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次なるソフトウェア革命 -Software-as-a-Service
リチャード・メイ

SaaSでお金も時間も節約できる
 マイクロソフトがウィンドウズ・ビスタを1月の発売以来ひと月で2,000万本売り上げてから、この産業にある革命が起こった。Software-as-a-Service(SaaS)である。最近まで、企業にとってソフトとは購入するものであった。だがSaaSではサービスを賃貸することができる。例えばSaaSのプロバイダであるsalesforce.com社には、世界中に約3万の顧客がいる。その中には日本の郵便局やみずほ銀行、三菱東京UFJファイナンシャルグループ、日立ソフトウエアエンジニアリングも含まれている。企業の意思決定者たちはSaaSの良い点と悪い点のトレードオフを理解しておく必要がある。ここでは近年起こったイノベーションとその長所・短所を見てみたい。SaaS時代到来への準備に役立つだろう。

 日本オラクルのシニア・ディレクターDavid Clementによると、インターネット経由でオンデマンドで配信されるSaaSは、カスタマイズされた市販のパッケージソフトとは違う。使いやすいインターフェースを提供してくれるうえ、IT部署がシステムをセットアップする時間が節約できる。「我々の『オンデマンド』ソリューションははっきりとしたユーザーごと、月ごとのコスト・モデルを提供している。これはつまり、月単位の経費が予想しやすくなるということだ。全体として、ソフト関係の作業を組織内で行うのと比べ、ソフト所有のコストを減らすことができる。」

 SaaSの初期の形態はASPs(Application Service Provider)によるホスト・ソフトウェアを基本としていた。しかし、配信されるソフトはHTML形式で、ネット経由でデータ輸送されるだけの、昔ながらのソフトのちゃちな改変でしかなかった。配信されるソフトはインターネット経由で世界を巡るようにはできておらず、不具合や遅延、追加費用が発生するのは珍しいことではなかった。「ネットネイティブSaaS」とは、新世代SaaSソフトを区別するために使われている言葉だ。この新世代SaaSソフトは、新しいブロードバンドHTTP(Hypertext Transfer Protocol)とTCP/IPサービスを効果的に使用するために作られたものである。

 初期費用が節約でき、長期の維持コストも節約できるということで、より多くの企業がSaaS使用を考え始め、今や古いASPモデルの不具合は克服されている。salesforce.com Japanのマーケティング部シニアディレクターのSam Adlerは、昔ながらのビジネスソフトは多くのハードウェアを食い、高い固定費がかかり、長いセットアップ時間と大規模なメインテナンスを必要とする、と強調する。「しかしSaaSモデルなら、」Adlerは言う。「企業側は登録してユーザー料金を支払えばよく、サービスのメリットとカスタマイズ・オプションがすべて得られる。最も重要なのは、サービスが絶えず更新され、間髪をおかずすぐに顧客に届けられることだ。」Adlerは日本に子会社を持つフランスのハイテク企業の例を挙げる。東京のマーケティング課の社員はアプリケーションを日本語で使い、ROIや売上金額などの主要数字を追うことができる。同じ時間にフランスにいる彼らの同僚も同じアプリケーションとデータをフランス語で使っている。

 右記SaaSシステムの図に示されているように、CRM(Customer Relationship Management)や会計、人事に用いるシステムのような、ひとつの大きな企業用アプリケーションは顧客のオフィスの建物内に配信されることになる。古いASPモデルの突破口は、まさにマルチテナント・アーキテクチャの刷新の中にある。このシステムはユーザーとアプリケーションを共通インフラにつないでいる。ソフトウェアのプログラム・コードは中央で維持・更新される。完全にSaaSを実行すると、それぞれの場所にいるユーザーは同じリアルタイム・インスタンスを共有していることになる。アプリケーション版と同じだ。アプリケーションの個々のインスタンスは「仮想化」と呼ばれるプロセスによって分けられる。図の中間部分の層はメタデータとして知られるもので、企業固有の情報、例えばビジネスルール、テンプレート、ユーザーインターフェースを格納している。これらは社員が自席で見るときには個別化された画面になって現れる。

 SaaSはそのルーツを大型汎用コンピュータにまで遡る。オンデマンドは遅く、その上高価だった。IBMの大型汎用コンピュータは初期の企業向けコンピューティング資源であるが、のちにその地位をクライアント・サーバーに譲った。大型汎用コンピュータはクライアントのコンピュータ用サーバーに変わった。次にPCが登場し、社員たちはITに詳しい人を拘束せずに済むようになった。

