグスタイル」

 次に彼らの生活スタイルをみていく。
 まず、彼らの特徴として、「プライベート」と「仕事」の意識の切り替えがほとんどないことがあげられる。雑誌特集で、5人のビットバレー起業家の愛用道具の上位3つをみてみると、
  • ノートPC 4人
  • リュック・アタッシュケース 4人
  • 携帯電話 3人
    (別冊週刊ダイヤモンド5月号)
と、モバイルツールを駆使し、「いつでも」「どこでも」仕事できるスタイルが現れている。
 また、
「家には2ヶ月帰ってません。」
「このペースでいけば(働き過ぎで)多分死にますね。」
「毎朝5時まで仕事をし、午前10時過ぎには出社する」
「(休みは)ほとんどなし。あっても移動日くらい」
など、彼らは極度のワーカホリックである。仕事場とそれ以外、「プライベート」と「仕事」といったオン/オフの区別が彼らの生活では全く見られない。
 この特徴は、居住地域にも表れている。雑誌の特集記事で、ビットバレー起業家の生活を特集しているが、取り上げられている4人の起業家の住居は、新宿区、渋谷区、目黒区、港区。その通勤時間は、約10分-3人、約5分-1人、と非常に職場に近い場所で生活している。(sabra(サブラ)創刊号 小学館)
 また、上記の特集から、彼らの食生活を見ると、
朝食:抜き(2人) シリアル コンビニおにぎり
昼食:とんかつ弁当 会社近くのレストラン 幕の内弁当 マクドナルド
夕食:マクドナルド ホテルレストラン(打ち合わせ) コンビニ弁当 回転寿司
 その役職、高収入からは考えられないが、彼らは同世代の若者と同じような食生活を送っている。いや、人並以下のジャンキーな食生活を送っている。
「会社近くの吉野家が最近なくなったのが残念です。」
「人と会わないときはほとんどファーストフード。最近、秘書から゛マック禁止令゛が出ました。」
「以前はほとんどカップラーメンでした。」

 また、起業家である彼らは、非常に熱い情熱を持っている。
「あと10年、死ぬ気で突っ走って、株式時価総額10兆円をめざす」(藤田晋・サイバーエージェント代表取締役社長)
「ネットを使って、個人が組織の犠牲になる社会を変えること」(尾関茂雄・アクシブドットコム代表取締役)
「まだまだネットベンチャーへの熱気が足りない」(堀江貴文・オン・ヂ・エッジ社長)
 この情熱こそが彼らを動かす原動力である。彼らの生活の全ては事業を成功させることに集中している。
 熱い企業家精神に魅力を感じる若者も多い。ビットバレーアソシエーションのML(メーリングリスト)には、309人の学生が参加していた。ビットバレー企業家たちは憧れの対象となり、「起業=かっこいい」という意識を牽引している。

 以上のことを踏まえると、彼らの意識や生活スタイルは、まさにネットを体現したものであることがわかる。ネットの特徴である時間や距離などの枠組みを超えることが彼らの生活スタイルなのである。目的を達するためには、彼らは仕事場の近くに住むことも、手軽な食事も厭わない。ネットの変化スピードの速さを表現する、「ドッグイヤー」という言葉があるが、ビットバレーのライフスタイルはまさに、「ドッグスタイル」である。
 仕事とプライベートを分けずに、24時間、いつでもどこでも、仕事をしている。栄養源はジャンクフード。いきつくところは、体力勝負である。若く、情熱に燃える起業家にとって、武器はその体力しかない。

 本コンテンツの全文は、メンバーシップサービスでのご提供となっております。
 以降の閲覧にはメンバーシップサービス会員(有料)ご登録が必要です。

メンバーシップサービス会員ご登録についてはこちらをご覧ください。
メンバーシップサービス会員の方は、下記をクリックして全文をご利用ください。

新着記事

2024.03.21

24年1月の「旅行業者取扱高」は19年比で69%に

2024.03.21

24年1月の「商業動態統計調査」は35ヶ月連続のプラスに

2024.03.19

24年2月の「景気の現状判断」は12ヶ月連続で50ポイント超えに

2024.03.19

24年2月の「景気の先行き判断」は4ヶ月連続で50ポイント超えに

2024.03.18

成長市場を探せ 3年連続で過去最高更新、拡大する麦茶飲料(2024年)

2024.03.15

企業活動分析 スギHDの23年2月期は増収減益。26年度売上1兆円へ向けた挑戦が続く

2024.03.14

24年1月の「消費支出」は11ヶ月連続のマイナス

2024.03.14

24年1月の「家計収入」は16ヶ月連続のマイナス

2024.03.13

戦略ケース なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか

2024.03.12

企業活動分析 マツキヨココカラカンパニーの23年3月期はPB商品拡販やインバウンド需要増加で増収増益

2024.03.11

23年12月の「現金給与総額」は24ヶ月連続プラス、「所定外労働時間」はマイナス続く

週間アクセスランキング

1位 2024.02.15

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 男性子育て層の約5割が利用 バンドワゴン効果で拡大する新NISA

2位 2023.12.27

2024年の日本を読み解く―24の視点

3位 2024.02.22

消費者調査データ No.402 RTD(2024年2月版) 「ほろよい」「氷結」「贅沢搾り」 熾烈なトップ争い

4位 2016.03.16

【マーケティングFAQ】どうすればブランド力を強化できるか

5位 2021.10.14

都心主要ラグジュアリーホテルのリバイバル戦略と行動直結プロモーション―産業衰退死段階の生き残り戦略【1】

パブリシティ

2023.10.23

週刊トラベルジャーナル2023年10月23日号に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事「ラーケーションへの視点 旅の価値問い直す大事な切り口」が掲載されました。

2023.08.07

日経MJ「CM裏表」に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事が掲載されました。サントリー ザ・プレミアム・モルツ「すず登場」篇をとりあげています。

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area