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ピーター・ドラッカー 1909 - 2005年
ビジネスおよびビジネス教育の職人
リチャード・メイ

 ビジネスおよび社会政策の全体像を描く巨匠が、南カリフォルニアにおいて11月11日、95才で亡くなった。39冊の著書、60年に及ぶビジネスに関する研究、教育、等の著述により、ピーター・ドラッカーの思想と見解は、ビジネスに携わる我々の言説の中に深く浸透している。彼の 影響はビジネスをはるかに超えて、技術、経済学、人事、そしてその他多くの領域に及んでいる。アジアにおける彼の影響もまた巨大かつ持続的なものであった。日本において彼の業績が最初に注目を浴びたのは1960年代から1970年代のことである。当時、彼の業績は「マネジメント」の研究および実践、すなわち日本人が経営学と呼ぶ、マネジメントの科学の代名詞であった。日本においてドラッカーの研究が知られるようになる以前は、ビジネス論および実践に関する唯一の理論的枠組みはマルクス理論であった。トヨタはじめ日本の戦後の復興期に飛躍した産業界の大企業は、マルクスの諸作品の利点や価値にはほとんど言及していない。

Cover of Peter Drucker's first book, 1939.
 しかし、興味深い理由により、特に日本の中間および上級管理職にはドラッカーの教えを理解し、それを日本の状況に適合させるための準備が整っていた。日本のビジネスマンはマルクス主義の歴史的なアプローチおよび正反合の弁証法に慣れており、それがドラッカーの歴史に基づくビジネスの教えを受け入れる下地となった。マルクスの歴史主義はまさに日本のビジネスマンが必要としていた入り口であったと言えるだろう。このように準備の整っていた戦後日本の第一世代の経営幹部候補たちは、献身的な従業員が成功の要因として最も重要であることや、大企業はマーケティング(ドラッカーの初期の時代にはビジネスの分野としては概ね片隅に追いやられていた)や財務を自社の優位に役立つよう利用できることなどの、ドラッカーの洞察を素早く理解した。

 1980年代、製造業におけるグローバルな舞台、そして日本の「バブル景気」へとつながる高みへ日本が昇りつめる過程において、日本におけるドラッカーの信奉者は、マイケル・ポーターの信奉者および彼らの見解に基づくコンサルティング・ビジネスの台頭によって影の薄い存在となった。これらのコンサルティング・ビジネスの中で日本において突出していたのは、マーケティングの大家である大前研一に率いられたマッキンゼー・アンド・カンパニーであった。これは日本の企業がドラッカーに背を向けたというよりも、彼らが「5つの競争要因」、「価値連鎖における9つの活動」、そして基本戦略などの、ポーター理論のプログラム的な性質に魅せられたという面が大きい。これにより、国際的なビジネスの課題にポーターの定式を適用し、多くの場合において大きい成功を収めることになったコンサルティング業界内でのミニ産業が生み出された。1990年代には、専門的なコンサルティング、およびブランド力のある企業が注目を集め、ボストン・コンサルティング、ベインなどが大きな話題を集めた。しかし、それらすべての動きの間にも、ドラッカーの業績はビジネスに関する議論の背景に深く浸透していた。

 ドラッカーはビジネス・コンサルティングを提唱した第一人者と言われているが、彼はミクロな経営課題の解決者というよりは、より広範囲にわたる思想家である。細部を観察し、状況の大局的な見通しを得るという彼の能力の典型を示す、1945年の著書「The Concept of the Corporation」(邦訳:会社という概念)では、彼はゼネラル・モーターズの内部に身を置き、日々のビジネス・プロセスを観察している。この研究により、彼は経営と意思決定における分権化が必要であるという視点に到達する。GM自体はドラッカーの仕事を全く快く思わなかったが、彼の業績は現代におけるビジネス・コンサルティングの基盤となったのである。

長期にわたるベスト・セラー
 ビジネスの思想へのドラッカーの寄与に関しては、米国および欧州において多くの称賛の言葉が記されるであろう。ここでは彼の日本における影響に関して、いくつか付け加える。ドラッカーの著書は、ダイヤモンド社による彼の作品の翻訳である1956年の「オートメーションと新社会」(Automation and the new society) 以来日本語に翻訳されている。ダイヤモンド社だけでも60冊に及ぶ彼の著書を出版している (翻訳、翻訳改訂版、編集著作集)。今日でも26冊のダイヤモンド社版のドラッカーの書物が出版中である。これに加え、日本最大のビジネス出版社である日経の出版による、広範にわたるドラッカーの書物の翻訳がある。この名匠の最新の書物は今夏出版されたもので、長年にわたるドラッカーの書物から彼の技術に関する文章を集めた「テクノロジストの条件」(Conditions for Technologist)、上田惇生編集、ダイヤモンド社、2005年7月出版、である。

物作り - 細部に対する職人のこだわり
 日本の技術者と経営者は、彼らの細部に対するこだわりと、製造における小型化を物作りとして語る。日本語で「もの」とは単に「物事」を意味する言葉で、「づくり」は職人がゆっくりと製品を仕上げるさまを連想させる動名詞である。この言葉のイメージは、足を組んだ見習い職人が作業台の上できめ細かい製品に精を出しているさまである。しかし、これらの製品は、包丁、べっこう製のくし、液晶テレビ、ICボード、あるいはiPodの内部の仕組みなど、日々の生活で使用するためのものである。ドラッカーが事業計画の指針としてマクロ経済を信用せず、その代わりに身近な事実の細部に対する観察と注意を好んだということはよく知られている。日本人は、ドラッカーの作品には日本人の細部へのこだわりに対する彼の理解と評価が反映されていると感じている。まさにこの評価により、日本人はピーター・ドラッカーのビジネスに対する思想をビジネス書の殿堂における特別な位置に置いているのである。職人はビジネス思想の職人をよく理解したのである。


(2005.12)

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