 しかし、接続されていないデータの孤島が大量に生まれることになり、企業トップの仕事が面倒になった部分もあった。例えばグループ全体のプランニングや戦略策定、プロジェクトマネジメントなどだ。1990年代にインターネットが登場すると、ユーザーとデータ、企業マネジメントがもう一度結び付けられるだろう、と期待された。とはいえ、そうなるには楽観的なマーケティング担当者が予想したよりもずっと長い時間がかかった。ネットは確かに助けにはなった。ネットから標準化されたテクノロジーが現れ、ワールド・ワイド・ウェブをもたらした。散らばっていたデータが中心部の企業神経システムに結合される日が近づいた。ASPモデルは企業コンピュータ上にクライアントサービスを作り、ネットワーク経由で転送するデータを作り上げた先駆者だった。ASPモデルの改良とともに-アプリケーションをインターネットで提供するために徹底的に再設計し-SaaSは今やITの研究開発リーダーと新興SaaS企業に資金提供を考えているベンチャー・キャピタルの間で話題のトピックとなった。買う側視点からすると、ソフトは「はじめに全て購入」タイプのモデルからは進化している。しかしながら、投資コストの安さとともに、SaaSの法的側面の、またセキュリティーの側面の不安が浮上している。

 近年Gartner Inc.が発行したレポートの見積もりによれば、2年前SaaSはビジネス向けソフトの売上げの5%を占めるに過ぎなかった。2011年までには、アメリカのハイテク関連市場調査会社の予想によれば、SaaS配信のソフトは新しいビジネスソフトの売上げの25%以上を占めるようになるだろう。分野によっては、CRMのように、既に12%のソフト売上げがSaaS配信の製品によって占められているところもある。そうは言っても、SaaSが昔ながらの市販パッケージソフトに替わって受け入れられるようになるにはまだ時間がかかる。統合業務ソフト(ERP)やサプライチェーンマネジメントのソフトを例に挙げると、Gartnerの試算ではSaaS使用のソフトは4%に満たないという。

 しかし進歩はめざましい。SaaSは企業が社命を果たすために重要な役割を担っている。SaaSの受け入れ率が最も高いのは現在のところCRMと営業支援の分野である。次いで人事管理システムと経理事務、そしてデータベースの分野だ。SaaSとCRMのパイオニアはアメリカに本拠地を置くsalesforce.comで、元オラクルの重役が作り出した。SaaSベースのサービスを満足して使っているユーザーの一人が、Bryan MacKinnonで、メリルリンチ日本証券のクライアント技術部門の重役である。「SaaSを使い始めてすぐに感心した。セットアップに時間はかからないし、柔軟性がある。さまざまな言語が使えるので、国籍を問わない当社の受付に喜ばれている。」彼は言う。「顧客関係管理がSaaSサービスに移行するまでは、我々は社内のソリューションを使っていて、満足できていなかった。」

 企業向けソフトの大御所たちはSaaS市場に向けて準備を整えている。オラクルは複合的なCRMを「OnDemand」と名づけて提供している。そのうちのいくつかは完全なSaaSだ。この有名なCRM製品に刺激され、salesforce.comでは自社のSaaSノウハウを人事や会計の分野に拡大しようと考えている。Google Inc.の個人向け無料アプリケーションは、法人向けに対応できるよう強化される見込みだ。サーチエンジン界の覇者は、既にグーグル・プレミア(企業向け)の製品を通して有料SaaSサービスの実験を行っている。マイクロソフトはMicrosoft Dynamics CRMを持っているが、これは完全なSaaSアプリケーションとして提供されているわけではない。少なくともまだ提供されていない。強大なインストール版のOSと、強力なサーバー・顧客ベースで培った法人ユーザーの信用を武器に、マイクロソフトは近いうちに既存のSaaS提供者に対する確かな脅威となるであろう。

 第二段階のSaaSアプリケーションは、社員が自分のデスクで、自宅のパソコンで、もしくは携帯ツールで仕事をする際の生産性を上げるのに役立つ。これらSaaSサービスはシングルタスク向きだ。しかし兄貴分の企業向けSaaSと同じように、同じSaaSを基盤としオンデマンド原則のもとで動く。次の企業向けソフトに関して決める予算会議の前に、SaaSアプリケーションを使ってみると調子よく仕事ができるということを頭に入れておこう。以下に挙げるアプリケーションがシンプルで楽しく、ためになる。



 SaaSに関して多少なりとも知っておくと、意思決定者はソフトの営業担当者が来たときに正しい決定を下すのが楽になる。但し、SaaSを導入したいと思ったら、これも覚えておこう──古い技術と費用効果の証明されたモデルから離れる時と同じく、新しい技術を取り入れる時には、予想もしていなかった問題が起こるものだ。

(2007.07)
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